第22話
「で、エリスはなにか食べたいものとかあるの?」
並んではみたものの、当然ながら僕はこのお店のメニューなんて全く知らない。
店の前には看板メニューらしいパンケーキの写真が大きく飾られているのが見えるし、それが目当てなんだろうか。
「えーとですね。私は……」
そう思っていたのだけど、エリスは何故か視線を泳がせていた。心なし動揺しているようにも見える。
(どうしたんだろ? なにか言いにくいことでもあるのかな)
僕らの後ろにも既に何組か並んでいる。もしなにかあるようなら早めに列を抜けておかないと迷惑になるだろう。
そう思い、エリスに話しかけようとした時、後ろに並んでいたカップルらしき人たちの会話が耳に飛び込んでくる。
「ここって今、カップル限定メニューやってんだっけ?」
「そうそう、おっきなパフェをふたりで食べ合うやつ。それ目当てに来たんだよね。てか同じ考えの人たち多いんじゃない? こんなに並んでるんだしさー」
……カップル限定メニュー、か。
まぁ確かにこういうお店なら、そういうのもあるか。
よく見れば並んでいるのは若い男女の人たちが多いし、皆カップルなのだろう。
その限定メニューを目当てに来ているというのなら納得がいく。
(とはいえ、僕らは恋人とかじゃないんだけど……ん?)
そこまで考えて、ふと気付く。
「ねぇエリス。もしかしてカップル限定メニューのパフェが食べたかったの?」
「!?」
「あ、やっぱりそうだったんだ。なるほどね」
ビクンとあからさまな反応をするエリスを見て合点がいった。
僕は勿論エリスにも恋人はいない。
いや、僕と違ってエリスならその気になればいつでも彼氏を作ることは出来るんだろうけど、とにかく今はいないことは確かだ。
そんななか、このお店の話を耳にしてパフェが食べたくなったから、たまたま都合よく弱みを握れた僕のことを誘ったということなのだろう。
エリスは僕のことをなんとも思ってないだろうけど、彼女と一緒にお店に入りカップル扱いされたところで浮かれたり言いふらすようなことはしないと信頼はしてくれているはずだ。
なら、ここはその信頼に応えることにしよう。
「それならここに来る間にちゃんと言ってくれればいいのに」
「いや、その……」
「もしかして、僕が断るとか思った? それだとちょっと傷付くなぁ」
「ぅ……だ、だって、気後れするとか言うから……」
「言われたら普通に付き合うくらいはするよ。幼馴染の頼みだしね」
僕だって甘いものは嫌いじゃない。
むしろそんなに人気があるメニューだというなら食べるのが少し楽しみになってきたまである。
「……また幼馴染扱い、ですか」
「ん? なにか言った?」
「な、なんでもないです! そう、そんなの分かり切ってたこと……ならその意識を変えさせればいいだけ……これはその第一歩なんです。やってやりますよ、頑張れ私……!」
「エリス? おーい、聞いてる?」
うーん、またなんか一人の世界に入ってるなぁ。
こうなると結構長いんだよね……ん?
「な、なぁあの子すげー可愛くない?」
「本当……芸能人かな? 知ってる?」
「いや……目立つ髪してるし知ってたらすぐ分かると思うけど……ちょっと調べてみるかな」
近くから聞こえる声。そして列のあちこちから視線が向けられていることにふと気付く。
いや、正確にはエリスにのみ視線が集まっていると言っていいだろう。
流石に彼女連れであるためか露骨な下心を見せる人はいないものの、女性であっても見とれている人もなかにはいた。
さっき一緒に歩いていた時から分かっていたことであったが、こうして立ち止まっていると猶更目につきやすい存在感を放っていることがよく分かる。
(……とりあえず、背筋伸ばしておこうかな)
ここでさっきみたいに気後れするのは簡単だ。
だけどそれをしてもエリスがいい気をしないことはもう分かっている。
なら最低でも、エリスが恥ずかしくないような振る舞いを心がけようと心に決めた。
その方がエリスだって喜んでくれるに違いないだろう。
「そして上手くいったらデートを続行して、私の彼氏アピールもしてあわよくばそのまま夜は家なりホテルなりへ連れ込んで……うへ、うへへへ。勝った、これはもう私の勝ちってことでいいですよね!」
……喜んでくれる、よね。多分。
「無駄に肩ひじ張る必要なさそうだな、これ……」
なんか急に力が抜けたのは、果たしていいことなのだろうか。
とにもかくにも、美少女とは思えないだらしない顔をするエリスの独り言は、そのまま僕らの順番が来るまで続いたのだった。




