第20話
世の中には理不尽なことがいくらでも存在する。
そのことを、僕は先日身をもって知った。
幼馴染たちに囲まれて糾弾されたあの昼休みの出来事はもはやトラウマになっている。
あんなこと、二度とゴメンだ。うっ、思い出すだけで鳥肌が……い、いや、そのことはとりあえずいいんだ。
問題は僕が幼馴染を三股にかけてるクズ野郎という噂がこれまた広がりつつあることだ。
今の僕は学校では針のむしろみたいになっている。
クラスの女子からは白い目で見られ、男子からは浮気しまくるクズとして見られる毎日だ。
いや、皆も気持ちも分かるよ? 僕だってそんなことしてるクラスメイトがいたら近付きたくないし。
一応恵や玲奈たちがやんわりと噂を否定しフォローしてくれはしたけど、ぶっちゃけ焼け石に水だった。
どうせ三股してるやつに泣きつかれて、無理矢理言わされてるんだろう。
そんな風に捉えられる有様だ。どれだけ僕が周囲から信用されていないか、これだけで分かってもらえると思う。
これから先、学校で友人を作ることがほぼ絶望的と言っていいだろう。
ガリガリとメンタルが削られていく日々に、僕は結構参っていた。
ようやく週末に入り、休日を迎えたことにホッとしているのが現状だった。
「やっぱりなんとかしないといけないよなぁ……」
まぁそれが出来たら苦労はしないんだけど。
ため息をつきながら、現状を憂いていると、
「待ちましたか? テツくん」
ふんわりとした空気とともに、視界の端に銀の色が垣間見えた。
「いや、待ってないよ。僕もついさっき来たところだから」
「ふふっ、返事に関しては完璧ですね。ここで待っていたなんて言われたら、少し幻滅していたところでした」
茶目っ気たっぷりにそう話すのは、幼馴染であるエリスだった。
さっきのやり取りから分かってもらえるだろうが、彼女と出会ったのは偶然じゃない。
休日の土曜日。駅前の広場で、僕らは待ち合わせをしていたのだ。
「え、えへへ。こ、こうしてふたりで出かけるなんて、まるでデートみたいですね」
「そうだね。実際は釈明のための時間を改めて設けただけなんだけどね」
そう、これはデートなどではない。
むしろ真逆。断罪の時間である。
学校ではこのまま話していても収集がつかなくなると判断した僕らは、短い話し合いの末、祝日を挟んだ3連休で個別に謝罪をするということに落ち着いた。
……ちなみに僕らとは言ったが、そこに僕の意思が挟まれることは一切なかった。
幼馴染たちが各々牽制しあい、バチバチな雰囲気を醸し出していたのもあって、何も言うことが出来なかったのだ。
「もう。テツくんは相変わらずドライで鈍いですねぇ。こういう時は女の子の話に乗るものですよ」
「でも、乗ってたからどうせ勘違いするなとか言うんでしょ?」
「ふふっ、バレましたか」
そう言って、ペロッと小さく舌を見せるエリス。
「まあ魂胆はバレバレだったね。エリスがこれをデートだなんて思ってないのも分かってるし、僕は今から気が重いよ……」
はぁっと大きくため息を吐く。
この状況を楽しめるようなメンタルを、僕は持ち合わせていない。
エリスが僕を許してくれるかも分からないし、仮に今日を乗り切ったとしても、まだふたりの幼馴染だって控えているのだ。
この綱渡りを乗り切れる自信なんて全くない。
いっそさっさと断罪してくれたほうがまだマシとまで思えてくる。
「…………ふーん」
「ん? どうしたのエリス。なんか急に不機嫌になったけど」
「なんでもないです。やはりこれは分からせる必要があると思っただけですよ。……先手を取れたアドバンテージは活かさないといけませんからね。出来れば今日で決めないと……」
ブツブツとなにやら呟いているエリス。
僕を追い詰める計画でも立ててるのだろうか。
不安だ。もの凄く不安しかない。
「あのー、エリス? どうかしたの?」
「なんでもないです。とりあえず移動しましょう。時間は有限ですからね。正しく使わないといけません」
そう言って僕に手を差し出してくるエリス。
さっさと立てということなのだろう。
何も言わず彼女の手を取ると、エリスはニッコリと微笑んだ。
「そういえばテツくん。まだひとつ、私に言うことがあるんじゃないですか」
「え? 言うこと?」
言われてついエリスの顔、そして全身へと視線を移す。
……ああ、そういうことか。
「その格好、似合ってるよ」
「はい、よく出来ました」
どうやら正解だったようで、エリスは嬉しそうに微笑んだ。




