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第18話 修羅場④

「……まず弁解をさせてください」


 教室から離れた学校の中庭。

 昨日も訪れた場所の芝生の上で、僕は正座をしながら幼馴染たちに囲まれていた。


「まぁ聞くだけ聞こうか。その後のことにはちょっと責任持てないけど」


「本来なら問答無用で心中を選ぶところだけど、他ならぬテツの頼みだからね。言っとくけど内容次第では覚悟してもらうよ?」


「ありがとうございます……」


 なんで僕はこんな低姿勢になりながら謝ってるんだろう……。

 分からない。分からないが、本能がこうしろと言っている。

 この場でもっとも弱い生き物が僕であることは間違いなかった。ああ、たんぽぽが綺麗に咲いているなぁ。花に生まれていたら、こんな思いをせずに済んだのかなぁ。もし次に生まれ変わるとしたら、植物みたいに平穏に生きたいな。あははは……。


「テツくん、現実逃避はやめてください。今は私にしたことに対しちゃんと謝罪したのちに改めて責任を取る。それがテツくんのやるべきことです、そうでしょう?」


「人の思考勝手に読むのやめてください、怖いです……」


 相変わらずツンとした態度を崩さないエリスだったが、こっちの考えを見透かされてるのは素直に嫌だ。


「テツくんがそれだけ分かりやすいんですよ。そのくせこっちの気持ちは分かってくれないし。大体、私がわざわざ出向いてあげたというのに、恵さんはともかくなんで玲奈さんまでいるんです?」


「それは虎鉄と一緒にお弁当食べようと思ったからだよ」


「……お弁当? それ、もしかして手作りですか?」


「そりゃそうだよ。そのほうが虎鉄だって嬉しいに決まってるじゃん。そうでしょ?」


「えっ? それはまぁうん。僕のお弁当は基本冷凍食品のやつだし」


「そうなの? それは身体に悪いよ。なら、これからはあたしが虎鉄の分のお弁当も作ってきてあげよっか?」


「いいの?」


「うん、どうせ作る手間は一緒だしね」


 そう言ってにっこりと笑う玲奈。

 彼女の提案は素直に助かる。なら好意に甘えようかな。そう思っていると、何故か二人分の舌打ちが同時に耳に飛び込んでくる。


「チッ、見せつけやがって。死ねよ……」


「テツくん、今はそんな話は後にしてください。お弁当の話なんていつでもできますから。玲奈さんもそう思うでしょう?」


「えっ? まぁそうかも……。確かに今聞きたいのはそっちじゃなかったか。虎鉄が浮気してないかのほうが大事だし」


 話の流れが変わったと思ったが、そう上手くはいかないらしい。

 ていうか、なんで三人とも僕のことを威圧してくるの?

 ひとりくらいは味方してくれてもよくない?

 そう思わずにいられなかったが、現実はいつだって非情だ。ここに僕の味方はひとりもいない。なんならこの学校にも今はいないだろう。

 あれ? 改めて僕の状況ってかなりヤバくないか? 本当にどうしてこうなったんだこん畜生。


「で、結局虎鉄はエリスに手を出したの? 本当にヤることヤったっていうの?」


「……玲奈、女の子がそういうの言わないほうがいいよ。ていうか幼馴染にそういうの聞かれるの凄く嫌だよ……」


「テツ。なに初心な小娘みたいなこと言ってんだい。これくらい女の子の間じゃ普通に話してることだよ。なんならもっとエグい内容だってガンガンしてるからね?」


「えっ、そうなの……?」


「そうだよ。で、ヤったの? ヤってないの?」


 軽くショックを受けていると、幼馴染ふたりが僕に詰め寄ってくる。

 内容が内容だけに本来は答えにくい質問だったが、今回はそうではない。

 なんせ本当に何もしてないんだから、自信を持って答えればいいだけだ。


「してないよ」


「……本当に?」


「うん、断言するけど絶対してない。そもそもエリスはただの幼馴染だし、そういう関係になるはずないじゃん」


「えっ」


 疑う玲奈に真っすぐな瞳を向けてそう返す。

 直後、エリスがなにか呟いたようだったが、それ以上のことは言ってこなかった。

 多分、僕に任せるつもりなんだろう。エリスだって幼馴染たちに誤解されたままじゃ嫌だろうしね。

 恵たちはよく話すことみたいに言っていたけど、エリスからすればやっぱり口に出すのは恥ずかしいことかもしれないし、男の僕がここはなんとかするべきなのだろう。

 少し勇気を取り戻していると、安心したのか恵が大きく息を吐いた。


「あっ、そうなんだ。ふーっ、良かった。まっ、僕は信じてたけどね」


「なんかエリスは固まってるけど、あの様子じゃ虎鉄が嘘を付いてるってわけじゃなさそうかな。あの子が何か勘違いしてたってわけだ」


 場の空気が一気に弛緩していくのを感じる。

 どうやらふたりは僕の無実を信じてくれたようだ。


「ありがとう、ふたりとも。分かってくれるって思ってたよ……!」


「まっ、テツはボクに全然手を出してこないヘタレだからね。ツンデレなエリスが誘い受けなんて高度なテク持ってるはずないし、冷静になればあり得ないことだって納得したね」


「同じく。いやー、本当に安心したなー」


 コクコクと頷く恵と、それに同意する玲奈。

 ああ、やっぱり幼馴染っていいな。誠意をもって話せば、ちゃんと理解してくれるんだ。

 そう深く感動していた僕だったが、


「だって虎鉄が好きなのはあたしなんだものね? エリスとどうこうなるはずないよ」


 今度は玲奈が爆弾をぶん投げてきた。

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