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陶芸部の日常  作者: もち
新生活
11/33

〈4〉



赤いカーペットの敷いてある荘厳な階段を登ると、いくつかのドアがあった。


真野は、右から数えて二番目、『腕章課』のドアを開いた。


「へ…?真野先輩、どうしたんすか!!?」


ドアを開けるなり一人のオレンジ色の髪の男が素っ頓狂な声をあげた。黒縁メガネにセットされた髪。なんとなくチャラそうな印象を受ける。


「あれれ、なんでバレたの。結構わかんないと思ったんだけどな」


「いやいや、黒セーラーに黒腕章ロングヘアーとか、真野伝説の始まりスタイルじゃないっすか、バレるっす」


三つ編みと眼鏡があるじゃない、不満そうに呟きつつ、僕を隣に呼んだ。


「こちら、記憶喪失のさとしくん。この子の腕章をお願い。」


あ、こっちは中学のころの後輩、まっきーだよ。と、僕に卒なく紹介して、真野は近くの椅子に腰を下ろした。


まっきーくんは僕の顔をじーっと眺めている。

なんだかここに来てから会う人みんなに眺められている気がする。


「準備してくるっす。下で渡された登録書、書いといてください」


そう言うと、隣の部屋へ向かうまっきーくん。

真野は、先ほど引き抜いた紙の1枚を僕に手渡した。『腕章登録書及び誓約書』と書かれたその紙に、名前や各種同意の旨を書けということらしい。


裏面には、入浴時や就寝時以外の腕章の着用義務や、壊れた際の再発行の仕方などが、あっさりと書かれていた。


「真野は、中学生の頃から黒だったんだね…」


伺うと、真野の表情は一瞬曇った。


「そう。まあ3年の終わりの頃にようやくなったんだけどね。」


「黒腕章の方って、他に何人いるの?」


「私、ふーちゃん、ジャージ、メリーの他に、今のところはあと2人。」


さとしも目指してみたらと、真野は笑った。僕がなれるわけないじゃない。


そうこうしている内に、まっきーくんが忙しなく部屋に戻ってきた。


「お待たせしたっす。お、書類書き終わってるっすね。こちら、腕章になりまっす」


彼の手には青い小箱が載せられていて、僕に見えるようにパカリとそれを開けてくれた。

中には、なにやら透明な、薄い寒天のようなものが1枚入っていた。


「こ、これが腕章…?」


なんだか触れるのが恐ろしい。


「つけたら、その人の初期値を算出して、色が浮かび上がってくるから。その時普通の腕章の形になるから安心して。」


初期値だなんて、僕は確実に白になるだろうな。


「真野は最初、何色だったの?」

「……ひみつ。でも、最初から高かったのなんて、牛乳くらいだよ。あれだけ緑スタートだもん。次がふーちゃんで赤だったかな」



つくづく僕は、恐ろしい相手と暮らすことになったなあ。



「じゃ、じゃあ…つけます…。」


恐る恐る触れると本物の寒天のような、少しひんやりとした手触りがした。

二人からの熱い注目の中、左腕にそれをそっと乗せた。次の瞬間、凄まじい光が発せられ、僕は思わず目を閉じた。


「あっれー?おかしいっすね」


まっきーくんの声に目を開けると、僕の腕には形こそ腕章のそれになった、透明な物体が巻き付いていた。


「ん、なんだろ。長いこと眠りこけてたから、接触悪いんじゃない?」


真野が適当に答えたようだが、これは他の世界の僕には扱えないものだったのではないだろうか。


「ま、きにしないでください。ごく稀にこういうこともあるっすからね」


そう言うと、まっきーくんはひと粒の薬を差し出した。まさか飲めと言うんじゃないだろうか。


「えー、正規の方法に則ると、ここで緩衝薬を飲んでもらうことになるんすけど、先輩、一応保護者として、確認もらっていいっすか?」


「おっけー」


そう言うと、真野は、大丈夫だから安心してと、僕に囁いた。


なにはともあれ今の僕には、真野に従うしか生き延びる方法はないのだ。そう覚悟を決め、薬を口に放り込む。


ごくん。


「ぐ…ぐぇぉぉおおおお」


「いや、効果あるの2,30分後っす。先に武器取り行って、また来てもらってもいいっすか?」


「はーい。ありがとう」


そう言い、歩きだす真野。


咆哮をあげた僕が恥ずかしいじゃないか。




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