第21話
「で、どこ行くの? とりあえず待ち合わせ場所しか聞いてなかったから、後のことなんてよく分からなかったんだけど」
エリスとふたりで並んで歩きながら、僕は辺りを軽く見渡した。
そこには特になんてことのない、ありふれた休日の駅前の光景が広がっていたけど、少しの違和感があった。
すれ違う人、あるいは少し離れた場所からこちらに視線を向ける人たちが、チラホラ見受けられるのだ。
なんでだろう、なんて思うほど僕も流石に鈍くない。その理由は明白で、隣を歩いている女の子がとびっきりの美少女であるからに他ならない。
(なんていうか、こうして二人っきりだとやっぱり気後れするところはあるよなぁ……)
僕は勘違いするような男でもないため、エリスのような子が隣を歩いていたら当然見劣りをするだろう容姿であることは分かってる。
まぁ不細工ってわけではないと思いたいし、多分フツメンくらいだとは思うんだけど……いや、駄目だな。深く考えるのはよそう。ドンドン自分に自信がなくなっていきそうだ。
「テツくん、どうしたんですか? 急に黙り込みましたけど、お腹でも痛いんですか?」
何も言わなくなったことに違和感を覚えたのか、覗き込むようにエリスが僕を見上げてくる。
その瞳に少しの心配の色が浮かんでいるように思えたのは、思い過ごしではないだろう。
この後断罪するつもりなのは間違いないんだろうけど、一応彼女なりに幼馴染
のことを心配してくれているようだ。
「いや、ちょっと周りの目が気になってさ」
「周り? ……ああ、そういうことですか」
僕に言われて初めて気が付いたのか、軽く頷くエリス。
その様子から、普段注目を浴びることに慣れているのがうかがい知れた。
「一応聞くけど、エリスは僕と歩いてて平気?」
「平気とはどういう意味でしょう? ちょっとよく分からないのですが」
聞きながら軽く首を傾げるエリス。どうやら本当に分かっていないようだ。
「いや……恥ずかしくないのかなって思ってさ。ホラ、僕って別にイケメンとかじゃないし……」
軽く視線をエリスから外しつつ、僕は軽く頬をかく。
自分で言う気恥しさも手伝って、なんとなく彼女の方を見れないでいると、
「ハァ……テツくんって本当におバカですね」
「えっ?」
「だからおバカだと言ってるんですよ。私たちの仲で、今更恥ずかしいなんて思うはずないじゃないですか」
完全にエリスは呆れているようだった。
やれやれと首を振り、なにを言っているんだという有り様だ。
二の句を告げないでいると、エリスがフンと鼻を鳴らす。
「逆に聞きますけど、テツくんは私と歩いていて恥ずかしいと思うんですか?」
「いや、それは全然……ちょっと気後れはするけど、そういうのはないかな」
「でしょう? まぁ私は可愛いので気後れするのは当然のことですが、私たちは幼馴染なんですよ。今更恥ずかしいなんて思われても困ります」
だから堂々としていろとエリスは言う。
そう言われては、僕も頷くしかなかった。
……そうだよな、別に気後れなんてする必要はない。
そんな風に思ったところでエリスが喜ぶはずがないことはよく分かっていたはずなのに、これじゃ幼馴染失格だ。
「そうだね、ごめん。周りのことはもう気にしないことにするよ」
「ええ、そうです。それでいいんですよテツくん」
「よくよく考えたら僕たちはただの幼馴染だしね。別に恋人でもなんでもないんだから、周りがどう見てこようが関係なかったんだ。これからもずっと幼馴染でいることに変わりなんてないんだから」
「…………テツくん。訂正します。貴方はもっと周りを気にしてください。もう気にしまくってください、今すぐに」
「さっきと言ってること違くない!?」
幼馴染の発言が180度変わったことに驚いていると、不意にエリスが足を止める。
「テツくん、着きました」
「えっ、着いたって……ここが?」
「今日の最初の目的地です」
エリスがそう言って指差したのは、まだ看板が真新しいスイーツ屋さんだった。
「ここのお店、出来たばかりですが美味しいとクラスでも評判なんですよ」
「へぇ……」
エリスの言っていることは事実なのだろう。開店してまだ間もない時間のはずだったが、既に何組か行列が出来ており、結構な賑わいを見せているようだ。
「でも、なんでスイーツなの? てっきりカラオケとかもっと閉じこもった場所にでも連れていかれると思っていたんだけど……」
「そ、それは……せっかくの機会だし、テツくんとカップルらしいことをしてみたかったと言いますか……」
ごにょごにょと小声でなにやら呟いているエリスだったが、生憎と声が小さすぎてあまり耳に入ってこない。
「エリス、もっと大きな声で話してもらっていいかな。なにを言ってるのかよくわからないよ」
「ハ、ハァッ!? こ、こんなの大声で言えるわけないじゃないですか! テツくんんの馬鹿! 鬼畜!」
「いや、今大声出してるじゃん……」
なんか今日も幼馴染は様子がおかしい。
エリスはもっと余裕がある子のはずなんだけどなぁ……。
「と、とにかく!私たちも並びましょう。こうして立っている間に先に並ばれても嫌ですからね!」
「あっ、うん」
誤魔化すように殊更大きな声を出したエリスの後に僕は続く。
なんか今日は彼女に引っ張って貰ってばかりだな……なんて、男として少しだけ情けなさを感じながら、僕らは二人並んで最後尾へと足を運んだ。




