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陶芸部の日常  作者: もち
三大義務
23/33

〈7〉



「ただいまー」

「……ただいま」


外が暗くなってきたな、とぼんやり考えていると、玄関から帰宅を告げる二人の声が聞こえた。

僕は手を止めそちらへ向かう。



「おかえりなさい。お疲れ様」


僕の姿を見るなり、フードさんは驚いたような表情を見せた。



「な…。田中さん、エプロンなんかつけて何してんです…か?」



「お腹、空かせて帰るんじゃないかと思って、簡単なものですが勝手にご飯を…」


話す途中で真野が笑顔になった。一方フードさんは不服そうに、私がこいつに劣るはずない、などとぶつぶつ呟いている。自炊生活十年を舐めないでいただきたい。



「それじゃあ着替えてくるから待ってて。すぐ戻る。」


軽い足取りで部屋に向かう真野を、思わず引き止めてしまった。不思議そうに首を傾げる彼女。とても画面の向こうで地を駆け剣を振るう様には見えない。



「真野は…、なんで、なんで戦うの?怖く……ないの?」



思わず口を継いで出たその言葉に、真野は優しく微笑んだ。



「怖いに決まってるよ。でも、守りたいから。」



いつの間にか、フードさんは部屋に戻ったようで、辺りには静寂が満ちている。



「さとしにここの三大義務を教えてあげよー。」


「へ?」


突然のその空元気な声に、アホ丸出しな僕の声。



「その一!人類勝利のためにその身を尽くし貢献すること。その二!次の世代への保護及び育成!」



少しの間が空く。ゆっくりと吐き出した息と共に、真野は続ける。



「そしてその三…。幸せになること。私の幸せは、大切な人達が笑顔でいることだよ。だから、それを守るために私は戦う。それだけだよ」



今度こそ踵を踵を返し部屋に向かう真野を、僕はただ呆然と見送った。

ここに来てから、僕はぼんやりとしてばかりだ。


いろんなことがありすぎて、頭も体もついていかない。以前読んだ異世界召喚小説では、主人公は即座に世界に馴染んでいた。


実際には、そんなことありえなかった。僕は僕のまま。何も変わらず、何も出来ない。



戻ってきた二人と共に夕食をとり、入浴を終え、ベットに横になる。



「僕はどうして…ここにいるんだろう」



本当に心の底からそう思う。もっと屈強だったり、特別な力がある者は、沢山いただろう。少なくとも僕を選ぶ理由はない。



暗い気持ちを払うように頭を振ると、僕は瞼を下ろした。



明日は学園の視察。くよくよ悩んでいても仕方がない。考えるな、感じろと、師匠が言っていたではないか。


そんな思いを浮かべながら、僕は静かに眠りについた。





━━━━━━━━━━━━━━━━━



「田中さん!起きてください!!」



突然全身に感じた痛みに目を覚ますと、フードさんが冷たい目線を送っていた。その手には、僕のかけていたふかふかの掛け布団。


どうやら彼女に、布団を剥がれベットから落とされたらしい。


寝覚めの悪さはやはりここに来ても変わらないのか…っ!



寝ぼけながらそう考えていると、声が掛かる。


「…ちっ、やっと起きましたか。もう七時半ですが、約束のお時間は?」



!?!?!!


「七時四十五分です!!有り難うございます起こして下さって!!」



「……昨日のごはんの、お礼です」



フードさんがなにか呟いたように感じられたが、慌てて部屋を飛び出した僕の耳にはよく聞こえなかった。


それどころではない。あの強面の和佐さんの事だ。約束に遅れでもしたら締められる事は必至だろう。



「ぐおおおおお!!」



朝は全く力の出ない僕だが、命の危険を感じ懸命に支度を進めた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━



「お、おほよう…ござ、います…」



息を切らしながらそういう僕に、眉間の皺を濃くした和佐さんは、挨拶を返してくれた。


「こっからも割と近いし、歩いてくぞ。」


「は、はい!」



ずんずんと歩いていく和佐さんに続き、僕も前に進む。途中ですれ違う人の中には、和佐さんに頭を下げたり、視線を合わせないようにしたり、恐れているような雰囲気の人も多かった。



「…真野は、怪我してなかったか?」


「は…、はい!お元気そうにしていましたよ?」


「右足捻ってたからな。冷やしとけって言っとけ」


「…へ?よく見てるんですね」


驚き思わず声をかけると、うっせーよと、露骨に顔を背けられてしまった。その耳は心なしか赤い。深くは触れないようにしよう。



そんなやり取りをしながら二十数分。目の前に向かい合うようにして建つ、二つの建物が現れた。1つは煉瓦造り、もう一つは鉄筋むき出しのコンクリート調である。



「料理とか被服系はこっち、鍛冶や金属を扱うようなのはそっちだが…。お前はなんだ、強いて言うならコンクリ棟だろうな」



初日だから付いてきてくれるという和佐さんの好意に預かり、僕はコンクリートの建物へと向かった。



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