第23話
「ふふふ、そして私たちは恋人になってぇ、玲奈さんや恵さんが悔しがる顔を見てぇ、勝ち名乗りを上げてそのまま役所に婚姻届……」
「…………」
列も大分進み、現在僕らはお店の一番前に立っていた。
そのこと自体はいい。問題はその間エリスはずっとこんな感じだったということにある。
凄い美少女が到底人に見せられないようなだらしない顔をしながら、視線を宙に彷徨わせているのだ。
それはかなり異様な光景であり、エリスの容姿についてあれこれ聞こえてきた声も今となってはもはやない。
現にこれまでお店から出てきてきた何人かのカップルも、一瞬エリスの容姿に視線を惹かれるも、直後にぎょっとした顔をして去って行くのを繰り返していたの記憶に新しかった。
幼馴染の僕ですら話しかけるのも躊躇う空気を出していたのでこれまで放置していたのだが、流石にそろそろ限界かもしれない。
「駄目ですよぉ、いくら私が可愛いからってそんなのぉ。え、そんな私のことも好き? て、照れちゃうじゃないですかうへへへ」
一体エリスは誰と会話しているんだろうか。
ハッキリ言って怖い。なんなら一緒にいるのが恥ずかしいまである。
さっきまでとは真逆の考えに至った僕を、誰が責められるというのだろう。
「ねぇエリス、もうすぐ呼ばれそうだからそろそろ戻ってきてくれない?」
だが、人はやらなければならない時があるのは確かだろう。
店員さんが来てからでは遅いと思い、勇気を出して話しかける。
「えぇそうですね。そろそろ私たちの寝室に戻って……って、えっ?」
「あ、良かった。戻ってきてくれたっぽい」
とりあえず最初の一声でなんとかなったことに安堵する。
いやぁ、これで駄目だったら肩をゆするなりしないと駄目そうだったもんなぁ。
良かった良かった。
「えっ、ええっ、ここはどこです? 私たちはハネムーン先のホテルで初夜を迎えるところのはずでは……?」
「なにを言ってるのかよく分からないけど、今はまだ昼前だよ。あと、スイーツ屋さんの前だからホテルとかじゃないから」
「そ、そんな馬鹿な。さっきまでの出来事は、全て私の妄想だったとでも……!」
「うん、そうだよ。現実を見ようね、エリス」
うろたえているエリスに思い切り冷静な返しをするけど、僕は間違っていないと思う。
「うぅ、そんなぁ……全ていちからやり直しなんてあんまりですよぉ……」
「次のお客様どうぞー」
「あっ、丁度店員さんが呼んでるよ。エリスも早く店に入ろうよ」
「む、無視しないで。私を置いていかないで。スルースキルなんて身に着けないでくださいテツくん……」
ガックリ肩を落としながらも、ヨロヨロと着いてくるエリスがちょっと可愛いと思ったのはここだけの秘密だったりする。
◇ ◇ ◇
「へぇ、如何にもお洒落なお店って感じだなぁ」
席に通され、ようやく席に座ったことで僕は改めて店内を見渡した。
如何にも改装したばかりといった様子のお店のなかはかなり明るく、清潔感に満ちている。
流れているBGMも落ち着いたもので、会話を妨げるような派手さはない。
席は決して多いとは言えないけれど満席で、ほぼカップルか女性同士の客ばかりだ。
まぁこの手のお店は男だけでは入りにくいのはあるあるだと思うけど、客層的に問題なくお店を回せてるのは確かだろう。
ざっと見渡しただけでも人気が出そうなお店であるという印象を強く受けた。
「ふふっ、もう、キョロキョロしすぎでふよテツくん」
「あ、ごめん。こういうところって慣れてなくてさ。全部新鮮に見えちゃうっていうか」
ようやくいつもの調子を取り戻したのか、エリスが上品に笑いながら僕のことを窘めてくる。
……こうして見ると本当にお嬢様のようで、さっきの奇行はなんだったのかと言いたくなるな。
またあれやられたら困るから言わないけど。
「まぁ中学の時はこういったお店には来ませんでしたものね」
「そうだね。エリスはよく来たりするの?」
「いえ、クラスのお友達に誘われて2、3回ほどです。そこまで足繁く通ってるわけではありませんよ」
「へぇ……クラスの友達か」
それはなんとも羨ましい。
分かっていたことではあるけど、エリスもちゃんと自分のクラスメイトとコミュニケーションを取れているということか。
早くも友人が作れなくなったことが確定した僕とは大違いだな……うっ、ちょっと泣けてきた。
「テツくんのほうは……えっ、な、なんで泣いてるんですか」
「気にしないで。ちょっと目にゴミが入っただけだから……いやそもそも僕自身がゴミかぁ…ふ、ふふふ……」
「あ、あの、あまり気落ちしないでくださいね?」
エリスに同情されつつ溢れてきた涙をゴシゴシと拭っていると、コップも持った店員さんが僕らの席へと近付いてくる。
「はい、お水です」
「あ、どうも」
「ご注文のほうはお決まりでしょうか? まだのようでしたらまた後でお伺いにきますよ」
「あー、えっと……」
テーブルに置かれているラミネート加工されたメニュー表をチラリと見る。
そこにはエリスのお目当てであるカップル限定のパフェがデカデカと載っており、これを頼めと言わんばかりの圧を発していた。
「それじゃあこれください」
「あっ、カップル用のパフェですね。ありがとう御座います。今これウチで一番人気のあるメニューなんですよー」
「あっ、そうなんですか」
「はい、頼む人たちが多いから大変で。あっ、念のために確認したいのですが、おふたりはカップルということでよろしいですよね?」
店員さんが僕とエリスに交互に視線を移らせる。
というか、エリスさっきから全然喋らないな?
見ると顔を真っ赤にさせてるし、なんか固まってるようだ。
(……まぁ、ここで否定するのは空気読めてなさすぎだよな)
エリスが答えられる様子じゃないし、ここは僕が返事をするしかないだろう。
「そうです。僕たち、恋人なんですよ」
店員さんを見ながら、僕は軽く頷いた。




