〈8〉
「お疲れ様でした、さとしさん。私達相良技術学園は貴方の入学を許可します。今後の活躍をご期待いたします。」
にっこりと微笑む聖母のような彼女に、僕は深々と一礼した。そう、彼女は言ったのだ。
この学園に、陶芸室を作ってくれると…!!
フワフワとした銀髪に丸メガネの彼女は学園長。数分前まで僕に面接及び簡単な筆記試験を行ってくれていた。
僕の切なる願いを聞き入れ、叶えてくれるそのお姿には後光がさして見える。
「それでは、貴方のクラス担任をお呼びしましたので、後は彼の指示に従ってくださいね。陶芸室は、二日後には完成するはずです。」
「有りがたきお言葉!!」
興奮してそう答える中、扉をノックする音が聞こえる。
「イルヴァーンです。引き継ぎに来ました」
「どうぞ。お待ちしていました」
部屋に入ってきたのはひょろりと細長いという印象を受ける男だ。ぼさぼさの銀髪ではあるが、その顔の良さを感じられる。
「さ、さとしです。これからよろしくお願いします。」
「イルヴァーンだ。困ったことがあったら声をかけろ。面倒なことはするなよ。」
口の端を曲げながらそう言うと、教室行くからついて来いと進む彼。
いつしか時刻は十二時半。転入生の紹介にしては、場違いな時間なんじゃないだろうか。
「あ、あの。今クラスの皆さんに紹介されるんですか?」
「ああ。丁度訓練前で皆教室にいるからな。調度いいだろ。」
人生で転校など経験したことのない僕は、それはもうどきどきしていた。
「よし、着いたぞ。俺に続け。」
先生がガラガラと教室の扉を開けた瞬間、中の騒音はピタリと止んだ。
「転校生だ。仲良くしてやれ。ほら、自己紹介。」
教室中の視線が僕に集まった。男女比7:3といったところか。
「さとしといいます。よろしくお願いします。」
そんなありきたりな挨拶を述べると、まばらな拍手が起こった。
先生を見やると、部屋の一角を指さした。
「お前の席あそこな。トマ!面倒見てやれよ」
「はい!がんばります!」
声だけ聞こえたが、どの人物が発したのか、よく分からなかった。
「時間だ。訓練出るやつは死なないようにな。今日の戦闘禁止区域は朝言った通りー…」
連絡の声が聞こえる中、僕は指示された席に向かった。好機の視線が集まる中、椅子に座る。すると、
「えっと!初めまして!こっち、ここだよ!」
空席だと思っていた隣の机から声がした。よくよく見ると、キーホルダーか何かだと思っていた羽のついた小さな女の子がぴょこんぴょこんと飛び跳ねている。
「…え、ふぉわ!?!?」
女の子はその羽根でパタパタとサトシの顔の前まで近づき、ペコリと頭を下げた。肩の上で小さく2つに結ばれた蜂蜜色の髪が揺れる。
「驚かせちゃってごめんなさい!トマっていいます。お隣なので、お世話係になりました!よろしくね、さとしくん」
「よ…妖精?」
「よ…!!ちがうよ〜」
慌てて顔の前で手をパタパタさせるトマさんのその姿は、明らかに物語に出てくる妖精そのものだった。
「えっと、外に行った時、姿を変える呪いをかけられちゃって…」
「呪い?」
「そうなの!虫王子っていうのがいて…、最初なんて蟻の姿だったんだよ〜。でもね!」
興奮したように詰め寄る彼女は、満面の笑みで続ける。
「真野ちゃんが頑張ってくれたから、この姿になれたの!いつか元の姿に戻してくれるって、言ってくれたんだ〜」
えへへ、と笑うその表情は幸せそうだ。
ここに来ても真野か。真野の逸話は絶えることはないのか。
午後の訓練を休み、学園を案内してくれることになったので、彼女に続き僕は教室を出た…のだが、
「ほ、ほんとにごめんね!長い距離飛ぶと、疲れちゃうから、いつもみんなの肩とかに乗せてもらってて…」
「あ、全然大丈夫ですよ」
僕の肩に乗った彼女は頬を膨らませると、敬語いらない〜と呟いた。
僕も敬語がデフォという訳ではないのだが、ついつい、ここに来てから敬語になってしまう。
…小心者のなせる技だろうか。




