第19話 修羅場⑤
「「…………は?」」
ピキリと、場が凍る音を確かに聞いた。
あるいはその音を僕自身も出したのかもしれない。
なんにせよ、今言えることはただでさえまずい状況が更に悪化したということだけだ。
「……玲奈さん、どういうことですか? 今テツくんが、玲奈さんのことを好きだとか、よく分からないことをおっしゃった気がするのですが」
「だからそう言ってるじゃん。こっちだって恥ずかしいんだから何度も言わせないでよ……」
エリスからの問いかけに、顔を赤らめぷいと横を向く玲奈。
普段と違う様子を見せる金髪の幼馴染の仕草は可愛かった。
長年の付き合いのある僕でもちょっとドキッとしたほどだ。
「テツ、どういうことだい。弁解することがあるなら、改めて聞きたいなぁ」
だが、それを今は表に出すわけにはいかなかった。
再び肩に置かれた恵の手から伝わってくる力が物凄いから。
玲奈を可愛いと思ったなんて口に出したら殺される。そんな確信が何故かあった。
「ボクはねぇ、テツのことを誰よりも信じてるだよ。当然だろ? 未来の旦那様なんだから、妻が信じないでどうするっていうのさ。分かるよねぇ?」
「あの、胸ぐら掴まれながら言われても微塵も説得力ないです……」
この幼馴染、怖すぎる。
なんでこんな修羅場になってるの?
僕、ホントになにかしたっけ?
「そのう、き、聞いて欲しいんだ。僕は玲奈をことを好きと言った覚えはないというか……」
「えっ……」
恐怖に怯えながらなんとかそう言ってみるも、今度は玲奈がショックを受けたような顔をする。
まるで僕がひどいことを言ったかのようだ。
間違いなく事実なのに。なんだこれ。
なんでさっきからこんなに追い詰められたような気持ちにならないといけないんだ?
「最低ですね、テツくん……」
「見下げ果てたよ。君がいつの間にか、そんなクズになっていたとはね……」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ! なんでエリスたちもそんな顔で僕を見るのさ!」
いたたまれない気持ちになっていると、追い打ちをかけるかのように玲奈以外の幼馴染たちが僕に冷たい視線を向けてくる。
確かに端から見れば最低なことを言ったかもしれないけど、君たちにそんな目で見られる謂れはないんだけど!?
「大切な幼馴染に悲しい顔をさせた人に向ける目としては適切だと思いますが?」
「玲奈は親友だからね。いくらテツとはいえ、泣かせるようなことをしたら怒らないわけにはいかないんだよね」
「り、理不尽だ……」
「「なんか言った?」」
「い、いえ、なにも……」
同時に責められると何も言えなくなる僕は、弱い人間なのだろうか……。
そんな風に落ち込んでいると、
「虎鉄は……あたしのこと嫌いなの?」
潤んだ瞳で、玲奈が聞いてくる。
いつも快活な彼女に似つかわしくない表情だ。それを見て、僕は即座に首を振る。
「そんなわけないだろ! 玲奈のことを嫌いだなんてあるはずがない!」
「じゃあ……あたしのこと、好き?」
「勿論! 僕は玲奈のことが大好きだ!!」
否定なんて出来るはずもなく、僕は大きく頷いた。
間違いなく本心から出た言葉。
それを耳にして、玲奈もようやく顔をほころばせる。
「そ、そっか。えへへ、良かった……」
そして笑顔を見せてくれる。
ああ、この顔だ。やっぱり玲奈には笑顔がよく似合う……。
「おいコラ、テツ。なにやってんだお前」
「私の前で公開告白とはいい度胸してますね。後悔させてあげましょうか」
なんて喜んだのも束の間。
再び幼馴染✕2から、絶対零度の目を向けられる。
……どうやら僕には絶望の表情がよく似合うようだ。物凄く嫌すぎるんだけど。
「……違うんです。これは本当に違うんです」
「えっ、さっき好きって言ったのに……虎鉄、嘘ついたの?」
「いや、それはそのぅ、嘘ではなく本心でぇ……」
「じゃあ本心から告白したってことかい? このボクの前で? んん?」
「だから本心にも色々あってぇ……胸ぐら掴まないでください。痛いです……」
「私も心が痛いんですけど? 昨日のことも含め、どう責任取ってくれるんですか?」
「そっちも含めて本当に悪いと思っててぇ……もう勘弁してください……」
情けないと言うなかれ。
この状況に陥って、どう弁解しろというのか。
僕は絶対悪くない。悪くないのに……現実というやつは、僕に対してあまりにも無慈悲だった。




