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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第二章:鎧を纏う心
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22話:月の竜*2

 がつん、と、鈍い音が響く。

 ドラゴンの爪と、板金が思い切りぶつかった音だ。

「……鎧が頑丈で、助かったな」

 ……絶句するエメディアとルイナの目の前で、グレイはそう呟いて笑う。

 続いて、自分の胸を覆う鎧が大きく凹んでいるのを見て、『また修理費が高くつくぞ、これは』などと思いつつ……血を吐いた。




「おい、グレイ!何やってんだテメエ!」

「盾が無いんだ」

「それは知ってる!だからっつって敵の前に飛び込むのは知らねえ!」

 スファルの怒声がグレイの耳を引っ叩くかのように飛んでくる。グレイは口元の血を拭いつつ、『これは多分、ちょっとばかり気管か肺をやったかんじだな』と判断した。骨は……駄目だったら駄目で仕方がないだろうが、ひとまずは動ける。

「……だが!エメディアを守ったことについては褒めてやる!俺は寛大なオーガだからな!」

「そいつはどうも」

 グレイがにやりと笑ってやれば、スファルは『けっ』と嫌そうな顔をしつつ、ドラゴンに向かっていった。

 続いて、アイオンもまた、モーニングスターを振り回してドラゴンの足先や尾を狙って攻撃を繰り出している。……ドラゴンとしてもこれは非常に嫌な攻撃であるらしく、ドラゴンの注意は今、完全に、アイオンに向いていた。

 ……そして。

「じゃ、俺はここであんたを処理すればいい、ってわけだな」

 グレイは、ルイナの首に手を掛けた。




 先程のアレは、ルイナがエメディアを守ろうとしたものではない。

 エメディアが逃げられないようにし……ドラゴンの攻撃を確実に当てるためのものだったように思われる。

 つまり……ルイナはエメディアを殺すつもりだったのだろうし、同時に、自分もまた、死ぬ覚悟であったのだ。


「何故、あんなことをした」

 ルイナの首にナイフを当てて、『俺はいつでもお前を殺せるぞ』と言外に伝えつつ、グレイはルイナをじっと見下ろした。

 ……だが、ルイナは何も喋らない。

「俺をそっちに引き込もうとしたのは、エメディアを狙っていたからだな?エメディアの盾が無い方が、都合がよかった」

 グレイが確認するようにそう言ってみるも、やはり、ルイナは喋らない。ただ諦めたようにじっとしているだけであったし、グレイがルイナを殺そうとしても抵抗しないのだろうな、と思われた。

 こういう手合いが、一番厄介だ。情報を吐かない。協力もしない。生かしておいたらきっと、害になる。

 ……だから、殺すしかない。


「待って、グレイ」

 だが、グレイがナイフを引こうとしたその瞬間、エメディアの声が飛んできた。

 エメディアを見れば、エメディアはその空のような瞳をじっとルイナに向けて、何か、迷っている様子であった。

 ……エメディアが迷っているのだから、グレイは待つ。今すぐにルイナをここで殺しておくべきだろう、と思いはするが、エメディアがルイナを殺すかどうかを迷っているのであれば、グレイは、待つ。

「……ルイナ。1つ、聞きたいことがあるのだけれど」

 そうして、エメディアはどこか歯切れ悪く、ルイナに声をかけ始めた。ルイナは相変わらず、エメディアの言葉にも反応を返さなかったが……。


「あなた……あのドラゴンが居なかったら、どうなるの?『自由に』なれるのかしら?」

 ……エメディアがそう問いかけた途端、ルイナの表情が凍り付いた。


「……一体、何を」

 ルイナが震える声でエメディアに問いかけると、エメディアは『ああ、やっぱり』とばかり、微笑んだ。

「私達、これからあのドラゴンを倒すわ」




 グレイは、ぽかん、としていた。

 あのドラゴンが『月の竜』であるのならば、倒してしまっては意味が無い。先程、エメディアがアイオンに言っていた通り。

 だが……グレイ個人の考えとしては、あのドラゴンを倒してしまうことには賛成である。

 ……何せ、たった今、ルイナは敵対を表明した。そしてあの『月の竜』と思しきドラゴンもまた、こちらに協力する意思は見られない。

 ならば、そんな奴らをアテにして、メカニジアの調査を行うことなどできはしない。……よって、殺すしかない。グレイはそう思う。

「月の竜が、居なかった、ら……?」

 一方、ルイナは動揺していた。エメディアの言葉に、何か酷く揺さぶられるものがあったのかもしれないが……。

「……わざわざ死ぬことなんかないんじゃない?あなたに死ねって命令する誰かのために死ぬつもりなら、もう一回考えてみた方がいいわね。少なくとも、その相手が、あなたより先に死ぬのだから」

 エメディアの言葉を聞いて、ルイナは……エメディアを止めるでもなく、ただ、その場に座り込んでエメディアを見上げていた。


 エメディアが杖を構え、集中し始めた。

 つまり……『30秒』時間稼ぎが必要、ということだろう。

「エメディア姫!流石に、ドラゴン相手に2人で立ち回るのは厳しい!」

 ……だが、声を聞いてそちらを見れば、アイオンはドラゴンの手に捕まれ、ギチギチと締め上げられていた。即座にスファルが岩石を投げ飛ばしてドラゴンの手首を狙ったが、それでも、ドラゴンも必死だ。アイオンを離すことはしない。

 グレイは、ちら、とルイナを見た。

 ルイナは相変わらず、茫然とエメディアを見上げ、そして、ドラゴンを眺めているばかりである。……エメディアを攻撃しそうには、見えない。ならばグレイも、アイオンを救出するために向こうへ加勢するべきだろう。グレイはエメディアへ視線を送り、エメディアがそれに頷いてくれたのを見て、駆け出した。




「グレイ!テメエ、盾もねえのに何しに来た!」

「囮くらいはやれる」

 グレイがドラゴンの前に躍り出ると、スファルの怒声が飛んできた。心配性のオーガである。

「おお、なんという蛮勇!グレイ・シンダー!私は君の大いなる勇気に敬意を表する!さあ、私を助けてくれたまえ!」

 が、アイオンはグレイの参戦を歓迎してくれるようだ。何とも調子のいい騎士である。

 ……とはいえ、スファルの言う通り、『何しに来た』と言われても仕方がないのが今のグレイである。大楯は無く、斧槍も無い。今のグレイには、鎧くらいしかないのである。

「まあ、何も無いならまずは奪えばいい」

 なのでグレイは、ディアナバレイの兵士達に目を向けた。

 ……丁度良く、武具を持っている奴らが居る。ならば、奪えばよい。




 グレイの行儀の悪い戦い方は、裏通り仕込みである。そして一対多数の戦いにも、ある程度は慣れている。何せ、グレイは嫌われ者だ。大抵の場合、グレイ以外の全員が敵なので、囲まれて戦う羽目になることは多い。そして、そんな時に大楯が無ければどうすればよいか、といえば……。

「っと、危ないな」

 ……グレイは、自分に向けて突き出された槍に向けて、他のディアナバレイ兵を突き飛ばした。槍は咄嗟にひっこめられたが、仲間を刺しそうだった兵士と仲間に刺されそうだった兵士は、怯む。怯んだ相手を後ろから蹴って、グレイはそいつの槍を奪い、目の前に居た兵士の側頭部を殴りつけ、そして、刺した。

 まずは1人。……続いて、後ろから来ていた奴を槍で殴り、足払いを掛けて倒し、刺す。これで2人。

 槍を奪った兵士を改めて刺し貫いて、3人。……更に、この兵士からは、小盾バックラーも奪う。

 小さな盾は、仲間を守るのには向かないが、1人で戦う分にはそれなりに役に立つ。……グレイはあまり、得意ではないが。

「さて……後は弓兵か」

 グレイは自分に向けて放たれた矢を見て……無視することにした。今は、アイオンの救助が先である。

 並大抵の弓兵であるならば、大して気にしなくていい。何せ……グレイは、鎧を身に纏っている。放たれた矢が鎧の隙間を縫ってグレイの体に突き刺さる可能性は、低い。ならば、その低い可能性は諦めるものとして割り切る。

 グレイの背に、矢がぶつかった。だがそれだけだ。ジョードが打った強固な鎧は、矢を通すほど柔ではない。

 代わりに、グレイはいよいよアイオンを握り潰さんとしているドラゴンに向かって駆けていき……戸惑うドラゴンの攻撃を難なく掻い潜ってドラゴンの足元へ到達すると、ドラゴンの足の爪の裏側に向かって、槍を突き刺した。




 ドラゴンの絶叫が響く。グレイの一撃は、さぞかし痛かったことだろう。

 そして、ドラゴンは痛みに耐えかねて、ようやくアイオンを放した。

「助かった!礼を言うぞ、グレイ!」

 アイオンは先程まで握り潰されそうであったというのに、それなりに俊敏に動いてドラゴンの前から離脱した。頑丈な奴である。

「スファル!戻れ!」

「分かった!」

 スファルもドラゴンの横っ面を殴りつけてからこちらへ戻ってくると、ドラゴンはいよいよ怒り狂って、こちら目掛けて攻撃を繰り出そうとしていたが……。


「いくわよ!」

 エメディアの声が鋭く飛び……直後、凄まじい魔力の奔流が放たれた。

 ドラゴンが身構える。だが……身構えたところで、どうしようもない。

 エメディアの膨大な魔力は、ドラゴンを襲った。ドラゴンの内部の魔力をかき乱し、狂わせ……そして。

 ばきり、みしり、と音がして、洞窟の床に、亀裂が走っていく。

 ……そうして、ドラゴンを乗せたまま、床が落ちた。




 しばらく、地響きや落盤が酷かった。グレイは、『こういう時にこそ大楯があればな』と思いつつ、エメディアを自分の鎧と自分の体で守るべく動く。

 が、スファルが適当な岩盤を担いで持ってきて、『この下!この下に入れ!』とエメディアを招き入れ、エメディアが咄嗟にルイナも引っ掴んでその下に入り、更に『では遠慮なく』とちゃっかりアイオンも入り込んだため……グレイの出番はなかった。

 自分だけ礫や落石に打たれているのも馬鹿らしいので、グレイも『じゃあ、俺も……』としゃがんで、スファルの岩盤の下に入った。……スファルは、『エメディアは招き入れたが、グレイやアイオンのことは入れてやるつもりは無かった』というような顔をしていたが。

 ……そうして、落石の音を聞き、崩れていく洞窟の姿を眺め……そうしている内に、次第にそれらが収まってくる。

「……助かったか」

 やれやれ、とスファルが息を吐き、グレイはもぞもぞと岩盤の下から出る。

 洞窟の中は、随分と様変わりしていた。大規模に床が抜け、その衝撃で天井も崩れ……とやったのだから、当然ではあるが。

 ディアナバレイの兵士達も、逃げたか、潰れたか。姿はどこにも見当たらなかった。


 ……そんな様子をグレイが確認していると。

「ねえ、ルイナ。月の竜は落っこちちゃったけれど……」

 エメディアが、ルイナに笑いかけていた。

「……あなたはどうする?」

 ルイナは只々、困惑の表情で、ドラゴンが落ちた大穴を眺めていた。


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― 新着の感想 ―
もしかしてテルミナス自身が「月の竜」だったりするんだろか。だとしたらルイナに命令できるのも納得しちゃうんだけど。 まーしかし崩落からの落下程度ではまだ生きてそうですね………太陽の竜さんもエメディアの…
下にスライムが敷いてあるといいな!え?敷いてない?じゃあ己の不運を嘆け
む、、、読み違えましたか、ルイナさん、ただしがらみで「命令されていた」だけでしたか。てっきり、恩恵を消した反動の何かで、こんな行動になってるのかな、とか思ってしまいました。 そして、月の竜の不可思議行…
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