第24話
「……ふぇっ!?」
少し遅れて、エリスが素っ頓狂な声をあげる。
「こ、こ、恋人って、テツくん……」
「あれ? 違ったっけ。僕らこの前恋人になったばかりじゃん。そうでしょ?」
笑みを作りながらそう言うと、エリスは大きく目を見開いた。
おそらく、僕がこうも堂々と嘘をついていることに驚いているんだろう。
確かにこういったことを言うタイプではない自覚はあるが、僕だって成長しているのだ。
特にここ数日は色々あったし、これくらいの嘘なら余裕でつける。
……開き直ったとかは言わないで欲しい。割と自覚あるし悲しくなるから。
「あら、そうなんですか? じゃあ今日が初デートだったり?」
「ええ、実はそうなんです。彼女がここのパフェが人気あるから食べたいっていうので来たんですよ」
「なるほど! それはありがとうございます。それなら腕によりをかけて美味しいパフェを作らないといけませんね」
「あはは、期待してます」
「ええ、任せてください。初デートということでしたら、彼女さんにとってもいい思い出にならないとですもんね」
笑みを浮かべながら、店員さんがエリスへと話を振った。
顔を真っ赤にさせて茹でダコみたいになっていたのもあってか、一瞬反応が遅れた後、目をパチクリさせながらゆっくりと顔をあげる。
「……へっ? か、彼女……?」
「あら? 違うんですか?」
「い、いえ! そ、そうです。私、私が……テツくんの彼女、です……」
何故か言葉が尻すぼみになっていったけど、何度もコクコクと頷きながらエリスは俯いた。
どうやらよほど恥ずかしかったらしい。まぁいつも男子をからかってばかりいたから、こういうことの耐性はないのかもなぁ。
ちょっと珍しいものを見た気分になっていると、店員さんが堪え切れないとでも言うかのようにクスクスと笑みを零す。
「ふふっ、いいなぁ。青春って感じで。彼氏さんが羨ましいです」
「えっ、僕がですか?」
思わず聞き返す。
こういうのって普通、彼女さんが羨ましいって言うものじゃないの?
「ええ。だってこんなに初々しい反応する子、滅多にいませんから。それも凄く可愛いとか、もうレアもレアですよ。彼女さんのこと、大事にしてあげてくださいね」
「はぁ……」
まぁ確かにレアではあると思うけど、彼女ではないんだけどなぁ……。
そう思っていると、
「店員さん、注文いいですかー?」
「あっ、すみません。すぐ伺います。……ごめんなさい、少し話し過ぎてしまいましたね」
「あ、いえ。大丈夫です」
「ありがとうございます。こちら飲み物もセットとなっておりますので、そちらの注文も伺ってもよろしいでしょうか?」
「あっ、じゃあメロンソーダを食前で。エリスは?」
「こ、紅茶を一杯……」
「かしこまりました。では、すぐにお持ち致しますね。ふふっ、少しサービスもさせて頂きますので、どうぞごゆっくり」
少しばかりの長話の後、店員さんは別のテーブルへと向かっていった。
流石というべきか。結構話し上手な店員さんだったなぁ。
スラスラとこちらが喜ぶようなことを言ってくれるのは、正直有難かった。
「さて、と。じゃあ待ってる間に少し話でも……」
「ふ、ふふふふ。彼女。彼女に見えたんだ。私が、テツくんの彼女に……と、当然ですね。そのために色々頑張ってきたわけですし。とはいえ、やはりどうにも喜びを抑えるのは難しく……え、えへへへへ」
「まっ、出来ないよね。うん、知ってた」
またもや別の世界にトリップし始めたエリスを見て、僕は小さく嘆息する。
大体予想はついていたけど、今日のエリスとはまともに会話を交わすのはちょっと難しそうだ。
「しょうがないか。エリスがこんなんだし、スマホでも見て時間を……ん?」
ポケットからスマホを取り出すと、画面にメッセージが表示される。
送ってきたのは……玲奈か。なんとなくどんな内容なのかは察しがつくけど、エリスがいるタイミングで見ていいものかどうか……。
「彼女に見えるってことは、色々やっちゃっても問題ないわけでぇ。だって彼女なんですから、合法ってやつですしぃ。た、食べ合いっこなんかしたりしちゃって……ふ、ふふふ。これは勝った。もう勝ちましたよ。大勝利ってやつです。やっぱり最後に笑うのはこの私なんですよね。へへへへへ」
「ま、いっか。確認っと」
どう見てもエリスはこっちを見てないんだから、僕だってスマホに注力しても問題ないだろう。
そう判断し、スマホをタップし会話画面を開く。
——虎鉄、どう? エリスから叱られて泣いてたりしない?
途端、目に入ったのは僕を心配する玲奈からのメッセージだった。
ただ、書いてある内容についてはちょっと文句を言いたいところだ。
返答するため、スマホにメッセージを打ち込んでいく。
——泣いてるわけないでしょ。ていうか、なんで僕が泣いてる前提なのさ。
——おっ、返信早い。なになに、もう終わったの? エリスのことだから、てっきり今日は一日中虎鉄のこと振り回すと思ってたんだけど。
——それは間違ってないけど、今のエリスはちょっと話せる状態じゃないっていうか……自分の世界に入っちゃってるんだよね
——あー……なるほど。ああなるとあの子長いもんね……
——分かってくれてなによりだよ。
流石幼馴染というべきか。こういう時話が早くて助かる。
理解のある友人に感謝したいところだ。
——じゃ、当分はひとりの時間を満喫ってわけ?
——まぁそんなとこかな。今お店にいるから注文の品が届くまでの間限定だけどね。
——へーそうなんだ。あっ! そうだ! そういえばあたし、明日行きたいお店あるんだよね。
——そうなの? どこ?
玲奈って結構食べるからなぁ。女の子に対してはちょっと失礼かもしれないけど、玲奈はこういうお店に来るイメージはあんまりないし、定食屋かファミレスあたりだろうか。
——えへへ。それは行ってみてからのお楽しみってことで。ただ、ふたりでないと食べれないとこみたいでさ。せっかくだから虎鉄と行きたいなって思って。
——ふーん。まぁいいよ。それでお説教少なくなるから助かるし。
——それ余計な一言! まぁ今日はエリスに譲るけど、くれぐれも変なことしちゃ駄目だからね……もしあたしと遊ぶ前になにかしたら、許さないから。
うっ……こ、怖いことを言うなぁ。
最後はちょっと本気さを感じたぞ。ま、まぁ幼馴染としての忠告ってことだよね?
——心配しないでよ、エリスとはただの幼馴染だからそういうのないって。
——信じてるからね……じゃ、また明日。
——うん、それじゃあ。
別れの言葉を打ち込んでスマホから目を離す。
「ふー……なんか早くも疲れたなぁ。明日はあまりご飯食べないようにしておくかな」
ふたりで食べるような食事となると、結構な量を食べることになるかもしれない。
そんな覚悟をしつつ、エリスの方へと視線を向ける。
「わ、私を食べたい!? やだ、テツくんたら大胆なんですから……で、でもいいですよ。私はテツくんのものなので……い、言っちゃいました。いつか言ってみたい台詞ベスト5の台詞をついに……! え、て、テツくんも私のもの? あぁ、今度は言われてみたい台詞ベスト5の言葉が……」
「……楽しそうでいいなぁ、ホントに」
エリスは相変わらず自分の世界に浸っているようだったが、厨房の方からさっきの店員さんがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。




