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第16話 修羅場②

 あのー、余計なことしないでいいから座っててくれない?

 そう言えたなら、どんなに良かったことだろう。


「あー、そういえばそうだったね。どう? 元気にやってる?」


「ああ、すっごい元気だよ。具体的に言えばこれからテツを誘ってどこかにディナーをエンジョイしに行こうと思ってたくらい元気の塊さ。ボクを使えばきっとその辺の

ポ〇モンはすぐに体力全開になっちゃうね」


「ふーん、よく分かんないけど凄いね。あ、悪いんだけどさ。今日は虎鉄のことあたしに譲ってくれない? 見ての通り、お弁当持ってきたんだよね。虎鉄と一緒に食べようと思って」


「譲れって言われてもさぁ。ボクからすればどういう風の吹き回しって感じなんだけどぉ? ここ最近ずっと見せなかったのにいきなりやってきて、それはちょっと虫が良すぎるんじゃないかなぁ?」


 だけど言えない。恵があまりにも喧嘩腰すぎるから。

 ここで口を挟んだら、昨日の二の舞になることは目に見えて明らかだ。

 例の黒いオーラも出始めてるし、どう考えても様子見がベストとしか今は言えない。


「そう言われても、あたしもこれまでちょっと忙しくてさ。今日はその埋め合わせをしたいだよね。ね、いいでしょ?」


「よくないですー。ていうか、なんでテツだけなのさ。埋め合わせっていうなら、ボクも一緒に誘うのが筋だろ? 違う?」


「それは……違わ、ないけど……」


「だよねー。じゃあボクも行くねー。玲奈って料理上手いからお弁当楽しみだなー」


 ……白々しい。なんという白々しさだ。

 最初から付いてくる気満々だっただろうに、わざわざ玲奈を追い込むような物言いをするんだからタチが悪い。

 そのことを玲奈も分かったのだろう。即座に反論しようと口を開く。


「ちょっと待ってよ。だからあたしは虎鉄を誘いに来たの。まずは虎鉄の意見も聞かないと……」


「えっ」


 ここで僕に振るの!?

 完全に部外者の気分で事の成り行きを見ていただけに、話を振られてびっくりする。


「テツの意見? そんなの別にいいよ。テツとボクはツーカーの仲だからね。ボクがいいと言えば、テツだって頷くはずさ。そうだろ?」


「いや、全然そんなことないけど。玲奈が嫌だっていうなら別にふたりで食べてもいいし」


「はぁぁぁ!?」


「そんないきなりキレられても……」


 なんでそんな意外そうな顔をするのか、こっちのほうが不思議なんだけど。

 そりゃあ恵とは仲はいいつもりだけど、僕にだって選択の自由ってものがある。いつもべったり一緒というのも、性別も違うただの幼馴染としてはちょっと不自然というものだろう。

 それに玲奈の言う通りここ最近はいつも恵と一緒に食べてるから、たまには他の幼馴染とお昼を一緒にするのもこっちとしては全然アリだ。


「テツ、浮気するのかい!? ボクというものがありながら!? そんなにギャルのほうがいいっていうのかコラ!?」


「いや、好みの問題とかじゃなくてね。たまには気分転換もいいかなって……」


「気分で女を変える!? そんなのゲス野郎の言い分じゃないか!? ボクはテツをそんな子に育てた覚えはないよ!」


「僕も育てられた覚えはないよ。てか大げさだな……」


 別にご飯を食べる相手を変えるくらいいいじゃないか。減るもんでもないし。

 今日は玲奈と食べるにしても、明日は恵と一緒なら問題ないと思うんだけどなぁ。

 そんな風に軽く考えていると、


「ねぇ聞いた? 木切くんって気分で女の子をとっかえひっかえするんだって……」


「最低……大人しそうな顔してるのに、実は肉食系だったんだ……」


「美少女を日替わりで味わうとか前世でどんな徳積んだらそうなるんだよ」


「殺す……」


 あっ、やべっ。周りが殺気立ってきた。

 恵の声が大きすぎたのもあるだろう。僕らの会話はクラスメイトたちにバッチリ聞かれてしまっていたようで、更に大きな誤解がこの場で生まれてしまったようである。


「と、とりあえずふたりとも。一旦この場を離れない? ホラ、周りの迷惑になってる感じだし」


 ただでさえ理不尽極まりない噂が蔓延しつつあるなかで、僕がクズであるという認識がこれ以上広がるのはまずい。まずすぎる。

 誤解は後でなんとか解くとして、今は混乱の元凶となっている幼馴染たちを連れてこの場から撤退するのが得策だ。


「あたしは元々そのつもりだったから別にいいけど」


「チッ、しょうがないなぁ。言っとくけどこれは貸しだかんね、覚えとけよテツ」


 怖いことを言う恵のことは一旦おいておくとして、とりあえずふたりの了承は得ることが出来た。


「よし、それじゃあ中庭にでも————」


「すみません、このクラスに木切虎鉄くんはいらっしゃるでしょうか」


 なのでさっさと移動しようと思ったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。

 僕にとって今日二度目の絶望が、教室のドアから銀の髪とともにひょっこり顔を覗かせた。

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