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第25話

「エリスエリス、帰ってきて。ホラ、店員さんが来たよ」


「ふぇっ?」


 呼びかけると、普段からは考えられない気の抜けた声を出すエリス。

 まるで夢から醒めたような反応だったけど、本当にそうなのだとしたらちょっと怖い。

 まぁ実際ちょっとトリップしてたのは間違いないんだけど……いや、今はそのことは置いておこう。

 少しよだれまで垂らしていることも目を瞑る。だらしない顔をしているところをあの店員さんに見られるのは僕のメンタル的によろしくないので、まずは身支度を整えてもらうことのほうが優先だ。


「とりあえず、口元を拭って。僕のハンカチあげるから」


「えっ、あっ、はい。ありがとうございます……」


 ポケットから取り出したハンカチを渡すと、エリスは口元にそのまま当てて軽く拭う動作を見せた。

 言われるままにやっただけという感じで目の焦点は相変わらずぼやけたままだし、よく分かっていない様子だったが今はとりあえずこれでいい。

 直後やってきた店員さんに、あの顔を見せずに済んだというだけで十分だ。


「お待たせしました、当店特製パフェでございます」


「あっ、どうもありがとうございます」


 愛想よく笑う店員さんに、こちらからも笑顔で返す。

 この店員さんにが綺麗な人であるというのも勿論あったが、ここ最近幼馴染以外の人たちから冷たく接させることが多かったため、余計にこの人の感じの良さが心に染み入ったのだ。

 ほんっっっとうにここ数日は色々ありすぎたため、人の優しさというものに飢えていた部分があったのかもしれない。


「ふふっ、先ほども言いましたが、少しサービスして量と盛り付けのデザートを少し多くさせてもらいました」


「えっ、いいんですか?」


「勿論、あまりよくはありません。ですから、このことは私たちだけの内緒ですよ」


 そう言って、軽くウインクしてくる店員さん。

 その微笑みに、僕は胸が撃ち抜かれた気がした。 

 守りたい、この笑顔。例え営業スマイルだったとしてもそう思ってしまうのは、果たして間違っているのだろうか。いや、そんなはずはない。嘘でもいい、嘘でもいいんだっ! だってすっごく嬉しいから!


「は、はい。勿論です。エリスもいいよね?」


「スンスン、スンスン。このハンカチ、しゅごいぃぃぃ……テツくんの匂いが濃い……わたし、もうここに住みましゅうぅぅ……」


「え、なに。怖いんだけど」


 ちょっと目を離しているうちに、何故かエリスは僕のハンカチを鼻にあて、思い切り深呼吸を繰り返していた。

 目も妙に潤んでいる。まさか興奮しているんじゃ……? い、いや、そんなはずない……と思いたい。


「エ、エリス。お礼、お礼を言って、とりあえずさ」


「あ、テツくん。ハンカチありがとうございましゅ。大切に保存させてもらいますね」


「いや、僕にじゃないから。店員さんにだから。あとそれあげないから。後で絶対返してね」


 本当はそのままあげても良かったんだけど、あれを見た後だと返してもらわないと一気に安心出来なくなった自分がいる。

 とりあえず僕の言葉に一度正気を取り戻したのか、エリスは今気付いたかのように店員さんを見ると、ペコリと小さく頭を下げた。


「えっと、ありがとうございます」


「いえいえ。あ、それでですね、おふたりにちょっとご提案があるのですが」


「はい? なんですか?」


 そんなことを言われるとは思っていなかったため、思わず聞き返すと、店員さんは制服のポケットから大きめのカメラを取り出した。

 サイズからしてデジタルカメラというわけではなさそうだ。多分、即座に写真が出てくるインスタントカメラだろう。


「その、写真を撮らせてもらってもいいでしょうか? このパフェをご注文頂いたお客様に許可を頂けたなら、お店の入り口に飾ることになっているんです」


「飾る、ですか」


「ええ。所謂宣伝材料というやつですね。勿論タダでとは言いません。撮らせて頂きましたら、パフェの料金を割り引きさせて頂きます」


「割り引きかぁ……」


 にこやかに話す店員さんに、僕はどう返答するか少し迷う。

 正直、僕のような陰キャにとって写真をお店に飾られるというのはあまり好ましいことじゃない。

 まして、ここには学校の生徒も訪れるのだ。エリスの話が確かなら彼女の友人たちもちょくちょく来ているようだし、エリスとふたりで写っている写真を見られたりしたらまた面倒なことになりかねない。


(とはいえ、割り引きっていうのは素直に魅力的なんだよなぁ。なんせこれからあと二日は他の幼馴染とも出かけるわけだし……)


 今持ってるお小遣いから考えると、正直結構厳しいと思っていたから出費を少しでも減らせるのなら助かるというのもまた本音。

 さてどうするべきだろう……そう頭を悩ませていると、


「撮りましょう、テツくん」


「エリス?」


「私たちふたりの! ツーショットを! 撮るんです! 恋人であることを見せつけてやりましょうそうしましょう!」


 誰に?とは聞き返せなかった。

 あまりにもエリスがノリノリ過ぎて、言うタイミングを失ったから。

 ……エリスって、こんなアグレッシブな子だったっけ?

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