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6話 銀の幼馴染

 玲奈と会った次の日の昼休み。僕はひとり、学校の中庭にいた。

 理由は教室に居づらかったからとしかいいようがない。

 どうも昨日玲奈に引っ張られていたところを目撃した生徒が多数いて、それがあっという間に広がり、噂になってしまったらしかった。

 いくら玲奈が距離感の近い子だとはいえ、流石に直接的な行動に出たとあっては話は別だと言うことなのだろう。

 

「うぅ、酷い目にあった……あんなに質問責めに遭うとは思わなかったよ……」


 朝から休み時間のたびに僕と玲奈がどういう関係なんだとか付き合ってるのかだのといったことをたくさんの人に根掘り葉掘り聞かれて、僕は早くもクタクタになっていた。

 まぁ聞きたくなる気持ちはわからないでもない。

 入学早々男子を振りまくっている噂の美少女が、冴えない男子の腕を引きながら歩いていたのだ。

 そりゃ誰だってどういうことか気になるし、知りたいと思うものだろう。

 とはいえ、実際に色々言われるほうとしてはたまったもんじゃなかったのだけど。

 女子は勿論、男子からも鬼気迫るような表情で問い詰められた時は本気で生命の危機を感じたものだ。

 

「こういう時助けてくれる恵は今日はなんかやたら不機嫌だったしなぁ。僕、恵になんかしたっけ?」


 そっちについては全然心当たりがないんだけどなぁ。

 視線を向けても無視するし、あれじゃお昼ご飯も一緒に食べるつもりはなさそうだと判断し、授業終わりのチャイムが鳴って早々に教室を後にして逃げてきたというのがここまでの顛末だった。


「聞いてこなかった人たちもなんか恨めしそうな顔で僕のこと見てきたし……はぁ、もしかして嫌われちゃったかな」

 

 思わずため息をついてしまったのは、高校生活が早くも暗礁に乗り上げてしまったことを本能で察してしまったからだろうか。

 入学して間もないというのに、男子の友達を作れないかもしれないというのは大誤算もいいとこだ。

 ちょっと玲奈の人気を舐めていたかもしれないな……なんて思っていると、


「突然呼び出してごめん。実はどうしても伝えないことがあって……」


「ん?」


 突然声が聞こえてきたので振り返ると、ふたりの男女が中庭の隅に立っていた。

 男子の声は震えていて、緊張しているのは明らかだ。あのシチュエーションを見れば、これから何が行われるかなんて考えるまでもないだろう。


「あっちゃぁ。あれ、明らかに告白しようとしてるやつじゃんか……」


 そりゃあここはあまり人気も無いし、誰かを呼び出して告白するには丁度いい場所と言えるかもしれないけど……。

 まだ時間も早いから僕みたいにご飯を食べてる人だっているだろうし、もうちょっと時間をズラしてから告白しても罰は当たらないんじゃないかなと思ってしまうのは良くないことなんだろうか。


(参ったな。流石に人の告白してる場面を見るのは気まずすぎるよ。さっさと移動しよ……)


 仕方ない。ここで向こうの邪魔をするのも野暮というもの。

 覗き見する趣味もないし、空気を読んでさっさと退散することにしよう。


(とりあえず図書室にでも行ってみるかな。あそこなら多分質問とかされることもないだろうし)


 そんなことを考えながら、そそくさと食べかけだったお弁当を片付けようとしたのだが、

 

「お、斧崎さん! 俺、君のことが好きなんだ! どうか付き合って欲しい!」

 

(んん? 斧崎?)


 あまりにも聞き覚えがある名前に、思わず動きを止めてしまう。


「まさかね……」


 違っていて欲しいと思いつつ、再度男女へ目を向けるが、嫌な予感ほど当たるというやつだろうか。僕の予想は的中することになる。


「すみません、貴方の告白を受けることは出来ません」


 そう丁寧に告白を断りながら頭を下げるその子の髪は、銀の色を帯びて陽光をキラキラと反射していた。

 聞こえてくる声にもちょっと覚えがありすぎる。

 丁寧な言葉遣い。明らかに日本人とは異なる髪色。ゆっくりと上げた顔の、凄まじい整いっぷり。

 全ての特徴が、僕の記憶にある彼女のそれと合致する。


「あ……そ、そうなんだ。す、好きな人がいるとか?」


「そういうわけではないんです。ただ、今は誰とも付き合う気になれないと言いますか……本当にごめんなさい」


「い、いや、いいんだよ。そっか、うん。来てくれてありがとう。じゃあ俺はこれで……」


 肩を落としてそそくさと去っていく男子の顔には、どこか気まずい色が浮かんでいた。

 完全に脈無しだと分かってしまったからだろう。事実、遠目から見ていても分かるくらいには、やんわりと拒絶しているのが伝わってきたくらいだ。

 そのことに同情の念を抱いていると、その場に残された彼女の身体が小さく震えた。

 振ってしまったことに罪悪感を抱いているのだろうか……なんて思っていると、


「フフフ……またひとり撃沈させてしまいましたね。我ながら中々の名演っぷりです」


 ガバッと顔を上げ、キラキラした瞳で自分に酔いしれるかのように笑みを浮かべた。


「ああ、私はなんて罪作りなんでしょう。あんなに泣きそうな顔をさせてしまうなんて……でも、フフッ。やっぱりとっても楽しいです。これだから男の子をいじるのは辞められませんね」


 どうやら震えていたのは笑いを堪えていたかららしい。

 発言からして、罪悪感なんて欠片もなさそうだ。

 両手で顔を押さえながら恍惚の表情を浮かべてる。

 というか、めちゃくちゃ楽しそうだ。

 思わず僕はガクリとくる。


「ぜ、全然変わってない……エリスはエリスで相変わらず過ぎるよ……」


 その子の名前は斧崎エリス。

 男をからかい弄ぶことが趣味という、あまりにもタチの悪すぎる僕にとって三人目の幼馴染にあたる女の子だった。

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