デート2
ケーキを食べ終えて少しおしゃべりしながらお腹を落ち着かせたあとは、エリオットが手配してくれていた馬車で森へと出かけた。
馬車に乗り込むと、見覚えのあるカゴとブランケットが座席に置いてあった。
「これって」
「うん、セバスチャンたちが、アリィにって用意してくれたんだよ」
中を確認すると、ホカホカの焼き芋が入っていた。
今日のデートのために、時間を合わせてニコラスとセバスチャンが作ってくれたんだろうか。
ブランケットはわたしがいつもひざ掛けとして使っていたものだった。こちらはレイラの気遣いだろう。
「もう、あの人たちったら…」
「みんなアリィのことが大好きなんだよ」
甘々カップルに焼き芋はないわーと、おかしさがこみ上げてくると当時に泣きそうになって目を伏せると、正面に座っていたエリオットがわたしの隣に移動してきて、肩を抱いてくれた。
わたしはそのままエリオットの肩に頭を預けて、ぴったり寄り添う。
気持ちが落ち着いたところで
「冷めないうちに焼き芋食べよう!」
わたしはウキウキしながらカゴから焼き芋を取り出した。
体がおばあちゃんになっていた時にセバスチャンが差し入れてくれたものの、あのときは美味しく食べることができなかった。
今なら思う存分かぶりつける。
甘々カップルのふりは、ちょっとお休みってことでね。
焼き芋を真ん中で割ると、ホカホカの湯気が立った。
片方を途中まで皮をむいて、はいっとエリオットに差し出すと、わたしの手を持ってカプっとかじりついてきた。
「暖炉で焼くとこんなに甘くなるの?おいしいね」と笑うエリオット。
この人は、焼き芋を食べても絵になるのか、最強だな。
商業区と居住区を離れ、馬車は森へと向かっていた。
風景が徐々に雪景色にかわっていく。
焼き芋をすっかり食べ終えて、お腹の中もほかほかだ。
「ああ、そういえば」
といってエリオットが体を一旦離し、自分のコートのポケットから小さな箱を取り出した。
「はい、プレゼント。開けてみて」
なんだろうと思いながら箱を開けると、そこには銀細工のバレッタが入っていた。
花のモチーフが4つ並んでいて、花の中央には緑色の宝石が控えめにはめこまれている。
さっき宝飾店で見たやつだ。
「アリィがこれを見ていたから、離れた隙に買っちゃった」と、ドヤ顔のエリオット。
いやいやいや、ちょっと待って。
宝石が控えめな大きさとはいえ、一体これおいくらだったっけ?あのショーケースの中はどれもびっくりするようなお値段のものばかりだったはず。
海神様の祝福の石の細工代金だって、とてもじゃないけどわたしが支払える金額ではなくてエリオットに頼ってしまったというのに、その上こんなものまでもらえないよ。
うろたえながらバレッタとエリオットを交互に見つめるわたしに
「もっと喜んでくれると思ったのにな」と不満げに言って、エリオットは箱からバレッタを取り出し、わたしの髪をすくってつけてくれた。
「ほら、やっぱり似合うと思った。アリイのその黒髪によく合ってるよ。普段からつけてくれると嬉しいな」
エリオットが嬉しそうに笑うから、ここで「いりません」と押し問答するのも野暮だと思って、内心ため息をつきつつ、ありがたく頂戴することにした。
「ありがとうエリオット。びっくりしちゃって、すぐに言葉が出てこなくてごめんなさい。大事にするね」
視線を窓の外に戻すと、いつのまにか一面の雪景色になっていた。
森へと続く一本道は両側に背の高い木が並んでいて、葉をすべて落とした枝にも雪が積もっている。
並木道の両側はどこまでも続いているんじゃないかと思うほどの真っ白な雪原が、太陽の光に照らされてキラキラと光っていた。
「わあっ、すごい」
思わず窓に飛びついて景色を眺める。
「僕の国は温暖で雪が降らないからね。帰国する前にこういう景色を見ておきたかったんだ。アリィと二人でね」
並木道をゆっくりと進む馬車の中で、わたしたちは手をつなぎ、体を寄せ合って、ときどき顔を見合わせては微笑みあい、幻想的な風景を眺めたのだった。
綺麗な王子様が自分のことを「かわいい」「好きだよ」と言ってくれて、高価な服や宝飾品をプレゼントしてくれたり、一緒にケーキを食べたり…これ以上ないぐらいの至福の時間。
幻想的な雪景色を眺めながら馬車の中でぴったり寄り添っていたわたしたちは、誰の目から見ても仲睦まじい甘々カップルだったにちがいない。
きっと今日のことを一生忘れないだろう。
しばらくの間は、今日のことを思い出してニマニマしながら暮らせそうだ。
「今日は素敵な思い出をありがとう」
帰りの馬車の中でお礼を言った。
もうすぐこの夢のようなひとときが終わる。
「エリオットは帰国したらどんなお仕事をするの?王様になるわけじゃないんでしょう?」
徐々に現実に引き戻されながら、今後のエリオットの人生に思いを馳せる。
「僕には母親が同じ兄がいてね、その兄さんが王太子で、母親の違う第二王子もいるから、普通に考えて僕が国王の座に就くことはないし、なりたいとも思っていない。
僕は外交の駒として中等学院を卒業した15歳のときから諸外国に留学しているんだ。
帰国後は語学力とこれまでの人脈と、いろいろ学んだ異文化を活かしながら兄さんの執務を手伝うことになるかな」
「見聞の広い人が次期国王の側近にいるのはとてもいいことね」
「ここだけの話、将来的には魔女の差別もなくしたいと思っているんだ。立ちはだかる問題は多いだろうけど、それを実現させるのが僕の目標だよ」
そしてエリオットは、なぜか咳払いをして姿勢を正して続けた。
「ローリンエッジの国王は、その血を絶やさないために妻を何人も娶るのが普通で、それは国王以外の王族にも許されているんだけど、僕は妻はひとりでいい」
あなたに愛される女性は幸せね。
そう思いながら、うんうんと頷く。
「だから」と言ってエリオットが急に、つないでいる手に力をこめたとき、馬車が止まった。
馬車が商業区に到着したのだ。
エリオットはそれ以上続きを言わずに、明らかに落胆した様子で、わたしをエスコートしながら馬車を降りた。
「なんでこうタイミングが」となにやらぶつぶつ言っている。
帰宅してこのつないでいる手を離したところで、甘々カップルデートはおしまいだ。
商業区の花屋の前を通り過ぎ、深紅のバラが視界に入ったときに、プリシラのことを思い出してこれまでの浮ついた気分がストンと沈んだ。
わたしのその様子をエリオットも気づいていたのか、薬屋の扉を開けて中に入った途端強く抱きしめられた。
「プリシラのことをきみが気に病むことはないんだよ。
情けないことに媚薬ですっかりその気になっていたけど、今ならはっきり言える、僕とプリシラの間に本当の愛情なんてなかったんだ。
それでもまだきみがプリシラのことを気に病んで負担に感じているのなら、その重い荷物を僕に半分わけてほしい」
わたしはエリオットの背中に手をまわして、その胸の中でひとしきり泣いた。
エリオットは何も言わずに、ただ優しくわたしの頭や背中をなで続けてくれた。
ようやく気持ちが落ちていて体を離す。
「エリオットとお屋敷のみんなを助けることができたのは、よかったと思っているの。でもまだ気持ちの整理がつかないの。
きっと少しずつ、時間がたつにつれて平気になっていくのかもしれないけど」
「僕についてローリンエッジに来てほしい。一緒に魔女への差別をなくしていくことが、プリシラへの弔いにもなると思わないか?」
「そうかもしれない。
でも、このプリシラの家を放っとくわけにもいかないし、貴重な魔法の本がいっぱいあるから処分するわけにもいかないわ。ローリンエッジに持って行って没収されても困るし。
…それにわたし、元の世界に戻れる方法を見つけたら、エリオットにも何も告げずに突然帰っちゃうかもしれないわよ?」
「里帰りってことで、ここの様子もたまに見に来るといいよ。家賃はもちろん僕が出す。
元の世界に戻ることよりも、僕のそばをもう離れたくないと思うほどにきみを惚れさせればいいんだろう?僕はきみのことを離さないよ」
どういう意味かしら、これはまだ甘々カップルごっこの続き?
と思っているうちに、
「アリィ」と名前を呼ばれ、エリオットがわたしの両肩に手を置いて、その綺麗な顔がせまってきた。
え?もしかしてキスされちゃったりする?
いくら甘々だからって、それはさすがにやりすぎじゃない!?
と驚いて目を見開いて固まっていたら、エリオットがわたしの耳元に顔を寄せて「今日はありがとう。たのしかったよ」と、少しかすれた声でささやいた。
うわーキスされるんじゃないかだなんて、勘違いした自分が恥ずかしい!
「こちらこそありがとう」
心臓がドキドキしすぎて、そう言うのが精いっぱいだった。
「5日後に僕の家のほうへネックレスが届くように手配してあるから、細工を確認してアリィに返すね。受け取りに来てもらってもいいかな。
そのときに、アリィがどうしたいか返事を聞かせて」
エリオットはそう言い残して帰っていった。




