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第17話 修羅場③

(や、ヤバいよヤバいよこれ、絶対ヤバいよ!)


 予期せぬ第三の幼馴染の来訪に、僕は大いに焦っていた。

 その理由は語るまでもないだろう。

 今のエリスは噂の渦中の人であり、同時に生粋のトラブルメイカー。

 おまけに昨日のゴタゴタもあるから、ここに来たのも単に遊びに来たわけであるはずもない。

 そんなことくらい、容易に想像がついてしまうくらいには付き合いが長いのだ。

 今は全然嬉しくないけれど。いや本当になんで直接来たんだよ!?


(ど、どうする。いっそ僕だけ全力でこの場から逃げるとか……いやいや、そんなことしたら完全にクズ確定じゃん! 僕何も悪いことしてないのに!)


 ここ数日間の行動は、全て幼馴染たちのためにしたことだと言い切れる。

 言い切れるんだけど……何故だろう。胸を張れるかと言うと、ドンドン自信がなくなってくるのは。

 久しぶりに幼馴染が集結している場になるというのに、ドキドキが止まらない。

 繰り返すけど、僕は何も悪いことなんてしていない。なのに何故玲奈や恵が僕を見る目が冷ややかなものになっていくのか分からない。

 僕を見つけ、こちらにツカツカと歩いてくるエリスが露骨に不機嫌な顔をしている理由だって分からない。というか分かりたくない。


「どうも。昨日ぶりですねテツくん」


「あっ、はい。お久しぶりです……」


「ふふっ、そんなに堅苦しい言い方しなくてもいいじゃないですか。私たちの仲なんですから」


 そう言って優雅に笑うエリスだが、正面にいる僕には分かる。

 エリスの目は笑っていない。そりゃもう、全然笑っていない。

 青く綺麗な瞳の奥には、確実に怒りがあった。

 轟々と燃え盛る怨嗟の炎を幻視しビビっていると、エリスが再び口を開く。


「さて、そんな仲の良い私たちですから、私がなにを言いたいかくらいはもう分かってますよね?」


「え……?」


「分かって、ますよね?」


 戸惑う僕に念押しするように、もう一度繰り返すエリス。

 何を? なんて聞きづらすぎる雰囲気だ。

 流石にここで聞き返すほど僕だって馬鹿じゃない。そんなことしたらキレられることくらいは空気で分かる。


「え、えーっと……昨日、エリスを怒らせちゃった、から……?」


「ええ。そうです、分かってるじゃないですか」


「あ、うん。勿論だよ。いやぁ、当たってて良かったなぁ。ハハ……」


 頭をフル回転させてなんとかそれらしいことを絞り出してみたが、どうやら正解だったらしい。

 そのことにホッとしていると、


「じゃあ、言うことがありますよね?」


「えっ?」


「怒らせたことが分かっているなら、言うことがありますよね?」


 次の答えをエリスが求めてくる。

 どうやら問答はまだ続くらしい。

 だが、もう大丈夫だ。怒っていることが分かれば、エリスが何を言って欲しいかくらいは手に取るように分かる。


「ごめんねエリス。怒らせるつもりなんてなかったんだ。あれは僕なりに良かれと思ってやったことで……」


「良かれと思って!? あれが!? わ、私にあんな屈辱を味あわせておいて、あれをテツくんは良いと思ってやったというんですか!?」


「えっ、あっ、ご、ごめん……?」


「ごめんじゃすみませんよ!? あの後、泣いてる姿を見られて色々大変だったんですよ! あ、後だって残ったし……乙女の肌をなんだと思って……」


 頭を下げて謝罪すると、何故か激昂するエリス。

 あ、あれ? おかしいな? ちゃんと謝れば許してくれると思ったんだけど……。


「屈辱を味あわせた……?」


「泣かせて、後が残るようなことをした……?」


「え、なにそれ。引くんですけど」


「乙女の肌にって、うわっ。うわぁ……」


 戸惑っていると、再びざわつく教室。

 先ほど以上の喧騒で、ひそひそと会話するクラスメイトたち。

 流石にこれは洒落にならないと思い、待ったをかける。


「待って皆! 誤解だよ! 僕は何もしてなんかいない!」


 明らかに僕がヤバイやつみたいに思われる流れだろこれ! しかもなんか特殊な性癖持ってるとか、そういう方向のヤバさで!


「何もしてない? そんなわけでしょう! 私に手を出したくせに!」


「ちょっ!? やめてエリス! その発言は本気でヤバイって! また誤解が広まっちゃう!」


「誤解ぃ? じゃあなんですか。テツくんは、私に手を出した事実をなかったことにするっていうんですか!? あんなの初めてで、すっごく痛かったのに!」


「い、いやそんなつもりは……」


「じゃあ認めてください! テツくんは、私に手を出しましたよね!?」


「それは……確かに手を出しましたけどぉ……」


「ほぅらね。まったくもう。どうせ認めるしかないんですか、最初から嘘なんてつかないでくださいよ」


「……そうだね、は、はは……う、ううぅぅ……」


 無理矢理認めさせられ、もう渇いた笑いしか出ないが、エリスは分かってないんだろうか。

 この会話の流れが、如何にヤバいのかを。

 僕が犯罪者扱いされる未来しかないことを。


「手を出した……それも初めて……」


「あの感じだと絶対無理矢理……」


「警察の番号って何番だっけ」


「殺す……殺すぅ……」


 凄い数の殺気が集まってきている。

 それも全て一点集中。そう、僕にだ。

 繰り返すが、僕は何も悪いことなんてしていない。

 ほっぺを引っ張ったことは確かに手を出したと言えるけど、少なくとも警察のお世話になるほどのことではないはずだ。

 泣きたい。ていうか泣く。こんな現実、凄く嫌だ。


(サヨナラ、僕の学校生活……)


 早くも自分の高校生活が終わりを迎えたことに密かに涙を流していると、


「虎鉄。さっきの話、どういうこと?」


「弁明を聞こうかテツ。場合によっては君を殺してボクも死ぬよ」


 幼馴染ふたりに左右の肩を掴まれる。

 力がこもりまくってて凄く痛い。


「は、ははは……」


 …………どうやらこの地獄は、まだ続くらしかった。

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