5話:もう1人の*5
そうして、小一時間後。
「で、どうすんだ、アレ」
「どうしましょうねえ……」
グレイ達はまた集まって相談していた。
「ええと、あの機械の意思については、『世界を守ること』が目的だ、って分かったけれど……そこから先は話してくれなかったのよね?」
「ああ。そこから先は、悪用されることを恐れて何も言えない、ということだった」
「何の情報としても使えませんね。嘘かどうかすら分からないのですから」
……グレイ達は、『やっぱりこれ、駄目じゃないかしら』というエメディアと共に頭を抱えていた。
同時に、『世界を守るって、何だ』とも頭を抱えている。
……例の機械が言うには、『世界は危機に瀕している。そのために力が必要で、メカニジアはその開発を行っていた。協力も多い方がいいがあまり多くの協力者は望めない方法を取ろうとしている自覚はある』ということであった。
どう考えても、不穏である。
……だが、無視してしまうには、少々重い内容であった。それ故に、グレイ達は揃って頭を抱える羽目になっているし、特にジョードは『聞かなきゃよかった』という顔をしているところなのだが……。
「えーと……何はともあれ、報告はしてくるわ。ディアナバレイの協力を取り付けられたことは紛れもない成果だし……色々とお騒がせだった『鉄の棺』に私の人形と謎の機械と、あと、私を名乗る意思が同乗してました、って……うー、この報告、どう捉えられるかしら……」
エメディアは益々頭を抱えている。
自分達が持ち帰る情報が、あまりにも荒唐無稽なので仕方がない。グレイとしても、『こんな情報持ち帰って大丈夫か?』と思うくらいなのだから、エメディアはもっとそうなのだろう。
「とはいえ、そのまま報告するしかないのではないでしょうか。私達が持っていない情報を、国王陛下やローザテイルの調査隊が既に持っている可能性もありますから」
「そうね。判断は私達がやらなくてもいい、わよね……」
とはいえ、ルイナに励まされ、エメディアは少しばかり、元気を取り戻した。開き直った、とも言えるかもしれない。
「それで、改めてディアナバレイに安置してある『鉄の棺』の処理を行う、ということになるでしょうか」
「或いは、お父様のご意向次第だけれど、こっちにある『アイオンの右手』の話から始まるかもね……」
尚、ディアナバレイと協力を取り付けたことによって、例の『鉄の棺』は保護されている。……ディアナバレイ側でうっかり何かが起きないとも限らないが、ひとまずは安心しておいていいだろう。ディアナバレイはディアナバレイで、紛れもなく国だ。彼らとて、愚かではない。
……だが。
「……で、どうすんだ。報告にはこいつ、連れてくのか?」
スファルがそう声を上げつつ、未だ義肢が外れたままの状態のグレイを顎で示した。
そう。もし『荒唐無稽な、よく分からない報告』をしに行くのであれば……間違いなく、グレイはそこに居ない方が心証が良いであろう。
「ええ。連れていくわ」
しかしエメディアは、即座にそう答えた。
「……ディアナバレイの二の舞になるんじゃないか?」
グレイもまた、すぐに反論したが、エメディアの顔を見て、『ああ、これは覆らないだろうな』とも感じた。
「それでも。ここにグレイを置いておいたら、ジョードさんの家が襲撃されかねないもの」
「……なら、俺は1人で王都の外に出ておく」
「あなたのことを嗅ぎつけた誰かが襲いに来ないとも限らないでしょう。外には魔物だって、少ないけれど居ない訳じゃないんだし」
エメディアは堂々と淀みなく、グレイに完璧な反論をして……そして、堂々と胸を張って宣言した。
「それに!私、もう決めたの!もうあなたを放っておかない、って!」
エメディアの頭の上では、ウサミミが同様に胸を張って、ぷるるん、と体を震わせている。両者の決意は固いらしい。
「まあまあ、諦めたまえ、グレイ・シンダー」
更に、横からアイオンも出てきて、グレイの肩をぽふんと叩いた。
「エメディア姫のお手並み拝見、といこうではないか。君が居ても居なくても彼女は上手くやるだろうが……折角だ、苦難があった方が、物語は面白い」
「これは物語でも劇でもないんだぞ」
「そうかな?私はそうは思わない。人生など、後から振り返った時に面白ければ面白いほど良いのでは?」
……アイオンはこの調子であるので、グレイの援護は期待できない。
ならば、と、冷静であろうルイナと、グレイには比較的反発しやすいスファルとに救いを求めて見つめてみたが……。
「グレイ・シンダーもまた、同行すべきです。あの『意思』と直接やり取りをしたのは彼ですから。彼にしか話せない情報があります」
「ま、諦めろ。お前の意思なんざ尊重しねえ」
……最後の望みをかけてジョードを見つめてみたところ、ジョードは、『お前をうちに置いておく趣味はねえ』とにべもない言葉を投げつけてくれた。
ということで……グレイは、また、王城へ同行することになってしまったのであった。
そうして、翌日。
「問題はそもそもこいつをどうやって運ぶかってことだろ」
「裏通りを出ちゃえば、そう問題は無いと思うのだけれど」
「裏通りは走るしかないのではないか?グレイも手足があれば自力で走るだろう」
……グレイは、自分の義肢が取り付けられていく横で仲間達がそんな話をしているのを聞いて、只々気まずい思いをしていた。
自分を連れて行くというただそれだけで、彼らの負担は非常に大きくなる。治安の悪い場所では常に襲撃されることを考えていなければならないし、そうでなくとも、周囲から向けられる感情は良いものではないのだ。それだけに、気を遣うことは増える。
それだけに、義肢をもがれて運ばれていた時は、多少、気が楽だった。……手足が無いのは不便だが、傍目に分かるように『罰されている』状態になっていられるのは、グレイにとっては気楽なのである。
なので。
「では、グレイ・シンダーに首輪をつけておくのはいかがですか?」
……ルイナがそんなことを言い出した時、グレイだけは『いいかもしれない』と身を乗り出していたのであった。
「そ、それはちょっと……え?首輪?」
「はい。グレイ・シンダーがエメディア様の所有するものであると分かれば手出しする者は減るのでは」
エメディアが言葉を失う中、ルイナはごく自然に話す。
……が、流石に、エメディアが絶句し、スファルも、そしてアイオンまでもが絶句しているのを見て、ルイナも気づいたらしい。
「……ディアナバレイでは時々行われていましたが……もしや、ローザテイルでは、あまり行われないことですか?」
「そうね、全く行われないことね……」
ルイナは『なんと』と驚いていたが、それ以上にエメディアとスファルとアイオンの驚きが大きい。……ディアナバレイとは、真に他国なのである。文化の壁が、大きい。
「……ということで、ディアナバレイでは師弟関係でも婚姻関係でも発生し得ることですし、所属を示すものとして首輪が使われることもあります」
「成程ね……ドラゴンの文化だものね……」
「おお……なんたる衝撃……ディアナバレイが、斯様に不可思議な風習を持つ国だったとは……」
……そうして、ルイナから『ディアナバレイの文化』について説明を聞いて、エメディア達は納得半分、絶句半分の気分になった。グレイは最初から納得してしまっているが。
「でも、ええと、ルイナ。グレイにそういうことをすると……ええと、グレイがどうこうじゃなくて、私が、趣味を疑われることになるわ」
「そうなのですね」
「そうなのよ。ローザテイルでは、そうなのよ……」
グレイ自身は、首輪を掛けられようが枷を嵌められようが一向にかまわないのだが、エメディアは構うらしい。そして、エメディアが構うなら、グレイも構う。そういうことで、グレイを連れて行くにあたって、グレイに首輪を掛けるという案は棄却されたのであった。エメディアは心底ほっとした顔をしていた!
「で、どうすんだ。また手足バラして俺が担ぐか?」
そうして、また話し合いが振り出しに戻ってしまったところで、スファルが頭を抱え始めたが……。
「いや、俺を罪人として連行してくれ」
グレイは、先程のルイナの案から既に次の案を思いついていた。
「それなら、周りも溜飲が下がるだろうし、あんた達の名誉を傷つけることも無い、と思うが。どうだろう」
……要は、グレイが今、エメディア達によって運ばれているところだ、と分かれば、エメディア達までグレイの恩恵の影響で絡まれることは少ないのだ。ついでに、グレイが痛い目を見ているところだと分かれば、周囲はそれで納得してくれる。
多少、石が飛んでくるくらいは覚悟しなければならないだろうが……まあ、グレイに石が当たる分には問題無いし、スファルあたりが一喝すれば、その手合いは失せるだろうと思われた。
「……ということだそうだが。どうだね、エメディア姫。グレイの案に乗るか?」
「ちょっと……考えさせてね……」
「あー、まあ、フリするだけってんなら、いいんじゃねえか?ほら、首輪つけとくよりかは」
「ローザテイルにおいては、罪人のように連行されることより、首輪と鎖が繋がれていることの方が不名誉なのですね……?」
……エメディアは考え、アイオンとスファルは既に『もうそれしか無いな』とばかり、半ば賛成しており、そしてルイナは1人、別の方向から衝撃を受けていた。
グレイは、『そもそも俺を連れて行かなければこういうことで悩む必要は無いんじゃないか?』と思っていたが、それは黙っておくことにした。
そうして。
「よおし……じゃ、グレイ・シンダー。テメエを『俺達から逃亡しようとした罪』で逮捕する!覚悟しろ!」
「ああ、うん」
……グレイの手足は戻り、そして、戻って早々、両手に縄が掛けられて、その先はスファルが握ることになった。スファルはなんとなく楽しそうである。何が楽しいのかは分からないが、グレイとしては、仲間が楽しそうで何よりである。
「……じゃあ、行きましょうか。ジョードさん、色々とありがとう」
「おお……また来い、と言いたいところだが、あんま裏通りになんか来るもんじゃねえからな、もう来ないで済むことを願ってるよ」
エメディアはジョードと挨拶を交わし、ジョードにしては実に珍しく、笑顔での握手なども交わして……そうしてグレイ達は、王城に向けて出発することになった。
「おー、手足もいで運んだ時くらいには楽だな」
「そうだな。よかった」
「よくないわ。本当に、よくない……よくないんだからね、グレイ!」
「悪かった。もう言わない」
……裏通りを進む間も、グレイは然程、襲撃されなかった。予想通り、石を投げられる程度のことはあったが、それだけだ。
そうして表通りまで出てしまえば、後は、グレイがちらちらと見られる程度のものだ。エメディアが親し気に声を掛けられ、笑顔で応じることもあったが……少なくとも、グレイが外に出ている割にはかなり平穏であった。
「……今後もコレかしら」
「だな」
エメディアは早速、町行く人から花を贈られて笑顔でそれに礼を言いつつ……その花を一輪、そっ、とグレイの髪に飾った。が、グレイが『花が可哀想だ』と主張したため、グレイの髪に一度飾られた花であったが、無事、ウサミミの耳を飾ることになった。
……グレイはため息を吐きつつ、意気揚々と花を見せびらかすウサミミの耳を見て、何やら少々、救われたような気分になるのだった。
ウサミミは偉大である。




