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12話

「それじゃあいくよ」


「はい、バッチコイです!」


 なんかもうこのままだと埒が明かなそうなので、とりあえず先を促すと、エリスは大きく頷いた。

 ……なんでこんな時だけ素直なんだろう。おまけにいつもよりずっとテンション高いし。

 普段はもっと落ち着いてるっていうか、こんな子じゃないはずなんだけどな……。

 唐突なキャラブレに戸惑いつつ、目を閉じたエリスにそっと手を伸ばす。


「……っ」


「ふふっ、緊張してるんだね。手に取るように分かるよ」


 頬に手が触れると、小さく身体を震わせる。

 実際、緊張しているのだろう。長いまつ毛も細かく震えていた。

 こうしてみると、本当に整った顔だ。まるで人形のようだし、口を開かければ髪色と相まって神秘的な雰囲気だってある。

 ありきたりの表現ではあるけど、妖精みたいで現実離れした容姿の持ち主なのは間違いない。

 そんな子に優しくされたら、勘違いする男が続出するのも無理はないだろう。……本人が意図して勘違いさせているのも多分にあるけど。

 でもそうじゃなくても、この顔立ちならどのみちモテていただろうことは想像に難くなかった。

 

(その場合、昔のエリスだったら、きっと戸惑ってたんだろうなぁ) 


 なんとなくそんなことを考えてしまうが、所詮もしもの話だ。

 今のエリスは、昔みたいに気弱な女の子じゃない。どちらが良かったかなんて考えたところで、意味なんてないだろう。


「……テツくん?」


 少し物思いに耽っていると、エリスに声をかけられる。

 しまった、不安がらせてしまったな。とりあえず取り繕っておこうかな。


「あ、ごめん。エリスの顔が綺麗すぎて、つい見入っちゃったよ」


「ほぇ!?」


 先ほどまで思っていた感想を素直に口にすると、大きな声をあげるエリス。

 ん? 言葉が足りなかったかな? もう少し褒めておくべきだろうか。


「いや、本当に綺麗だよ。髪もサラサラだし。手入れ、頑張ってるんだね」


「そ、そんなの当然です。み、身だしなみは大事ですから」


「そっか。偉いね、エリスは。これじゃ確かに、大抵の男は引っかかっちゃうのも分かるなぁ」


「そ、そうでしょうそうでしょう。テツくんだって引っかかってますもんね」


「んー、どうだろ。正直僕は見慣れてるけから、引っかかるとかないかなぁ」


「そ、そんなわけありません。だって、今こうして私を……」


「それは違うよ。今は僕が引っかけるんだ。エリスはクモの巣に捕まっちゃってるんだよ。そのこと、ちゃんと分かってる?」


 また顎をクイッとすると、「ひゃい」とゆでダコのような顔で呟くエリス。

 ……なんだろう、いつもよりずっとチョロいぞ。

 やたら素直だし、昔のエリスとどこか重なる部分を感じてしまう。


「なんだか久しぶりに、髪に触りたくなってきたなぁ。頭撫でてもいい?」


 そのせいだろうか。

 思わずそんなことを口走ってしまう。


「こ、子供扱いしないでください! ……ちょっとだけなら、いいですよ?」


「え、いいの?」


 髪は女の子の命というし、ダメ元のつもりだったんだけど……。

 今日のエリスは本当に素直だな。

 

「二言はありません。ど、どうぞ触ってください」


「そっか。そこまで言うなら触らせてもらうね」


 まあ、本人がいいっていうならありがたく触らせてもらうとしよう。

 了承を取れたことに安心しながら、エリスの髪にゆっくりと触れていくも、ほんの少しの感触だけで触り具合が別格であることがすぐに分かった。

 

「うわっ、すっごい触り心地いい……」


「んっ、と、当然です」


「シルクとか高級な布触ってるみたいだよ。これ、いいなぁ。いつまでも撫でていられるかも」


 なでなで、なでなで。

 円を描くように、何度も手のひらを軽く回して感触を味わっていく。

 あまりの触り心地の良さに、まるで手が止まらない、止まれない。

 

「ん、んんっ!」


「んー、いやー落ち着くなぁ。本当に気持ちいい……」


「そ、そうですか。それはなにより……ていうか、私もなんだか気持ちよくなって……」


「せっかくだし、ちょっと空いてる方の手で髪を梳かせてもらうね。おぉっ、こっちもサラサラだ……」


「んっ、ふぅっ、ちょっ、テツくん。も、もうそれくらいで」


「あれ? 耳も真っ赤じゃん。熱くないの? ……うわ、あっつ!」


「やめっ、耳触らないでっ、私、そこ弱……」


「んー、熱はなさそうなんだけど……。ちょっと近くで見させてもらうね」


「ちょっ、やだっ、息がかかっ……んーーーー!!」


 ビクンとエリスが大きく身体を跳ねさせる。

 その際耳元に顔を寄せていた僕の顎に、彼女の肩が直撃した。


「んがっ! 舌噛んだぁっ!」


「テ、テツくんの鬼畜ぅ……ゴミ野郎ぉっ……」


 エリスはなにやら言っていたが僕としてはそれどころじゃない。

 少しの間、僕は舌の痛みで思わずうずくまるのだった。

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