猫のイタズラって事?
さて、急なんだが今日は東京に、観測史上最大級の超巨大台風が接近していた。
ニュースでは、アナウンサーが半泣きで避難を呼びかけている。
『この規模の台風が突然発生するのは極めて異例で――』
「はいはい、いつものね」
俺、古賀真尋はスマホをポケットにしまう。
原因なら知っている。
一時間前。
登校中の天羽ねむりが、コンビニ前でこう呟いたのだ。
「今日の体育マジでだる……」
その瞬間、晴天だった空に黒雲が湧いた。
もう嫌な予感しかしなかった。
◇
「という訳で、本日は休校なのです!」
担任の言葉に、教室は歓声に包まれる。
「よっしゃあ!」
「神台風!」
「映画行こうぜ!」
お前らは知らない。
この台風、たぶん女子高生一人のやる気のなさで出来てる。
俺が頭を抱えている横で、当の本人はぼんやり窓の外を見ていた。
「ラッキー」
ラッキーじゃねえ。
窓の外では校庭のフェンスが吹き飛んでる。
こんな世界の異常を人間は慣れ始めていると思うと適応能力って凄いなと他人事の様に俺は思った。
◇
「真尋カラオケ行こー」
「…………なんでそうなる」
「休校だから」
ねむりは当然みたいに言った。
「こんな異常気象の中、カラオケなんて行くわけ…!」
結局俺は断りきれずに駅前へ向かう。
もし仮に、これがラノベで、俺が主人公だったら読者はヘタレって思うかもしれない。
そこで俺という一人の漢を擁護する為に一つ例え話をするが目の前で癇癪を起こすゴリラに巫山戯んな!って言うような感じだぞ?
もし読者であるお前にそんな度胸があるなら主人公になれる!俺と代わろうじゃないか!
と無意味な妄想をしながら俺は歩く。
暴風雨のせいで人は少ない。
ビルのモニターには緊急速報。
道路は冠水寸前。
空は昼なのに真っ暗。
終末映画か。
そのくせ隣のこいつは、
「ポテト食べたい」
とか言ってる。
「なぁ、ねむり危機感ないの?」
「あるよ」
「ほんとに?」
「ポテト売り切れてたら嫌だなって」
ここで一句
激しい雨
傘より先に
胸が泣く
真尋、心の俳句。
◇
カラオケ店は異様に空いていた。
というか、店員が避難したそうな顔をしていた。
部屋に入るなり、ねむりはソファにだらっと倒れ込む。
「は〜、落ち着く」
その瞬間。
どごぉん!!
近くに雷が落ちた。
建物が揺れる。
「お前なぁ!!」
「え、今の私!?」
「だらけた瞬間に雷落とすなよ!何処の頑固オヤジだ!!」
本人は本気で偶然だと思っている。
そこが一番怖い。
◇
数十分後。
ねむりはマイク片手にアニソンを熱唱していた。
俺はSNSで台風の状況を調べつつねむりの歌に合いの手を入れる。
すると、台風の進路が急に逸れ始めた。
『台風、突如東へ進路変更』
『上陸回避の可能性』
おお!ねむりのストレスが解消されていってる!!
このままいけば台風を完全回避できる!!
よし、更に盛り上げてねむりのストレスを完全に発散させてやる!!
「真尋も歌えば?」
「いいだろう…ねむり、俺の本気見せてやる!!」
「なに、凄いやる気じゃん」
俺はマイクを手に取りキリッとした顔で
「俺がエゴイストだ」
と言い全力で歌った。
◇
「はぁ、はぁ……どうだ、ねむり」
「すごい、本当に感動した。原作再現スゴすぎ」
どうやらねむりのご機嫌をとれたようだ。
人類代表としていい仕事をしたんじゃないか?と自画自賛していると急に、ねむりが真顔になった。
「……あ」
嫌な予感。
「スマホ、家に忘れた」
その瞬間。
ぶつん、と停電した。
「んなぁぁんでだよお!!」
店内から悲鳴が上がる。
非常灯が赤く点灯し、遠くで何かが崩れる音まで聞こえた。
ねむりは暗闇の中で目をぱちぱちさせる。
「え、怖……」
「お前がな!?」
「私じゃないって!」
絶対お前だよ。
◇
しばらくして、店員が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「お客様! 申し訳ありません! 現在原因不明の停電と通信障害が――」
そこで部屋の電気が戻った。
「あ、え??復旧した……?」
お、思ったより早かったな。
「だ、大丈夫そうですけど、もし何かあったらすぐ呼んで下さいね?……なんだったんだぁ??」
店員は首を傾げながら出ていく。
俺はゆっくり、ねむりを見る。
「……なあ」
「なに」
「正直スマホ忘れて不機嫌になった?」
「……………ちょっと」
「通信障害起こってたぞ今」
「偶然じゃない?」
便利な言葉だなおい。
「あ」
「どうした」
「スマホポッケにあった」
俺は数秒黙った。
「…………」
「…………」
「じゃあ今の何だったんだよ」
「知らないよ」
次の瞬間。ヴヴヴと通知音がなった。
通信障害もなおったようで安心だ。
その通知の内容はニュース速報だった。
『先ほど発生した大規模通信障害、原因は“猫によるケーブル損傷”』
画面には、ケーブルに絡まった一匹の三毛猫が映っていた。
店内が微妙な空気になる。
ねむりが吹き出した。
「ふふっ、なにそれ。可愛い」
俺は頭を抱える。
……たぶん、通信障害は本当に偶然だったみたいだ。
でも。
「いや絶対ねむりのせいだろ……」
そう悪態を呟いた瞬間、窓の外で雷が鳴った。
「すいません、疑ってまじですいません」
世界は今日もぎりぎりで存続している。
今日も俺はねむりの機嫌を取るために生き延びる。
人類代表として。たぶん。




