国王と王太子
到着後そのまま謁見室へと通された。
謁見室の前でセバスチャンにシャールを預け、わたしとエリオットの二人で中へと入る。
国王様と王妃様はすでに玉座に座っていた。
赤い絨毯を途中まで進んだところでエリオットが跪いたから、わたしもそれにならう。
「国王陛下におかれましては、ますます…」
エリオットが挨拶の口上を述べようとしたところで、国王様の声がかぶってきた。
「堅苦しい挨拶はよい、面を上げよエリアス。長い見聞の旅、ご苦労であった。今後は国のためにその知識を活かすがよい」
「はい、仰せのままに」
そこへ、女性の優しい声が響く。
「エリオット、大きくなりましたね。ここを出たときはまだ少年のようだったのに、今ではすっかり立派な青年だわ」
王妃様の声ね。
エリオットの実のお母さんはエリオットが15歳のときに病死していると聞いているから、王妃様はエリオットとは血がつながっていないはず。
会うのも久しぶりのようだけど、口調から察すると関係は悪くなさそう?
ずっと顔を伏せたままそんなことを考えていたら
「そなたが噂の魔女か。面を上げよ」
と突然呼ばれて、わたしは勢いよくパッと顔を上げた。
国王様と目が合う。
射貫くようにこちらを見ているその顔はとても厳しそうで威圧的だ。
「スズキアリサと申します」
さっきまでの開き直りとは打って変わり、か細い声しか出なかった。
「異界の魔女か」
そう言いながら国王様は玉座から立ち上がり、わたしのほうへ近づいてきた。
そして身をかがめると、不躾にわたしの首に下がっているペンダントに手を伸ばした。
引きちぎられるんじゃ!?
と思ったそのとき、ペンダントヘッドの祝福の石が鈍く光り、パチンと音がして国王様の伸ばした手を弾いた。
え?静電気・・・?
「触れることさえ許さぬか」
国王様は背を伸ばし、弾かれた手をさすりながらわたしを見下ろした。
「魔女よ、その祝福の石が本物であると証明してみせよ。海神の祝福を受けているのなら、あの海を鎮めることぐらいお手の物だろう」
えぇっ!?
エリオットの方を向くと、エリオットも困惑した顔でわたしを見ている。
「さっそく明朝。できなかったときは、国外退去とする」
エリオットがたまらず立ち上がる。
「父上、私とアリサの婚約を了承されたはずでは」
そんなエリオットに国王様は冷ややかに告げる。
「エリアスが魔女と連れ立って帰国することは認めたが、魔女との婚約を認めた覚えはないが?魔女よ、火刑ではなく国外退去で済むことをありがたく思え」
国王様はそれ以上エリオットの抗議を許さず、王妃様と共に謁見室から退室した。
あの人、エリオットのお父さんなんだよねぇ。こわかった。
謁見室を出ると
「アリィ」とエリオットがすかさず声をかけてきたが
「エリアス殿下、王太子殿下が執務室に来るようにとのご命令です」とお呼びがかかってしまった。
「今すぐ?どうしても?」
エリオットは食い下がったが、
「はい。陛下との謁見が済み次第即刻とのことです。アリサ様もご一緒に」
と聞いて、仕方なくため息をつきながら「わかった」と応じた。
「アリィ、あとでゆっくり話そう」
エリオットは情けない笑顔でわたしの肩を一瞬抱いた。
執務室に向かう途中で祝福の石におそるおそる触れてみた。
なんともない。さっきのは何だったんだろう?と思っていると
「その石、歓迎しない相手が触れようとすると拒絶するんだね」と小声で言いながら、エリオットがそっと石に触れた。
エリオットだと何ともない。
それに、この細工をしてくれた宝飾店の人たちも普通に触れていたはず。
わたしたちが進んで差し出した相手だったら大丈夫ってことかな?
さっき、もしも石が拒否しなければペンダントをひきちぎられて即刻強制送還になっていたりしたんだろうか……。
ランドールは、エリオットと母親を同じくする兄であり、この国の王太子であり、順調にいけば次期国王になる人だ。
王太子の執務室にある応接セットに、ランドールとエリオットが向かい合って座り、わたしはエリオットの隣に座っている。
王太子のランドールは、まるっきり父親似だった。
栗色の頭髪といい、鋭い眼光といい、居丈高な態度といい。
エリオットのお兄ちゃんだから、エリオットに似たおっとりキラキラ王子様かと思っていたんだけど、大間違いだったようね。
「エリアス、おまえ泣きそうな顔してるぞ」
ランドールがおかしそうに言った。
「父上が、海を鎮めることができなければアリィを追い返すって」
エリオットが顔を両手で覆ってうつむきながら言った。
二人の口調や雰囲気から察するに、仲のよさそうな兄弟だ。エリオットが完全に甘えている。
「それは当然だろう。『異界人』だという得体の知れない小娘がそんな石だけぶら下げて、何もせずに海神の祝福を受けた救世主を気取るつもりだったのか?それぐらいできるんだろう?」
ランドールが鋭い目つきでわたしを見る。
「さあ、わかりません」
わたしは正直に答える。
ランドールは一瞬「はぁ?」という顔をしたあと
「おい、魔女。オレと結婚するか?」
と、訳の分からないことを言い始めた。
そして、わたしのペンダントに手を伸ばしてきたのだ。
しかし、先ほどの国王様と同様、石が鈍く光り手が弾かれる。
まったくこの親子ときたら同じことをするんだから、なんてよく似ているんだろうか。
エリオットが横からわたしの肩を抱いて、祝福の石を握りしめた。
「だめだ、いくら兄さんでも譲れません。アリィは僕の婚約者だ」
ランドールはすぅっと目を細めた。
「ほう、エリアスはその石に触れても平気なんだな。つまりそれは、おまえが玉座を狙うということか?」
「まさか。海神様の予言には、救世主が国王になるだなんて一言もないでしょう。僕は兄さんを支え続けますよ。アリィと一緒に」
「…玉座に少しでも色気を見せたら、その命と魔女をいただくが、それでいいか」
「かまいません。そんなことにはなりませんから」
なんなの、突然兄弟げんかが始まったの?
わたしは物騒な内容のやりとりをしている二人の顔を交互に見ながら困惑していた。
「父上に殺されるのが先か、認められるのが先か、せいぜい頑張ることだな」
ようやく解放されたわたしたちは、新居へと向かった。
エリオットと一緒に暮らす予定の一軒家は、王宮の広大な敷地の一角にあるらしい。
迷子にならないように、よく覚えておかないと。
「王太子殿下はエリオットのお兄さんなんでしょう?似てないのね、顔も性格も」
「うん、容姿は兄さんが父親似で僕は母親似だとよく言われる」
エリオットのお母さんて、さぞや美人だったんだろうなあ。
「お兄さんて、初対面の女の子にいきなり求婚するような人なの?一体、奥さん何人いるの?」
「いや、兄さんは独身なんだよ。婚約者も…今はいない。ああいう人だからね、勘違いされやすくて、女の子に逃げられてしまうんだよね」
エリオットが苦笑する。
そうねぇ、ずいぶんと「俺様」なかんじだったものね。
王太子だからと飛びついてみたものの、音を上げて逃げ出したくなりそうよね。
人間関係もまだ全然わかっていないし、さっき兄弟で話していた内容は物騒だったし、わたし、ここでちゃんとやっていけるんだろうか。
いや、どっちみち、海を鎮めることができなかったら強制送還なんだっけ。
なんだかもう、それならそれでいいような気もしてきた。
「救世主」なんていう柄でもないし。
強制送還されたらルデルリーの王都の商業区で暮らせばいいんだわ。




