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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第二章:鎧を纏う心
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25話:月の竜*5

 ……そうして、グレイ達は少々剣呑な雰囲気もありつつ、出発した。

 出発は、一度、グレイの大楯を取りに戻るところからであったので、時間を食った。……帰り道も落石で塞がっていたので、それをなんとかするところからの作業だったのである。

 だがそれでも一度戻る判断を下したのは、エメディアが『グレイがこれ以上自分自身を盾にするようなこと、あっちゃいけないわ!』と声高に主張したためである。グレイは、『小盾はあるから何とかなると思う』と主張したのだが、グレイ1人の主張はいとも簡単に潰された。まあ、当然である。


「裏切ったら殺すからな!」

「はい」

 ……そんな道中、一際剣呑なのはスファルである。スファルはやはり、ルイナに対して警戒心が抜けないらしい。それでいて、彼女の境遇を自分に重ね合わせてしまうらしいので……何とも、複雑そうな顔である。

「まあまあ。道中は楽しくあるべきだ。どうぞよろしく、ルイナ嬢」

「よろしくお願いします、アイオン卿」

 一方、アイオンは只々ウキウキと楽しそうで、スファルのような葛藤は見受けられない。

「……アイオン卿。ところで、その手足は……義肢ですか?」

「ご名答!」

 アイオンは終始この調子であるので、ルイナもスファルよりはアイオンの方が話しやすいようだ。……ルイナが少々ぎこちないながらも問いかければ、それだけで問いの10倍ほどの返事が来るのだから、まあ、話しやすいことは間違いない。

「君とはまた事情が異なるが、私も自身の強さを追い求めるが故に、色々とやってきた。その内の一つが、コレだ。作り物の手足だが、よく動く。痛みは無い。生身の体より頑丈だ。魔石を消耗しはするが、性能がいい。……これによって私は、メカニジアの騎士の地位を手に入れたのだ」

 アイオンは誇らしげに語って聞かせると、ふと、肩を竦めた。

「……愚かしい、と言われることもあったがね。しかし私は後悔などしていない。君にはご理解いただけると思うが……」

「ええ。よく、分かります」

「ふむ。ならば私達は、よき仲間であれるだろう。そう願っているよ」

「……私も、そう願っています」

 ルイナがぎこちなく笑みを浮かべれば、アイオンはいよいよ上機嫌に『さあレディ。そこの亀裂にお気を付けを』などとやりつつ、ルイナと共に進んでいく。


「……洞窟、すごいことになってるわね」

 アイオンがルイナに『お気を付けを』などとやっているのは、ひとえに洞窟が『すごいことになってる』からだ。

「崩落したんだからこうもなるだろ」

「そうねえ……月の竜を直接狙うよりもとんでもないことになっちゃったわ」

「それは間違いないな」

 エメディアは、『この洞窟の惨状、私のせいよね……』とため息を吐きつつ、あちこちに散らばった岩石やあちこちに走った亀裂を眺めている。

 ……だが、あの時、エメディアが月の竜本体ではなく、足元の床を狙ったのは悪くない判断だった。グレイはそう思う。

 恐らくエメディアは、太陽の竜を一撃で仕留め損なったことを気にしている。だから、月の竜ではなく、月の竜の足元の床を狙った。月の竜を一撃で仕留められる自信が、無かったからだ。

 ……エメディアの表情は、少々暗い。だがグレイには、どうすることもできない。

 グレイにできることといったら、エメディアが『2発目』を放つことになったとしても問題なく戦えるよう、自分自身がより一層強い盾であることだけなのだ。




『銀の洞窟』は、奥に進めば進むほど、銀色であった。

 銀色の鉱物の結晶があちこちに生じており、それらは時に星のように煌めき、時に剣のような鋭さを見せた。

「おお、見たまえ!これは魔法銀だぞ!なんと美しい……!」

 それらの内の1つが、アイオンの目に留まったらしい。『魔法銀』の結晶は、それこそ天然の剣のように岩の間から伸びている。

「実は、私のこの鎧は魔法銀の合金でできているのだ」

「ほーう。確かに、ものがいいように見えるな。魔法銀は確かに、鎧にするには悪くねえ。鉄みてえな重さはねえし、しなやかだ。魔法との相性もいい。どんな金属と合わせるかによって性質が変わるが、それも魅力の内だな……」

 スファルは、アイオンが気に入らなくとも鉱物や金属の話には興味があるとみえ、素直にアイオンの鎧を見物しに行く。……魔法銀は希少性もさることながら、加工が難しいことで有名な金属だ。さぞかし高くついた鎧なのだろう。ジョードが『持ち込みの部品が無かったら請けてねえ』と言っていた理由がよく分かる。

「こっちは普通の銀だな。こっちは白金……お。こっちは『賢者の錫』だ。珍しいモンもあるんだな」

 スファルは鉱物を見るのが楽しいと見え、アイオンより楽しそうになってきた。

「おい。ここは元々、鉱山か何かだったのか?」

「いえ。墓所だったそうです」

 が、楽し気であったスファルは、ルイナの返答によって、ぴしり、と固まってしまう。

「戦士のための墓所だったとか。そこがダンジョンになり、副葬品がこのように鉱物として再び出るようになったのでしょう」

「……お、おお……そ、そうだったか。なら、発掘はあんまりできねえな……。真のオーガは、死者を弔う気持ちを大切にする……」

 急にしおしおとなってしまったスファルを見て、ルイナはきょとん、とした後、ふ、と少し嬉しそうに笑った。

「いえ。必要なら、お持ちください。ここの核を私が食らえば、このダンジョンも消えます。……眠る戦士達も、自分達の武器や鎧や装飾品が、新たな戦士達のためになるのであれば、きっと喜ぶことでしょう」

「そ、そういうもんかぁ……?」

「そういうことなら遠慮なく、いくらか頂いていこう。また手足を失う可能性を考えると、魔法銀はいくらかあった方がいいからな……」

「そう何度も、手足を失わないでくれる?ジョードさんが泣くわよ!」

 ルイナの言葉を聞いて、遠慮という言葉から最も遠い位置に居るアイオンが早速、そこらから魔法銀の結晶を採取し始めた。

 エメディアも、『なら、一つもらっていくわ。ここに眠る戦士達に報いるために使う』と、何かの結晶を手に取る。グレイは『アイオンが持ちきれないだろうからな……』と魔法銀を採れば、スファルもまた、『じゃあ、俺も貰うぞ』と、なにやら採取し始めた。

 そんなグレイ達を見て、ルイナも『では、私も』と、鉱物採取を始めるのだった。




 ……そんなことをしながらダンジョンを進んでいけば、グレイ達は自然と打ち解けてきた。

 一番剣呑であったスファルも、元々がさっぱりした気質であるので、ルイナのことをさっさと割り切れてしまったようだ。

 ルイナは相変わらずぎこちない様子が見られたが、これは仕方がないだろう。……何せ、ルイナはどうも、同族の間で『嫌われ者』であったようなので。

『嫌われ者』であるグレイには、分かる。『嫌われ者』は嫌われるが故に、人と接することに慣れていない。今、グレイがこうしてエメディア達と普通にしていられるということは、非常に珍しいことだ。グレイの今までの人生の中で、こんなことは一度だって無かった。

 だからこそ、ルイナもグレイと同じように、人と接すること自体に不慣れなのだろう。

 ……グレイはルイナを見て、『俺もこういう具合だったんだろうか』と、少しばかり、気まずく思う。

 エメディアと初めて出会った時、上手く会話できていただろうか。エメディアはグレイの恩恵があっても尚、グレイとごくごく当たり前に会話し、グレイとごくごく当たり前に行動を共にしてくれるほどの度量がある人ではあるが……グレイの態度を、厭うことは無かったとしても、奇妙に思ったことくらいは、あったのでは。

 ……そう考え始めたグレイは、さっさと考えを打ち切った。

 考え始めると、どうも、『今の仲間達に嫌われたくない』という恐怖に直面してしまいそうだったので。


 とはいえ、グレイが何を考えているかなど、他の4人には関係が無いことだ。

 特に、エメディアはルイナに対して、『仲良くなるわ!』とばかり、ぐいぐいと距離を詰めている。それにルイナは、少々緊張し、少々慌てながら対応しているのだが……。

「……あの、ルイナ。私が話しかけるの、迷惑かしら」

 そんなルイナを見て、エメディアが少々、不安そうに尋ねた。途端、ルイナは驚きと焦燥に満ちた表情で顔を上げる。

「そんなことは、ありません。……申し訳ありません。私の返答が、稚拙なばかりに」

「えっ、そんなことは無いけれど……」

 ルイナが早口に言い募るのを聞いて、エメディアは首を傾げる。エメディアの頭の上で、ウサミミも耳を傾げる。

「……あの、じゃあ、ルイナは、緊張してるだけ?」

「……はい」

「嫌じゃ、ない?本当に?」

「はい。決して、嫌ではありません。ただ……こんな風に、笑みを向けられると、その、どうしたらいいものやら……。それに、私が皆様に無礼を働いたことは間違いのないことです。警戒されても、疎まれても、当然のことで……だからこそ、その、どうしていいものやら、決めあぐねております」

 ルイナが言うことは、グレイには大いに理解できる。グレイも概ね、同じだ。同じことを考えている。今もそうだ。今は少々、割り切れるようになってきているようにも思うが……。

「まあ、それはそうよねえ」

 エメディアは、ちら、とグレイを見て、何か納得したように頷いた。『グレイと同じようなこと、考えるのね』といったところだろうか。……グレイとしては、少々気まずいが。

「でも私達、今は共闘する仲だもの。まあ、スファルじゃないけど、『裏切ったら殺す!』ってことには、なっちゃうけど……でも折角なら、仲良くやれたら嬉しいわ」

 エメディアはルイナに笑いかける。グレイにとっても、『眩しすぎる』笑顔だ。ルイナも同じように思っているのだろう。

「……何故?」

 発せられたルイナの問いは、グレイの問いでもある。

 グレイは、らしくないと自分でも思うほどにしっかりと聞き耳を立てて、エメディアの返答を待ち……。

「えっ、何故、って……仲良くやりたいって思うのは、そんなに特別なことじゃない、んじゃないかしら……?」

 エメディアは、『そんなこと、考えたことなかったわね……』と、戸惑う。

 ……グレイやルイナにとってはごく当たり前の疑問だが、エメディアにとっては、『考えたことも無かった』ことであるらしい。それだけ、両者の隔たりは大きい。

 大きい、のだが……。


「……私、愛される分は愛し返したいのかも」

 エメディアは、そんなことを言った。

「私、どうしたって、好かれてしまうから。……嫌いな人にまで好かれて困ることもあるけれど、でも、そうじゃないことの方が、多いの。だから……その分、返さなきゃ、って、思うわ」

 ……エメディアの言葉に、ルイナは目を丸くしている。グレイも、似たような気分だ。自分が想像したことも無い世界の話を、エメディアはごく当たり前に語っている。

「……お辛くは、ないのですか」

「そうねえ……ええ。勿論、それを苦しいって思うこともあるわ。どうしたって、返し切れないものだから。……でも、私はそういうものなんだ、って、思うようにしてる」

 とはいえ、エメディアも『当たり前』に語るまでに、様々なことを経験し、様々なことを考えてきたのだろう。彼女の恩恵の重さは、グレイも知っている。


「ねえ、ルイナ。私のこと、好きになってくれたら嬉しいわ。その分、私、頑張って返すから」

 そうしてエメディアは、ルイナの手を握った。

 ……ルイナが、瑠璃紺の瞳を瞬かせる。ルイナは、きゅ、とエメディアの手を握り返して……その表情は随分と不安気だった。

「ほーう。ルイナ、お前、随分と顔が分かりやすくなってきたな」

 そんなルイナに、スファルがそんなことを言う。エメディアは『ちょっと!』とスファルを止めようとしたが、スファルはにやりと笑って……ルイナの頭を、わしわし、と撫でた。

「これからもそれでいけ。仲間同士、何考えてるのかなんて、分かりやすい方がいいに決まってるからな!」


 ……そうしてスファルが去っていってしまうと、ルイナはぽかん、とし……そんなルイナの手を引いて、エメディアがにこやかに歩き出す。そうすればルイナも、歩き出さないわけにはいかない。

 混乱で不安が吹き飛んでしまったような顔をしているルイナを見て、エメディアはにこにこしているし、スファルもにやにやしているし……そうしていれば、ルイナもまた、少しずつ、『分かりやすく』なっていくのだった。


「ちなみに、スファル。私の考えは」

「分かんねえ!大体お前、顔が見えねえだろうが!なんなんだよその鎧兜はよ!」

「美学だ!」

 ……尚、仲間同士であっても、『分かりやすい』かは別の問題である。




「さーて……ここら辺が最下層だと思うが」

 そうして、グレイ達は最下層へとやってきた。

「あっ。穴はあのあたりじゃない?瓦礫がすごいもの」

 エメディアが作った大穴の底が、ここであるらしい。つまり、月の竜が落ちてきたのはここであろう、と思われるのだが……。


「月の竜の遺体は、どこだ……?」

 ……穴の底。血の跡は見えるのだが、肝心の『月の竜』の姿が、見当たらない。


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― 新着の感想 ―
そりゃあドラゴンが崩落位でくたばるかと言えば…くたばる事もあるだろうけど一般的にはしぶとそう。
スファルさんはスファルさんで色々と考えてるんでしょうけど、敵なら倒すし味方になったなら仲良くしよう!ってメンタルは見習いたいですねぇ。流石は誇り高きオーガ!
うわー、不穏なラスト。やっぱり落盤では月の竜にトドメをさせなかったかー。 次回辺りまたテルミナスが奇襲してきそうですが、グレイの大楯で凌げるに違いない……きっと。 ルイナはエメディアと愉快な仲間達に絆…
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