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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第二章:鎧を纏う心
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30話:目覚め、空へ*3

 ダンジョンの最奥には、ダンジョンの守護者が居る。

 ……『銀の洞窟』のダンジョンの守護者は、ドラゴンであった。

「えーと、これも月の竜の一族?」

「はい。……時間稼ぎはお任せください」

 ルイナが颯爽と歩いていくと、そのドラゴンは首をもたげて、何やら、ルイナに向かって鳴き声を発し始めた。

 ルイナはそれを黙って聞いていたが……やがて、予備動作もほとんど無いままに、矢を放った。

 放たれた矢は、ドラゴンの翼の被膜に穴を開けた。これに、ドラゴンは怒りの咆哮を上げる。

「あなた達の時代はもう終わりました」

 だが、ドラゴンの怒りにも怯むことなく、ルイナはそう言って……にやり、と笑う。

「私の下につくか、ここで殺されるか。2つに1つです。さあ、どうしますか?」




 そうして怒りに暴れ狂ってルイナを殺そうとしたドラゴンは、エメディアの魔法によって瞬時に死んだ。

「ふう。今度は上手くいったわ!」

 エメディアはいよいよコツを掴んだようで、満足気な笑みを浮かべている。ドラゴンすらこのようにすぐ殺せてしまったのだから、満足もするだろう。

「エメディア姫。今のアレは、一体?」

 一方、アイオンが『今のは何だ!?』と慄きながらエメディアに尋ねた。すると。

「あれはね、相手の魔力に合わせて私自身の魔力を流して、共振させて魔力器官を破壊してるのよ」

「……成程。理屈は、分からないでもない。だが……どうも、実感として理解するのは、難しいな……」

 ……グレイも今一つ理解できないが、ひとまず、エメディアは何か、途方もなく難しいことをやってのけたのだろう、というところだけ、理解した。つくづく、エメディアは規格外だ。何もかも。

「今までは、とにかく大量の魔力を相手に注ぎ込んで、それで内側から魔力器官を破壊してたの。でも、それだと自分と同じくらい魔力が多い敵相手には、上手く戦えないでしょ?だから、より少ない魔力で、相手の魔力器官を直接破壊できるようにしたらいいんじゃないか、と思って」

 エメディアが話してくれるのはありがたいのだが、話を聞けば聞くほど、『ああ、規格外だ……』と思うしかない。

「……なあ、おい。エメディアは何言ってんだ?」

「何やら非常に難解なことを言っているが……エメディア姫は、我々には見えないものが見えていて、我々には感じ得ないものを感じ取ることができ、そして、彼女自身の感覚があまりに優れているが故に、相手の魔力の形状まで読み取れて、そして自分の魔力をそれに合わせて放つことができる、ということらしい……」

「……分かんねえ」

 スファルとアイオンもグレイ同様であるらしいので、グレイは少しばかり安心した。分からないのは自分だけではない、となると、少々安心もする。


「成程……魔力を、相手の魔力に合わせて放つことで、相手の魔力器官を揺らす、と……」

「そう。そうなのよ!ほら、少しだけ魔力を放つと、魔力の跳ね返りで相手の位置が分かるでしょう?それを、もっと相手に集中して行うの!」

 一方、ルイナは少しばかり、エメディアの感覚が理解できるようであった。女2人で楽しそうに物騒な話をしているのを遠巻きに眺めつつ、グレイ達は『分からない』と3人揃って首を傾げるのだった。




「じゃあダンジョンの核を探さなきゃね。このダンジョンがまだあるってことは、ダンジョンの核も当然、あるってことだし……」

「なら、奥じゃないか?気配がある」

「そうね。行ってみましょう」

 それから、5人揃ってダンジョンの最奥へ向かうことにした。幸いにして、ダンジョンの核は魔力が多い。強い魔力の気配くらいは、グレイにも分かるので、そう手間取らず皆を先導することができた。

 そして、洞窟の奥、岩が棚のようになっている箇所を覗き込めば……やはり、そこにダンジョンの核がある。

「ディアナバレイのダンジョンって、こうやってダンジョンの核が守護者の体外にあるのねえ」

「はい。ダンジョンは重要な資源です。そして、ダンジョンの守護者は竜ですから……竜が代替わりした時にも簡単に引継ぎができるよう、このようにダンジョンの核を外に出した状態で保管しています」

「ああ、そういうことなのね……」

 ディアナバレイという国は、やはり特殊だ。ドラゴンが国政を担っているのだから当然と言えば当然なのだろうが……ダンジョンの守護者の役割も、一族の中で役割や順番を決めて果たしていたようである。

「じゃ、ルイナ。早速だけれど、どうぞ」

 そうしてエメディアが『どうぞ』とルイナにダンジョンの核を示してみせると、ルイナは少々、躊躇うような素振りを見せた。

「……いいのですか?私が、食らってしまっても」

「え?勿論。だってそういう話だったじゃない?」

「しかし、ダンジョンの核は非常に高値で取引されるものです」

 エメディアが『そんなこと、気にしなくていいのに』と首を傾げている間も、ルイナはなんとも、気まずそうな顔をしている。

 そして。

「そもそも、私はあなた方を殺そうとしていた身です。なのに」

「うるせえ。さっさと食っちまえ」

 ……ルイナが尚も不安を口にしようとした途端、その口に、スファルが、ダンジョンの核を押し込んでしまった!




 驚いたルイナの細い喉が、ごくり、と動く。……ダンジョンの核を無事、呑んだらしい。

「あ……」

 ルイナが、『呑んでしまった……』とばかり、自分の喉を押さえて目を瞬かせている間にも、ダンジョンは崩壊を始め、そして、ルイナへと魔力が流れ込み始める。

 ……ルイナは戸惑っていたが、すぐ、気持ちを切り替えたらしい。ダンジョンの核の魔力をできる限り取りこぼさないように、と、必死に魔力を操っていく。

 ルイナは、魔力の操作自体は、かなり得意なように見える。エメディアがやった時よりもずっと、魔力の取りこぼしが少ない。零れる魔力があれば食べてやれ、とばかり身構えていたウサミミも、これにはガッカリである。

 そうして、魔力が落ち着いてくると……いよいよ、ダンジョンは消え失せた。

『銀の洞窟』は、無事、ルイナの魔力となったのである。




 ダンジョンが消え、ただの荒れ地となったその場所に、グレイ達5人は立っていた。

 そんな中で、ルイナは……ほう、と小さく息を吐いて、手を握ったり開いたりしている。

「……どう?大きなドラゴンに、なれそう?」

 そんなルイナに、エメディアがそっと尋ねると……ルイナは困惑しながらも、強く、こくん、と頷いた。

「はい。今ならば、間違いなく!」

 そしてルイナは、何やら体に力を込めて集中し始めた。魔法が動くのが、分かる。恐らく、本格的にドラゴンになろうとしているのだろう。

 ……そんなルイナを見守っていると、彼女の背からは翼が生え、手足は逞しく伸び、しなやかな爪が、小ぶりな牙が、そして、艶やかな鱗が、どんどんと生まれていき……。

「わあ……すごい!すごいわ、ルイナ!本当に、ドラゴンになっちゃった!」

 エメディアが歓声を上げる中、ルイナは見事、夜闇のように黒い鱗を持つドラゴンへと変貌を遂げたのであった。




「おお……!なんという美しさ!」

 さて。そんな状態のルイナを見て興奮気味なのは、エメディアだけではない。下手するとエメディアよりも興奮している様子であるのは、アイオンである。

 アイオンは早速、ルイナの足元をくるくると回って、ルイナの姿を観察していた。ルイナは、観察されるのが少々気まずいのか、身を縮めてアイオンを見ていたが。

「艶のある黒の鱗……いやはや、テルミナス・サジータの白銀の鱗もまた美しいものであったが、このように繊細かつ奥ゆかしい美しさもまた素晴らしい!まるで夜の帳に包まれたかのような美しさではないか!」

 アイオンは、どこからそんなに言葉が出てくるのだろうか、と思われるほどの賛美の言葉をルイナへ浴びせていく。ルイナは益々、体を縮めてしまったが、アイオンは全くのお構いなしだ。

「すごいわ……ねえ、ルイナ。触ってみても、いいかしら……?」

 そんなアイオンはさておいて、エメディアはルイナの眼前に立つ。そうしておずおずと手を差し伸べると……。

「きゅ」

 ……ルイナは、そんな声で、鳴いた。

『きゅ』などという、なんともドラゴンらしからぬ可愛らしい声を上げたルイナは、しかし、そんなことは気にも留めずに、ただ、エメディアの手に向かって、すりすり、と頬を寄せている。

 ……この様子に、エメディアは心を射抜かれたらしい。『まあ……!』と、それはそれは嬉しそうに目を輝かせて、ルイナの頬を、首を、どんどん撫でていく。

 顎の裏側は、鱗が少なく柔らかいらしい。エメディアはそこを撫でて、ますます目を輝かせている。一方、ルイナはそのあたりを触られるとくすぐったいのか、『きゅう』と鳴いて、少々身を捩り、少しばかり尻尾を振って、控えめに抗議した。

「あ、嫌だった?ごめんなさい」

 エメディアはすぐルイナの様子に気付いて、ぱっ、と手を離す。……だがルイナは、ふるふる、と首を横に振ると、また、エメディアの手にすりすりと頬を寄せるのだ。

「……なんつーかよ、こういうモンなのか、ドラゴンって」

「……俺も、こういう光景は初めて見る」

「だよなあ……」

 ……エメディアにすっかり懐いて甘えているようにも見える、大きなドラゴン。これがルイナだと分かってはいても、なんとも、不思議な眺めである。

「ルイナ、なんだよな、これ」

「そうだな」

「あいつ……ドラゴンになった方が素直なんじゃねえのか?」

「まあ……そうかもしれないな」

 ついでに、グレイとスファルは、『あのルイナがこうなるとは……』と、なんとも感慨深い気分になる。

 ……まだ、仲間として互いに受け入れるには、グレイ達も、ルイナとしても、互いに不慣れな感があるが……それでも、こうしてエメディアと睦まじくやっているドラゴンの姿を見ると、『悪くないんじゃないか』という気分には、なってくる。

 そうだ。これは、エメディアにとっても、ルイナにとっても、悪くない。……どちらについても、喜ばしいことだ。

 グレイとスファルは、そんなエメディアとルイナを眺めつつ……『ところでアイオン、あいつすげえな』『大した奴だよな』などと、アイオンについても話してみるのであった。




「きゃ」

 唐突に、ルイナの人間としての声が聞こえてきた、と思ったら、ルイナの変身が解けていた。

 いきなり人間の姿になってしまったものだから、ルイナはその場に尻もちをついてしまっている。本人も予期せぬことだったようで、目を瞬かせている。

「ああ、長い間、ドラゴンの格好で居るのは難しそうかしら」

「いえ、そんなことは……あっ」

 エメディアが心配そうに近付けば、ルイナは反論しかけて……しかし、つっ、と鼻血が落ちて、ルイナは慌ててそれを押さえた。

 それを見たエメディアも慌てて、ハンカチをルイナに渡して使わせつつ……神妙な顔で、言った。

「……休みましょう。よく考えたら、ルイナはついさっきダンジョンの核を呑んだばっかりだものね……。負担が無いわけ、無かったわ」

「いえ、しかし……」

「休みましょう」

 ……そうして、エメディアは有無を言わせず休憩時間とした。グレイ達としても特に異論は無いので。『じゃあ茶淹れるかぁ』『今日も野営か?』『ふむ、空へ向かうにせよ、もう1つダンジョンの核を手に入れるにせよ、一度宿へ戻るのは悪くないだろう』などを話しつつ、ルイナを監視しておく。

 こんな状態であるので、ルイナは無理をしようにもできず……ただ、エメディアに『はい、昼寝!』と命じられ、すごすごと、仮眠を摂ることになったのだった……。



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― 新着の感想 ―
魔力版菩薩掌かな?(漫画修羅の門参照)
ウサミミがおやつを食べそこねている…。 なんというか造形はともかく動きが可愛い生き物が増えるのはよいことです。 アイオンの賛辞語録がすごいけど、やはりなんか胡散臭いのはなぜでしょう…。
ダンジョンの核もだけど倒した守護者は食わんのだろうか。それとも行間で心臓石だけごっくん済んでるんだろうか。守護者も竜なんだから心臓石有るよね?守護者になっちゃうと無いの? 守護者が核とは別っつか外部か…
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