第122話:【実食】唐辛子蜥蜴の極旨スパイシースペアリブBBQ&地熱クラフトコーラ
ジュワァァァァァァァッッッ!!!!
溶岩洞窟の静寂を切り裂く、暴力的なまでの焼き音が轟いていた。
赤熱する黒曜石の熾火の上に渡された、特製の黒曜石格子網。
その上で、ジャンの特製『火炎唐辛子BBQソース』をたっぷりと纏った《火炎唐辛子蜥蜴》の極厚骨付きスペアリブが、香ばしい脂を滴らせながら激しく躍動していた。
滴り落ちた透明な脂が炭火に触れるたび、パチッと青白い火花が散り、濃密な白い煙が立ち上る。
ジャンは左手に持った刷毛を職人技のリズムで操り、焼き上がりに合わせてタレを二度塗り、三度塗りと丁寧に重ねていく。
火炎唐辛子に含まれる濃厚な天然果糖が、摂氏の炭火によって瞬時にメイラード反応とカラメル化を同時に引き起こし、肉の表面を艶やかな飴色のクリスピーな被膜でコーティングしていくのだ。
洞窟内に充満したのは、焼けた大豆醤油と生姜の香ばしいアロマ、野生柑橘の爽快な酸気、そして唐辛子の刺激的な熱風の香気。
もはや、ただ匂いを嗅いでいるだけで口の中に唾液の洪水が溢れ出し、胃袋が痙攣しそうになるほどの強烈なシズル感であった。
「よし……最高の焼き色だ! 中まで完璧に火が通ったぞ!」
ジャンがトングで骨の端を掴み、大皿の上へと豪快にスペアリブを盛り付けた。
長さ30センチ、厚さ5センチを超える超巨大な骨付き肉。
表面はパリッと香ばしい飴色に焼き固まり、包丁で入れた格子状の切れ目からは、透明な黄金色の肉汁がジュウジュウと泡を吹いて滝のように溢れ出している。
「う、美味そうすぎるニャーーーッ!! もう一秒も我慢できないニャ!」
「骨ごと掴んで、豪快にかぶりつけ!」
バルツの合図と共に、ティオとニーナが両手で熱々の骨を掴み、大きな口を開けて肉の塊へと一気に喰らいついた!
そして――。
サクッ……ジュワワワワワワワワワッッッ!!!!
「「「うっっっっっっっっっっっっまーーーーーーーーーーーーーいっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」」」
二人の絶叫が、溶岩洞窟の天井を激震させた。
「な、なんだこの肉はぁぁぁっ!? 皮がパリッパリなのに、中の肉が鶏肉みたいに繊維が細かくて、信じられないくらい柔らかい!! そして……甘い!! 最初にフルーツみたいな甘みがジュワッと広がって……その直後に、カプサイシンの強烈な辛味がドカンときたぁぁぁっ!!」
「ニャあああああああっっ!! 辛いニャ! でも甘いニャ! 旨味が凄すぎて、舌が痺れるのに噛む手が止まらないニャーー!! 骨の周りのゼラチン質が、ぷるっぷるで熱々で、噛むたびに天国の味がするニャ〜〜〜!!」
二人は骨にかじりつき、口の周りを真っ赤なタレまみれにして夢中で肉を引き裂いていく。
骨膜に付着していたコラーゲンが、地熱の炭火によって極上のゼラチンへと変性し、骨髄から染み出したイノシン酸の濃厚なエキスと絡み合って、噛めば噛むほど奥深い旨味が口内に溢れ出す。
シェリルも上品にフォークと小刀で切り分け、熱々の肉片を口へと運んだ。
その瞬間――。
「んんっ……! は、はふぅぅぅ……っ! か、辛いですわ……! ですが……何て奥深く艶やかな甘美なのかしら……!」
シェリルの陶器のような白い頬が一瞬にしてリンゴのように真っ赤に染まり、額からツーツーと大粒の汗が吹き出した。
「火炎唐辛子の果糖が、お肉のタンパク質を極限まで柔らかく分解していますわ……! 舌を刺すような鋭い辛味があるのに、柑橘の酸味と生姜の清涼感が後味をさっぱりと包み込んで……全身の毛穴が一気に開いて、お腹の底からマグマのような力が湧き上がってきますわ!」
だが、唐辛子の本気はここからであった。
二本、三本と食べ進めるうちに、ティオもニーナもシェリルも、全身から滝のような汗が噴き出し、口の中が火を吹くような心地よい激辛の猛烈な熱気で支配され始めたのだ。
高濃度のカプサイシンがアドレナリンを急速に分泌させ、心拍数を高め、体温を急上昇させていく。
「か、辛い……! めちゃくちゃ美味いけど、口の中が燃えるようだぜ……!」
「お水……冷たいお水が欲しいニャ〜〜!」
「待ってましたと言わんばかりだな。ほらよ、こいつで口を洗え」
バルツがニヤリと笑い、冷たい露を結んだ竹筒のグラスを全員の前へと差し出した。
注がれたのは――シュワシュワと心地よい炭酸の泡を吹き上げる、琥珀色の冷たい飲み物であった。
「……バルツ殿、これは一体……?」
「風穴から湧き出る天然の微炭酸冷泉水に、野生の柑橘果汁、温感生姜、火焔香草の種、そして黒曜石の天然黒糖を煮詰めたシロップで割った『地熱クラフトコーラ』だ。氷晶石でキンキンに冷やしてあるぞ」
「「「ごくっ……ごくっ……ごくっ……ぷはぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」」」
全員が一気にグラスを呷った。
その瞬間、炭酸の細やかな微炭酸の刺激と、柑橘のペクチン、ハーブの清爽なアロマが、燃え盛る口腔内を一瞬にして清涼な嵐で洗い流した!
生姜のショウガオールが胃壁の粘膜を優しく保護し、炭酸ガスが血中の乳酸を急速に分解していく。
「う……うまい……!! 生き返るぅぅぅっ!!」
「辛いスペアリブの後に、この冷たくてスパイシーな甘いコーラ……! 無限に肉が食えるぜ!!」
「ニャハ〜! お口の中がスッキリして、またお肉が食べたくなったニャ!」
辛い肉を喰らい、冷たいクラフトコーラで流し込む。
カプサイシンによる発汗と、電解質・糖分の急速補給が、細胞の疲労を瞬時にリセットする。
大自然が生み出した悪魔的なまでの『無限ループ』。
宮廷料理長のジャンは、自らが調合したソースと、バルツのクラフトコーラのマリアージュに、打ち震えながら涙を流していた。
「完璧だ……! カプサイシンがアドレナリンを分泌させ、クラフトコーラの炭酸と糖分が脳の疲労を一瞬で吹き飛ばす……! 灼熱の過酷な地底を生き抜くために、これほど完璧に計算されたBBQがこの世にあろうか……!」
隣でルキウスもまた、監査官としての冷静さを完全にかなぐり捨て、無言のまま四本目の骨付きスペアリブにかじりつき、クラフトコーラを喉を鳴らして飲み干していた。
(くそっ……何だこの美味さは……! 身体の底から熱い力が湧いて止まらん……! 王都の料理など、この男たちの前にはただのゴミ屑ではないか……!)
十数本の巨大スペアリブは、瞬く間に骨だけを残して平らげられた。
全身から心地よい汗を流し、火炎唐辛子の滋養で満たされた一行の身体には、灼熱の熱気をも圧倒する無尽蔵のエネルギーが漲っていた。
だが――洞窟の出口の向こうから、突如としてゴボゴボという凄まじい熱湯の沸騰音と、純白の硫黄蒸気が激しく吹き込んできた。
洞窟を抜けた先に広がっていたのは、黒曜石の奇岩に囲まれた、直径30メートルを超える巨大な天然熱湯源泉――『沸騰の湯神池』であった。
水温は優に摂氏を超え、普通ならいかなる水生生物も生息できない死の熱湯プール。
だが、その白濁した湯気の底を、太さ30センチ、長さ2メートルを超える巨大な黒い影が、悠然と魚体をくねらせながら泳ぎ回っていた。
バルツの背中の古傷が、熱湯の激しい水しぶきに共鳴するように、チリチリと鋭利な熱気を放つ。
魔境が育んだ驚異の熱湯の怪魚――新たな大解体劇の幕が、今まさに堂々と上がろうとしていたのである!!
未知なる美味の深奥へ、狩人たちの歩みは止まらない!




