第27話
「いやぁ、美味しかったね。あそこのお店、人気ある理由分かるなぁ」
「私としては最後まであーんしたのに食べてくれなかったことが不満アリアリですけどね。恋人なら彼女があれをしたなら喜んで食べるのが常識ですよ」
「僕ら恋人じゃないじゃん。てかまだそれ根に持ってるの? 流石にあれは無理だって。周りの目もあったしさ」
お店を後にして早数分。僕とエリスは商店街の方へと足を向けていた。
ぐるりと周りを見渡せば様々なお店が並んでいるけど、特に足を止めることはない。
そもそも僕自身、目的を持ってここに来たわけではないからだ。
エリスがこっちへ行こうと言ったから付いてきているわけで、ここからどこへ行くのかという具体的な場所は聞かされていない。
お説教が始まるというのなら早いうちのほうが助かるため、こうして焦らされている状態は正直あまり気持ちのいいものではないのは確かだ。
美味しいスイーツを堪能した後だけに、出来れば手早く済ませて欲しいという気持ちも正直ある。
「ふぅ、テツくんは素直じゃありませんね」
「いや、素直に思ったことを話してるつもりなんだけど……」
「いいですって。私には分かっていますから。店員さんに言ったあの言葉が本心だって、ちゃーんと理解してますからね。ふふっ」
だからそろそろどこに行くつもりなのかを聞き出したいところだったんだけど、エリスはずっとこんな感じだ。
なにやら上機嫌なのはいいことなんだけど、微妙に会話がかみ合っていないというか。
まだ夢見心地な感じもするし、あるいは妄想と現実の区別がまだついてない状態なのかもしれないな。流石に口に出したら失礼すぎることは分かっているから言わないけれど。
「…………?」
そんなことを考えていると、エリスが喋らなくなったことにふと気付く。
目的地が近いのかな? そう思った直後、不意に手の甲になにかが触れる感触が伝わってくる。
「…………」
視線を下げてみると、エリスの手の甲が僕のそれと触れているようだった。
そういえば、やけに距離が近くなっている。後ろから来た人を避けたのかなと一瞬思ったけど、そういうわけではないらしい。
僕らの周りは歩いている人もまばらで、人ひとりどころかふたりくらいは通れるようなスペースな十分にあったからだ。
そもそも避けたというならすぐ元の距離感に戻っていないとおかしいわけで、今もエリスは僕に近付いたまま。
しかも一度ならず、何度も手の甲を僕の手へと触れてきている。顔を赤らめ、チラチラとこっちを見てもきているし、ここまでくると意図してやっているのは僕にも分かった。
(……ははあ、なるほどね)
これでエリスの考えが読めないほど、僕だって鈍い男じゃない。
数度目の手の甲が触れた感触が伝わってきたタイミングで、僕はエリスの手をそっと握った。
「あっ……」
「全く、素直じゃないなぁ。握って欲しいならそう言えばいいのに」
昔、エリスと一緒に遊んでいた時はこうして彼女の手を握ったことはよくあった。
あの頃はまだ引っ込み思案だったから、僕が手を引っ張ってあげないと物怖じして中々動かないことがあったのだ。
「……自分から言い出すものじゃないんですよ、こういうのって」
「そうなの? よく分からないなぁ。僕は言ってくれたほうが助かるんだけど」
「いいんですよ。だって、言わなくてもこうしてテツくんは握ってくれましたから」
だからそれでいいんです、と小さく呟いて、エリスは俯いた。
相変わらず顔は真っ赤だ。やっぱり恥ずかしいのかもしれない。
エリスは素直じゃないから、あの頃みたいに手を繋いで欲しいなんて言えないんだろうっていうのはまぁ分かる。
(やっぱりまだちょっと妄想の世界から抜け出せてないんだろうなー。まぁ手を引っ張ってあげてるうちにそのうち戻ってくるでしょ)
こうして握っていると、エリスの手はあの頃よりずっと大きくなっているのが分かるけど、柔らかさは変わっていないように思う。
役得とかは全然思っていないけど、こうして手を繋いでいるとあの頃に戻ったみたいでちょっと嬉しくなるかも。
小さい時は僕がまだエリスに対して少しお兄さんぶることが出来ていたっけ。
いつの間にか立場が逆転してしまっていたけど、こうして過去を振り返ることが出来たことを考えると、エリスの妄想癖もそう悪いものではないのかもしれないな。
……流石にお店にいるときとかだと勘弁してもらいたいけど。
「……今の私たちって、周りから見たらちゃんと恋人同士に見えるでしょうか?」
「え? んー、まぁ髪色も全然違うし、流石に兄妹とかには見えないんじゃないかなぁ」
「そう、ですよね。ふふっ、そうだといいなぁ……」
うん、まだどこかうっとりした様子だし、やっぱりまだ時間がかかりそうだな、これ。
(せめて目的地くらいはちゃんと言って欲しいんだけどなぁ……まっ、仕方ないか)
とりあえずエリスがこっちの世界に戻ってくるまでの間は、しばらく手を繋ぎ続けることは確定のようだった。




