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第26話

「善は急げです。店員さん、どうか撮ってください。なんならハートマークも作りましょうか? ホラ、テツくん指をハートの形にしてください。恋人アピールは大事ですからね。さぁハリーハリーハリー!」


 なんでこんなに昂ぶっているんだろうか。

 僕には分からない。というか、分からないほうが多分いい気がする。


「えぇ……ちょっと乗り気すぎない?」


「いいじゃないですか。損するわけでもあるまいし、むしろ割り引きになるんだからお得でしょう?」


「それはまぁそうだけどさ……」


 納得はしつつも半ば呆れた目をつい幼馴染に向けてしまうのは、致し方ないことなのではないだろうか。

 そんな僕らのやり取りが可笑しかったのか、店員さんはまたもクスリと笑うと次の提案を口にしてくる。


「ふふっ、本当に仲がいいですね。実はもうひとつお願いがあるのですが、おふたりの写真をうちのSNSに出来ればあげたいですよね」


「えっ、ネットにってことですか?」


「ええ。本日のベストカップルという企画を日替わりで投稿していまして。これが結構評判いいんですよ」


「ベ、ベストカップル!? 私たちが!? そう見えますか!?」


「ええ。すっごく」


「へ、へぇぇ。じ、実に見る目がある方じゃないですか。え、えへへへ……」


 なにやら凄い食いつきを見せるエリスだったけど、多分これに関してはお世辞だと思うよ……。

 だって顔はともかく、エリスは挙動不審もいいとこだし。まぁ思っていても言わないのが優しさというものなのだろう。


「それで、おふたりを本日のベストカップルとして投稿出来ればなぁと。その場合、こちらのパフェは無料で提供させて頂きます」


「えっ、いいんですか!?」


「はい、なんせ顔出しで投稿させてもらうわけですから。特におふたりは見たところまだ学生のようですしね。まぁ私もアルバイトなので、ふたりとあまり歳は変わらないと思いますけど」


 無料という言葉に思わず食いついてしまうが、これは確かにデカい。

 なんせ一食分が浮くわけだから明日以降にも余裕が持たせられるわけだ。

 実は今月密かに買いたいゲームもあったから、節約できるならそれに越したことはないわけで……。


(でも顔出し……いや、でもわざわざお店の投稿なんて見る人は早々いない、よね?)


 心の天秤がみるみるうちに提案に乗るほうへと傾いていくのが自分でも分かった。

 勿論楽観的な考えであることは分かっている。でも、考えてみればたかが写真を撮るだけだ。

 それに注目する人なんて、どれくらいいるっていうんだ?

 うん、いないさ。そうに決まってる。……よし。


「えっと、じゃあお願い出来ますか?」


「いいんですか!?」


「ええ。その代わり、写真写り良くして貰えたら助かります」


「勿論! 良い写真を撮らせて頂きます!」


 了承が取れたことがよほど嬉しかったのか、綺麗な笑みを浮かべる店員さん。

 それを見ただけで、OKを出して良かったと思えてくるのだから我ながら現金だ。


「さて、それじゃあどんなポーズ取ればいいです? やっぱり自然な感じで……」


「あ、出来れば、あーんって食べさせる感じのところを撮らせてもらってもいいですか? 初デートのカップルである面を強調したいので!」


「えっ? あ、あーんですか?」


 思った以上にハードルが高い要求だ。

 ある意味ハートマークを作るよりキツイんじゃないか?

 エリスだってこれは流石に……。


「あーん」


「って、はやっ! もうポーズ取ってる!」


 まだこっちはなにも準備が出来ていないというのに、大きく口を開けているエリスに僕は戸惑う。

 

「あの、エリスさん? もう少し迷いってものは……」


「あるわけないじゃないですか。ホラ、早く食べさせてください。証拠は重要なんですからね」


 だから証拠ってなにさ……。はぁ、まぁいいや。

 店員さんを待たせるのも悪いし、後のことは後で考えることにしよう。

 スプーンを手に取りパフェの先端を軽くすくうと、それをエリスの口元へと運ぶ。


「じゃあはい、あーん」


「いただきまーす。あむっ、ふふっ、やりましたよ。勝ち確です。おいしっ」


 パクリとカフェを口にしてなにやらご満悦な様子のエリスを尻目に、店員さんへと目を向けると、彼女は微笑みながら指でOKのサインを作っていた。どうやら問題なかったようで、そのことにひとまず安堵する。


「はい、バッチリです。いい絵が撮れましたよ。早速アップさせて貰いますが、確認しますか?」


「いいです。見たら色々恥ずかしくなりますので」


「あはは。分かりました。それではこっちで勝手にやらせて頂きますね」


 軽くスマホを操作し始めた店員さんから目を離し、僕はエリスへと向き直る。


「じゃ、僕も食べさせてもらうかな。なんか一気にお腹減ってきちゃったよ」


「あっ、なら今度は私が食べさせてあげますね。テ、テツくん。ホラ、あーん」


「いや、自分で食べるからいらない……」


「ハァッ!? 私のパフェは食べられないっていうんですか!? こ、恋人なのに! テツくんのくせに生意気です!」


「別にエリスのパフェじゃないでしょ、それに恋人は……いや、今はややこしくなるからもういいや……」


 騒ぎだしたエリスをスルーして、僕はパフェを満喫することにしたのだった。


「ふふっ、仲のいい子たちだなぁ。……よし、アップロード完了っと。あっ、もういいねが付いた。泉の女神さん……? 誰だろ、常連さんではないよね。ご新規さんかな?」

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