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13話

「あー、痛かった。ひどいよエリス……」

 

「ひ、ひどいのはテツくんの方じゃないですか。わ、私、ちゃんと駄目だって言ったのに。それなのにあんなプレイを続けるだなんて……」


顎を擦りながら非難の目をエリスに向けると、またよく分からないことを言い出した。


「え、プレイってなに?」

 

「それを私に聞くんですか? もしやこれもプレイの一環……テツくんには実はドSの素質があったんですね。これまで知りませんでしたよ」


「いや、本当になに言ってんの? 意味わかんないんだけど」


「トコトン白を切るんですね。いいでしょう。付き合ってあげます。言っておきますが、こんなプレイに付き合ってくれるのは私くらいしかいないんですからね!?」


「え、なんでキレてんの? こわ……」


 なんかひとりで納得したかと思えば急に怒り出すという、あまりの情緒不安定さを見せる幼馴染に僕は慄く。

 今日は幼馴染の知らない一面を見せられてばかりだ。別に知らなくても良かった一面なのがあれだけど。


「ふぅ、とりあえず一旦波は引いたので続きをするとしましょうか」


「続き?」


「だからお仕置きの続きですよ。確かに気持ち良かったですが、あれがお仕置きってわけでもないでしょう?」


「それはまぁ……」


 だからなんでそんなにノリノリなのさ……。

 はぁ、まぁいいか。昼休みも残り時間が少ないし、手早く済ませて終わらせるとしよう。


「じゃあやるよ、もう一度目を瞑って」


「はい……い、いよいよ私もこれで大人の仲間入りを……」


 目を閉じて顔を少し上げるエリス。

 息が少し荒いのが気になるけど、僕は彼女の頬へともう一度手を伸ばし、触れる。


「じゃあいくよ」


「は、はい! どうぞ!」


 もう片方の手もエリスの頬へ。

 そして、そのまま両手の親指と人差し指でエリスの頬を掴み——思い切り引っ張った。


「むにゅうっ!?」


「おお……ほっぺももちもちだ。すっごい伸びる」


 跡が残らないように気を付けて引っ張ってるけど、こっちも大分感触がいい。

 エリスは凄いなぁなんて我ながら見当違いの方向で感心していると、


「むー! な、なにするんれすかぁっ!?」


「なにって、お仕置きしてるんだけど」


「おひおきっ!? これが!?」


「うん。ほら、痛くなければ覚えませぬって言うし」


 頬をつねられたまま、愕然とした様子を見せるエリス。

 そのうち、徐々に涙目になっていったので、頃合いだと思い指を離す。

 本当に痛い思いをさせたいわけじゃなかったし、これで十分だと思ったからだ。


「…………」


「もしかして、僕がもっとひどいことをすると思った? 流石にそれは無理だよ。エリスは大切な幼馴染だし、傷付けたいわけじゃないからね」


「…………」


「でも、これで分かったでしょ? 男子を勘違いさせるような行動ばかり取ってると、いつかこんなふうに反撃されることがあるかもしれないんだ。だから僕も心を鬼にして分からせてあげようと……」


「………」


「あの、エリス?」


 お説教に反応せず、無言で頬を擦り続けるエリスに、思わず声をかけてしまう。

 そんなに反撃されたことが気に食わなかったんだろうか。

 そう思っていると、


「…………て」


「え?」


「テツくんのバカーーーー!! 死んじゃえーーーー!!!!」


「ちょっ、エリス!?」


 何故か大声を張り上げると、猛ダッシュで教室から飛び出していった。

 止める間もなかったし、必然僕はひとり教室に取り残されてしまう。

 

「玲奈もそうだったけど、急に走り出すのが流行ってたりするのかな……」


 そんなことはないのだろうけど、幼馴染が立て続けにあんな行動を取ってることは不思議でならない。


「ただ、最後のエリスは昔のエリスっぽかったなぁ。あの頃は素直で可愛かったっけ」


「誰が素直で可愛かったって?」


「だからエリスがぁぁぅぅっっ!?」


 背後から急に聞こえてきた声に飛び跳ねる。

 誰もいないと思ってひとりごちていただけに、ビックリしたなんてレベルじゃない。


「そんなに驚くなよ。ボクだよ」


「め、恵? いや、驚くって。いつの間にここに入ってきてたの? 全然気付かなったんだけど」


「細かいことは気にするなよ。ていうかさ、まずテツはボクに言うことがあるんじゃないの?」


 ずいっと顔を近づけてくる恵。

 その際、瞳の色がその髪よりも更に濃く深いブラックホールのような漆黒に染まっていたように思えたのは、果たして僕の気のせいだろうか。


「え、言うことって?」


「ボクをひとりで、置いていったことに、決まってるだろ」


 強調するように区切りながら話す恵に、僕はビビった。

 怒ってる。これは確実に怒ってる。

 長年の付き合いがあるから分かるけど、相当激怒していることは間違いない。


「あ、ご、ごめん。なんか考え事してるようだったから、そっとしとこうかなって……」


「へー、水臭いこと言うなあ。幼馴染兼未来の恋人をひとりで放置するプレイかますなんて、やるようになったじゃないか。ボクは嬉しいよテツくん」


 全然全く嬉しそうに見えないんですがそれは。

 

「あの、もしかしなくても怒ってる、よね」


「モチのロンだよ。あとさ、さっきエリスが泣きながらここから飛び出していったんだけど、そのことについても詳しく聞かせてくれるかな? かな?」


 言葉の裏に「全部吐けや」という意図があることをヒシヒシと感じる。

 あまりにも怖い様子を見せる黒髪の幼馴染への弁明に、僕は残りの休み時間を全て費やすことになるのだった。

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