7話
エリスは昔は引っ込み思案な女の子だった。
周りと違う髪の色のことで、よくいじられていたのが原因だったかもしれない。
可愛いのにいつもどこかおどおどしていて、周囲の顔色をよく伺っていたことは今でもよく覚えている。
そんな彼女と仲良くなったのは、たまたまひとりで遊びに行った公園で、泣いているエリスを僕が見つけたのがきっかけだった。
その時のエリスの状態は酷いもので、綺麗な髪が砂にまみれてしまっていた。
ついていた砂を落としながら、泣きじゃくる彼女に辛抱強く話を聞いてみると、どうやらひとりで砂場で遊んでいるところにやって来た子たちにいじめられたらしい。
勿論僕は大いに怒った。
そんなことをするなんて許せないと、幼いながらに思ったものだ。
遅れてやってきた玲奈や恵にも事情を話すと、彼女たちも僕と同様怒りに怒り、即座にその子たちを見つけて喧嘩をふっかけ大乱闘を繰り広げた。
その後、エリスはいじめられることもなくなり、僕らと一緒に遊ぶようになったのだ。
とまぁ、これだけなら良くある美談としていい思い出になったんだろうけど……。
「ふ、ふふふ。男の子を弄ぶの楽しい……ストレス解消にもなるし、さいっこうです……!」
……なにをどう間違ってしまったのだろうか。
いつの間にかエリスの性癖は、思いっきり歪んでしまっていたらしい。
なにがきっかけなのかは分からないが、相手に気があるような素振りを見せて男心を弄び、それを見ながら愉悦するのが至上のものとなってしまったのだ。
(昔のこともあったから強くは言えなかったけど……こうして見ると恵の言う通り、もう立派な悪女だよ……)
仮にここが異世界だったら、エリスは婚約者から王子を奪って後々断罪されるポジションであることは間違いない。
「玲奈だったら忠告で済むかもだけど、あれじゃあ簡単に改善なんて無理だよぁ。どうしたら……」
「なにがどうしたらなんですか、テツくん」
「って、うわぁ! い、いつの間に!」
いきなりエリスに話かけられ、思い切り飛び上がってしまう。
そんな僕を見て、くすくすと小さく笑うエリス。
「ふふっ、驚きすぎですよ。テツくんは変わりませんね」
「……そういうエリスも変わってないようだね。色々と」
からかわれたのがくやしくて、つい皮肉っぽい言い方で返してしまうも、それでエリスも察したらしい。
笑うのをぴたりと辞めると、僕の顔をまじまじと見つめてくる。
「あら、もしかして見てたんですか?」
「まあ、ね。言っておくけどわざとじゃないよ。ここでご飯を食べていたら、たまたま聞こえてきちゃってさ」
「ふむ、まぁ確かにこの場所じゃ仕方ないですね。告白スポットとして最適ではありますが、ちょっと見晴らしも良すぎますし」
言いながら軽く辺りを見回すエリス。
あっさりと納得してくれたことは良かったが、その言い方にはちょっと引っ掛かるものがある。
「……エリスはこの学校の告白スポットを他に知ってるの?」
「ええ、定番の屋上。校舎裏。あとは地味に校庭の隅にある大きな木とかでも告白されましたね。なんでも成功すると、ふたりは永遠に幸せなカップルになれるそうですよ」
ベタですよねー、なんて満面の笑みを浮かべるエリスを見て、僕は思わず頭を抱えそうになる。
(こ、これは駄目だ。玲奈と違って告白されることに全然気を病んでない。むしろ楽しんでるじゃないか……!)
明らかに駄目な方向に突き進んでいる幼馴染に戦慄するも、こうしている場合じゃない。
玲奈の時は出来なかったけど、せめて忠告くらいはしないと駄目だ。
「あ、あのエリス? そういうの、もうやめよ?」
「そういうのとはなんでしょう? 言っていることがよく分からないのですが」
「だ、だから男を弄ぶ真似をするのは辞めようって言ってるんだ! そんなことしてたらいつか痛い目に……」
「嫌です」
「即答!?」
まさかハッキリ断らされるとは。
思ってもいなかっただけに、流石に驚かずを得ない。
「だって楽しいんですもん。私を見る彼らの目。好きだと口に出さずとも書いてある顔。実は私も自分のことを好きなんじゃないかという空気。一度堪能したらやめられませんよこんなの」
「うわあ……欲望ダダ漏れだあ……しかも内容が最低すぎる……」
とても美少女が口に出していいことではない。
いくら顔が良かろうと、許される限度というものがある。エリスの発言はもう完全にライン超えだ。
告白した男子がこれを聞いたらブチギレても文句の言いようもないだろう。いくらなんでもひどすぎる。
「大丈夫ですよ。これでも相手は選んでいるつもりですから」
「こっちの思考読まないでくれる? ていうか、それはそれでタチ悪いんだけど。別の意味で安心出来ないよ?」
「フフッ、テツくんが分かりやすいんですよ。ちなみにテツくんも対象だったりするんですよ?」
「えぇ……」
「もっと言えば、一番のお気に入りだったりします。テツくんはいいリアクションしてくれますからね」
「そんなこと言われても微塵も嬉しくないよ……」
こんなげんなりする褒め言葉があるだろうか。
久々の幼馴染との会話に、早くも疲れていると、
「あ、テツ。こんなとこにいたんだ。探したよ」
「え、恵?」
見慣れた黒髪の幼馴染が、ひょっこりと現れた。




