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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第二章:鎧を纏う心
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32話:目覚め、空へ*5

 ということで、一通り空を飛んだルイナと、ルイナに乗って空を満喫してきたグレイであったが……。

「ええと……4人を載せて飛ぶのは、流石に難しそうね……?」

「……はい」

 そうして、地上へ戻ってきたグレイとルイナであったが……ルイナは、ぺしょ、と潰れるかのように地面に倒れ伏してしまい、そしてそのまま、人間の姿に戻ってぐったりしてしまったのである。どうやら、体力の限界であったらしい。

「飛ぶことを……久しく、していなかった、もので……」

「ああ、そうだったのね……」

「鍛え、直さなければ……」

 ルイナはぜえぜえと荒く呼吸を繰り返している。……ドラゴンの姿の問題以前に、体力の問題であったらしい。

 真っ赤になってしまったルイナの額の上には、ウサミミがもっちりと居座って、氷嚢のようになってやっているところだ。ルイナも、『ああ、ひんやりして、きもちいい……』と、ウサミミ氷嚢を喜んでいるので、ウサミミはますます気合いが入っているらしい。耳を振り回して頑張っている。何を頑張っているのかは分からないが。


「えーと、このままだとまずい、わよね……?」

 エメディアが『どうしましょう』と考え込む横で、ルイナは『申し訳、ありません……』と、しょげている。エメディアは慌てて、『ルイナのせいじゃないわ!』と弁明しているが、ルイナはすっかりしょげており、ウサミミに耳で撫でられて励まされているところである。

「……その、別の方法を考えた方がいい、かしら」

「いえ……私が4往復すれば済む話です」

 エメディアが頭を悩ませていると、ルイナがようやく、上体を起こした。ウサミミは一度落ちかけたが、うに、とルイナの肩をよじ登って、ぺそ、と頭の上に収まった。

「1人ずつしか載せられないなら、その分、回数を重ねれば……全員、運べます」

「いや、それでは危険だ」

 だが、そんなルイナの言葉をアイオンが遮る。

「あのメカニジア城の鉄の棺をどうにかした時、あれ自体が唐突に落下することも考え得る。その時、脱出までの時間を待ってはもらえないだろうからな……」

「ああ……」

 アイオンの説明は、すぐさまルイナに受け入れられた。ルイナは、『やはり、鍛え直さなければ』と深刻な顔をしている。

「まあ……最悪の場合、脱出の際に私とグレイは諦めるものとして」

「えっ」

 だが、そんなルイナに追い打ちをかけるかのように、アイオンの話が続く。

「エメディア姫とスファルは、なんとしても脱出させてもらわねばなるまい」

「お、おいおいおい。どういうこった、そりゃ。俺のことを何だと思ってやがる!?」

 これには、ルイナのみならず、スファルも噛みついてきた。だがアイオンは涼しい顔だ。

「何。耐衝撃機能を備えていない体の持ち主だと思っているが?」

「うぐ……」

「冷静に考えろ。私の体は、ほとんどが作り物だ。どうにかなったとして、手足も胴も、機械に置き換えればなんとかなる可能性が高い。グレイについては、まあ……耐衝撃の鎧を纏っているのだから、私ほどではないにせよ、マシだろう」

「その通りだ」

 グレイも『俺とアイオンは諦めてもらっていい』と賛同してしまったものだから、スファルはぎりぎりと歯を食いしばりながらも何も言えない。

「だが、スファル。君はそうではない。エメディア姫は、もっとだ。お判りいただけたかな?」

「……あんたが死ぬのは、惜しい。それに、エメディアを守る役割の奴も、必要だ」

 そうして、アイオンとグレイが頷き合っていると……。

「だったら決まりね!」

 エメディアが、元気よく声を上げた。

「私が1人で行くわ!」




「いやいやいやいやいや、待ちたまえ。待ちたまえエメディア姫。何がどうなってそうなってしまったのだ!全く分からん!おお、貴女はさながら気まぐれな風の精のようだ!」

 アイオンが大いに嘆くも、エメディアは『風の精で結構!』と堂々と開き直った。アイオンは『おお……!』と天を仰いで嘆いた。

「だって、私が適任でしょう?1人なら、ルイナが運べるわ。それに、脱出の時にもなんとかなるでしょうし……何より、あの『鉄の棺』内部で、きっと、私の力を使うことになるわ」

 ……アイオンは相変わらず天を仰いでいたが、エメディアを止める言葉は出なくなった。

 同時に、スファルとグレイもまた、何も言えない。

 ……あの上空の『鉄の棺』の中で、何があるかは分からない。だが、いずれにせよ、強い魔力や魔力の感覚を必要とするような何かがあるのだろうし……それをどうこうできるのは、エメディアだけなのだ。


「……それはそうだろうが」

「だから、私が行くわ。1人で。……それが一番いいと思うのよ」

 エメディアは『ね、決まり!』とばかり、胸を張った。凛々しく勇ましいお姫様である。

 ……だが。

「……よおし……分かった」

 スファルが、ゆらり、と立ち上がる。立ち上がって……未だ座り込んでいたルイナを指差して、吠えた。

「ルイナ!俺を載せて飛べ!んで……あのクズ鉄、地面に引きずり下ろすぞ!」




「なんだって、俺達が向こうに合わせてやる必要がある?あいつを地面に引きずり落としゃ、済む話だろ?んで、落ちてきたやつをのんびり調べりゃいいじゃねえか」

 スファルがいよいよ腹立たし気にそう言うものだから、エメディアは頭を抱え始めた。

「……中に女王エテルニータが居たらどうするの?」

「一緒に落としてぶっ殺す。死ねばいいだろあんなん」

 ふん、とスファルが鼻を鳴らせば、エメディアは『あああ……まあ、生かしておいても似た結末にはなるだろうけれど……』と嘆きつつ、尚も考える。……考えるということは、スファルの言葉にも一理ある、と思っているということだろう。

「引きずり下ろす、って言ったって、流石のあんたでも、膂力でどうにかできるものじゃないだろう、アレは」

「おう。そうだな。だが、そこはオーガの知恵ってモンがある」

 自信満々なスファルに、全員が『ほう』と興味を示す。確かに、スファルは鉱山の町で働いていたオーガだ。岩を穿ち、山を動かすような手段を知っていてもおかしくないが……。


「ああいうのは、ぶっ壊せば落ちてくるって相場が決まってんだよ!」

「おお……オーガの知恵、とは……!」

 ……『知恵』を披露したスファルに、アイオンが大いに嘆いた。グレイも少々、嘆きたい気分になってきた。




 だが。

「……でも、悪くはない発想だわ」

「エメディア姫!?エメディア姫までもが!?」

 エメディアが、スファルの言葉に何やら、賛同し始めてしまった。これにはアイオンも驚く。グレイだって驚く。なんと、ウサミミすら、その耳をぴんと伸ばして驚いている!

「でも、だったら余計に私の出番よ。私がルイナに載せてもらって、上空で、あれを止めるの。あれが動いているのって、つまり、魔導の仕掛けでしょ?だったら、それを破壊するにはもっと大きな魔力をぶつけるとか……或いは、『月の竜』相手にやったのと同じようなことをやるのか、どっちかがいいと思うの」

 エメディアの言葉に反論したい気分でいっぱいのグレイであったが……これはどうにも、難しい。

『単身、鉄の棺に乗り込んで調査する』というのならば止めるが、『外から相手を攻撃して、落ちてきた後で調査する』ということなら、エメディアの安全は増す。

 とはいえ、エメディアを1人きりで敵に近付けるのは、どうにも許しがたく……。

「じゃ、しょうがねえ。ルイナ、鍛えろ。俺とエメディア、2人が乗れるくらいに鍛えろ」

「はい。必ずや」

「えっ!?」

 ……結局のところ、こうなるのだった。




「ま、待ってよ!それは無茶だわ!」

「ルイナ!やれ!エメディアの言うことなんざ聞いてんじゃねえぞ!」

「はい」

 エメディアは『ルイナの負担が!』と大慌てであったが……ルイナ自身、乗り気である。更に、エメディアは助けを求めるかのようにグレイとアイオンを振り返ったが、こちら2人も『それがいい』と頷くばかりであったので、エメディアへの賛同は1つもない。

「エメディア姫」

 そうしてルイナが、エメディアに向かい合った。

「……私が、『月の谷』へ一度戻ることを、お許しください。あそこのダンジョンの核を、食らって参ります。そうすればもう少しは、マシに飛べるようになるでしょう。それで不足する分は……鍛えます」

 ……こうなってしまえば、エメディアも反対できないらしかった。

「……分かったわ。苦労を掛けるけれど、よろしくね、ルイナ」

「勿体ないお言葉です」

 ため息を吐くエメディアに、ルイナは嬉しそうに微笑んだ。ルイナの頭の上からウサミミがぴょこんと跳ねて、エメディアの頭の上に飛び移り、そこでぴょこぴょこと跳ねる。さながら、『よかった!』と喜んでいるかのようであり……そんなウサミミを見て、エメディアは益々深く、ため息を吐くのだった。




「おー……はええな」

「ふむ。やはり、ドラゴンというものは素晴らしい生き物だ。力強く、素早く、そして美しい……」

 そうして、一同は飛び去っていくルイナを見送った。

 というのも……彼女が1人で、『月の谷』……ディアナバレイで最初に入ったダンジョンへ、向かっていくことになったからである。

『月の谷』には、大きな割れ目がある。人間にはそこを飛び降りるようなことはできないが……ドラゴンであるならば、あの割れ目の中へ飛び込んで、飛んで、一気に奥底へ到達することもできてしまうのである。

 また、ルイナ1人であるならば、それほど負担なく飛べるらしい。急ぐ旅路であるので、ここは急いでルイナ1人に行ってきてもらう、ということになった。

「……俺が言うことじゃねえけどよ」

 そんなルイナを見送りながら、スファルはぼんやりと、首を傾げた。

「お前ら、ルイナが裏切るとは思わねえのか」


 ……グレイとエメディアは顔を見合わせて、揃って首を傾げた。

「……特に思わない」

「ええ。私ももう、思ってないわね。宿の時もそうだったし……今更じゃない?」

 グレイとエメディアがそう答えれば、スファルは『そうかそうか』と頷いた。

「私も全く、そんなことは思わないな。彼女は既に、エメディア姫の虜だ!それに、もしここで彼女が裏切るようならそれもまた一興!」

「……お前、それでいいのか……?」

 更に、呵々として笑うアイオンを見て、スファルは何とも言えない顔をしていたが……しかし、アイオンと意見の相違も無いようである。

「ま、そうだな。俺も思っちゃいねえよ。お前らもそう思ってるって分かったからもういい」

「そうね。まあ、ルイナが戻ってきたら、温かく迎え入れましょ。彼女はもう、私達の仲間だもの」

 エメディアは嬉しそうにそう言って、それから、ルイナが飛び去って行った方の空を見上げる。

「さ。私達も行きましょ」

 ルイナとは、ここからもう少しばかり『月の谷』へ近づいた位置の宿場で合流することになっている。ということで、グレイ達も旅路を急ぐのであった。




 だが。

 宿場が見えてきた、というところで……遠くの空から、おおん……と、竜の吠える声が聞こえてくる。

 おや、と思ってそちらを見れば……。

「……ルイナだわ」

 ばさばさと翼をはためかせてこちらへ飛んでくる、黒い竜の姿があった。あれは間違いなく、ルイナであろう。

「ほーう……?ルイナだけじゃねえな……?」

 ……だが、ルイナの後ろから、また別のドラゴンがやってくる。1体ではなく、2体も。


 となれば、何が起きているかは、推測できる。

「……ルイナがドラゴンに追いかけられてるんだわ!」

 ……ルイナを追いかけているドラゴン2体は、茶褐色の鱗を煌めかせ、また、吠えた。


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― 新着の感想 ―
まぁまぁ。 モテたくない相手にはモテるなんて、ルイナちゃん大変! 太陽の竜さんたちでしょうか。 美味しくいただかれにきたわけですね。 それにしても、グレイもアイオンもどうやらいのちだいじにコマンドの…
なんていうか…アイオン、(珍しく)大変だね…(肩ぽん わぁ。ダンジョン核だけじゃなく、栄養が二つも…!ラッキー!
ルイナさん、ナンパをされて断り逃げてるのでは 黒は女を美しく見せると言うし仕方ないね
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