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8話

「いやー、良かった良かった。見つかって。本当に探したんだぜ? というわげ行こうさあ行こう。この場からすぐに離れようそうしよう」


「え、ちょっ、恵!?」


 そしていきなり僕の手を引っ張って連れて行こうとする恵。

 エリスもいるってのになんで急ぐんだ!?


「おっと、そうは問屋が卸しませんよ」


 戸惑いを隠せずにいるなかで、急に身体が静止した。

 僕の意志で止めたわけじゃない。反対の手がエリスによって掴まれたからだ。


「チッ、エリスか。邪魔しないでよ。ボクはテツに用があるんだ」


「そんなに慌てなくてもいいじゃないですか。私もテツくんに用があるんです。久しぶりに会ったんですから、ゆっくりとお話したいんですよね。恵さんもどうです?」


「ボク、別にエリスと話すことなんかないんだけど。さっきも言ったけど、今はテツに用があるんだ。後にしてくれる?」


「そうですか、私にも話すことがありますからこれは平行線ですね。となると、優先権は私の方にあります。後から割って入ってきたのはそっちですからね」


……なんでだろう。幼馴染たちの間から、バチバチッって音が聞こえた気がする。

 

「相変わらず口が減らないねエリスは」


「口は減るものじゃありませんよ。そのお胸の方は以前より減ったようですが」


「減ってなんかないよ! クソッ、ボクよりデカくなったからって露骨に見下しやがって……そういうところが嫌いなんだ……」


「そうですか。私は恵さんのこと好きですよ。煽り耐性ないから面白いですし」


「ハァッ!? あるけど!? めっちゃボク我慢強いですけど!?」


 どっちも露骨すぎるほど喧嘩腰だ。なんでこんなに空気が悪くなってるのか、僕にはまるで分からない。 


「いや、全然ないじゃないですか。今普通にキレてますよ」


「キレてなんかない! 普通ですー! ボクめっちゃ普通ー! はいボクの勝ちー!」


 ……恵、悪いけどそんなこと言ってる時点で完敗してるよ……。

 そもそもエリスは幼馴染のなかで一番口が達者な子だ。口喧嘩で勝てるわけがないのは、恵だってよく知ってるだろうに。 


「はいはい。じゃあここは恵さんの勝ちということで、どうぞ勝者の方はこの場からお引き取りください。邪魔ですので」


「へへっ、そう? じゃあそういうことなら遠慮なく……」


「あっ、勿論テツくんは置いていってくださいね? 勝ったのは恵さんですが、テツくんは関係ありませんから」


「それじゃ意味ないじゃん!? 茶番に付き合わせないでよこのヤロー!!」


 ……なんか見てるだけで頭が痛くなってくるやり取りだな、これ。

 居た堪れなくなってきたのもあって、いい加減蚊帳の外から脱出するべくふたりに声をかけることにした。


「あの、ふたりともちょっといい?」


「なんだい、テツ。女同士の間に入ってくるなよ」


「なんですテツくん。ちなみに私は横やり大歓迎ですよ。ふたりまとめていじってあげます」


 嫌そうな顔を向けてくる恵と、嫌すぎることを言ってくるエリス。

 五十歩百歩な気がするのは、やはり幼馴染としてどちらのこともよく知ってしまってるが故だろうか。


「いじらなくていいし、とりあえず恵も落ち着こうよ。そんなんじゃ話すことも出来ないじゃないか」


 どちらを選んでも疲れる結果しか待ち受けていないことは分かりきっているため、とにかく中立に徹することにした。


「むぅ……」


「まぁ正論ですね、このまま無為に時間を使っていたら、昼休みが終わってしまうでしょうし」


 恵はまだ言いたいことがありそうだったが、とりあえず納得してくれたのか、ひとまずは推し黙った。

 そのことに安堵しながら、僕は改めてエリスに話を促すことにした。

 

「じゃあエリス。話したいことがあるんだけどいいかな?」


「あら、恵さんより私のことを選んでくれるんですか?」


「まあ、元々エリスには用があったからね。恵は同じクラスだからいつでも話せるし」


 特に深く考えることなく、思ったことを口にした途端、強烈な殺気が僕を襲う。


「…………」


 見ると、恵が僕のことを射殺すような目で見てくるではないか。

 瞳からハイライトも消えてるし、はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。

 

「あの、恵? なんでそんな負のオーラを出してるの……?」


「そんなに銀髪がいいのか黒髪こそが王道だろうが胸だってボクも大きいし負けてないし性格だっていいし。エリスはなんかドヤ顔しているけど、ボクの方がテツと相性いいからな。エリスは別のクラスになったけどボクは一緒のクラスになったんだぞ。つまりこれって、ボクとテツは運命の赤い糸で結ばれてるってことじゃん。だから問題ないしテツはボクを選ぶし絶対選ぶしそうに違いないし」



「ひぃっ! な、なんか長文でブツブツ言ってる……」


 明らかに僕の声が届いていない。

 一人の世界に入っている恵にどうしたものかと思っていると、ちょんちょんと肩をつつかれる。



「テツくん、恵さんのことは放っておいて、ここは一旦離れましょう」


「え、でも……」



「昼休みが始まってからもうそれなりに時間が経ってます。いくらひと気がない場所がないといっても、そろそろ誰か来てもおかしくありません。ただでさえ玲奈さんのことで噂になっているのに、ここで更にややこしいことになるのはテツくんだって嫌でしょう?」


「それは確かに……」


「まぁどうしても恵さんが気になるというなら別にいいですけど。その場合、私たちの姿を誰かに見られたら……ふふっ、テツくんはどうなってしまうんでしょうね。今度は幼馴染相手に三股している男子がいる、なんて噂になるんじゃないですか?」


「よし今すぐこの場を離れようそうしよう」


 エリスの含みを持たせた台詞を聞いて、僕はすぐこの場を離れることを即決する。

 エリスだって玲奈に並んで人気のある美少女なのだ。

 その容姿から元々注目されやすいうえに、今は恵も一緒にいるとなれば、大きな誤解を生みかねない。

 ただでさえ玲奈のことで色々聞かれて辟易してるっていうのに、これ以上はごめん被る。

 いろんな女の子に手を出してるクズ野郎の汚名なんて、絶対被りたくないぞ……!


「なら善は急げですね。手早く移動するとしましょうか」


 そう言って、僕に背を向けるエリス。着いてこい、ということなのだろう。


「ああ……」


 なんだか上手く乗せられた気がしないでもないけど、今の僕に選択肢はない。

 大人しくエリスの後ろを着いていくことにしたのだった。


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