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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第二章:鎧を纏う心
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20話:月に叢雲*6

 グレイはしっかり拘束された状態で、銀の洞窟内部に転がされていた。

 手首と足首にそれぞれ、枷が嵌められている。手も、正面で縛ってくれれば多少楽なのだが、後ろ手に拘束されてしまったので、少々苦しい。

 ……そして、その状態で寝かされていて、槍を突き付けられているので、中々に、状況も苦しい。

 どうやら、グレイは人質にされるようだ。


 とはいえ、グレイは然程、焦っていない。

 大楯も斧槍も置いてきたが、鎧は着てきた。そして、グレイは人質にされ、このように拘束されたところで……然程、困らないのだ。

「人質にするなら、他の奴に声を掛けた方がよかったんじゃないか?」

「……そうでしょうか?他に選択肢はなかったと思いますが」

「まあ確かに、スファルは捕まえるのが難しいだろうし、アイオンはあんた達から見ても何を考えているか分からない奴だろうし……エメディアと交渉したいなら、エメディア自身を捕まえるわけにもいかないだろうが……」

 スファルはともかく、アイオンが聞いたら怒りそうなことを言いつつ、グレイは、『……自分で言っていて気付いたが、確かに、俺は捕まえやすいし交渉しやすい方なのか』と、ふと思ってしまった。

 とはいえ、『人質』としての価値としては、グレイが最も低い。そう思うからこそ、グレイは、『他の奴に声を掛けた方がよかった』と思いはする。

 だが。

「そして、あなたは優秀な戦士です」

 テルミナスはそう言って微笑んだ。

「相手の戦力を削ろうと思うのであれば、あなたを引き抜くのが一番いい」

「……どうだかな」

 ……テルミナスの言葉をそのまま信じるつもりはない。だが、どうやら自分の何かが高く評価されているらしい、ということだけは、グレイも察した。


「テルミナス様、そろそろ」

「ええ、そうですね」

 そうしている内に、ディアナバレイの者が何か、テルミナスに囁く。テルミナスも頷くと……グレイを振り返って微笑んだ。

「では、グレイ・シンダー。あなたが共に来てくれることを願っています」

 グレイが黙っていても、テルミナスは特に気にした様子もなく、去っていった。

 ……かつ、かつ、と軍靴の音が遠ざかっていくのを聞きながら、グレイは『てっきり、テルミナスはここに残るんだろうと思っていたんだが』と首を傾げる。

 交渉するのならば、テルミナスが直々にやるべきだろう。ディアナバレイの誰か……もっと交渉が上手い者が居るにせよ、テルミナスが同席しない理由にはならないように思う。

 となると、何故、テルミナスは退席してしまったのだろうか。何か、準備しなければならないことでもあるのか。だとしたらそれは間違いなく、グレイ達にとって厄介なものであろうが……。

 ……グレイは、『まあ、監視が減るのはありがたいことだ』と笑いつつ、そっと、自分を拘束する枷を撫でた。




 +




 エメディア達が銀の洞窟に入ってすぐ、ひやり、とした空気が肌を撫でていった。

「……涼しいのね」

「洞窟の中には、日も差しませんので」

 ルイナの声を聴きつつ洞窟の中を見回せば、銀色に光る鉱石がいくつも見つかった。ランプの光にきらきらと煌めいて、非常に美しい。『銀の洞窟』の名前はこれから来ているのだろうと思われた。

 だが、そんな美しい景色に気を取られている場合ではない。エメディアは、ごく弱い魔力をそっと放っては、魔力の跳ね返りを見て、グレイがどこに居るかを探していた。

 ……すると。

「……ルイナ。グレイは、もっと奥に入ったの?」

「ええ。こちらかと」

 ルイナの返事を聞きつつ、エメディアは、ちらり、と、入り口付近を見た。

 恐らく、グレイは入り口からそう遠くないところに居る。ディアナバレイの面々も、少なくとも何名かはそこに同席していることだろう。

 だが、ルイナはこのまま、エメディア達を洞窟の奥へ奥へと連れていきたいようだ。……となると、彼女らの狙いは、洞窟の最奥まで誘ったエメディア達の退路を塞ぐことだろう。

「……分かったわ」

 エメディアは少し考えて……杖を右手にしかと握り、そして、左手に持っていたランプをアイオンに預ける。するとアイオンは、『エメディア姫。エスコートさせて頂いても?』と申し出てきたので、エメディアは左手をそのまま預け……。

「こっちの方がいいだろ」

「えっ」

 そこに横からやってきたスファルの腕が、ひょい、とエメディアを攫った。軽々と持ち上げられてしまったエメディアは、そのまま、スファルの片腕にすっぽり収まって抱き上げられてしまった。

 ぱち、と目を瞬かせていたエメディアだったが……そんなエメディアに、スファルがにやりと笑って、囁く。

「よぉし……エメディア。よーく、聞け。歩くのは俺がやってやる」

 そしてスファルは、ちらり、と後方を見やった。

「お前はお前の仕事をやりゃあいい。だろ?」

「……ええ。そうするわ」

 スファルも、物音を聞いたか何か、したのかもしれない。そして気づいたのだ。『自分達は追い込まれるのだろう』と。

「全く、手荒にもほどがある!淑女に対してあまりにも無礼だぞ、スファル!」

「知ったこっちゃねえな」

 アイオンは特に何も気づいていない様子だが……それはそれで、いいのだろう。エメディアは、『まあ、私だって知らないことがあるんだもの。アイオンが知らないことがあってもいいわよね』と、くすくす笑った。




 それからしばらく、エメディア達は洞窟の中を進んだ。

 ルイナの足取りには迷いがない。それでいて、どこか、焦燥めいたものを感じることは、あったが。

「この奥に、『月の竜』が居るのかしら?」

「……さあ」

「グレイは、この奥に入ったのよね?」

 エメディアがルイナに話しかけるも、ルイナはどこか、上の空の様子であった。返事からも彼女の後姿からも、それが見て取れる。

「……グレイは、もう『月の竜』に会ってるのかも」

「あいつが先に会ってたら、協力を頼むなんて計画は全部ダメになってねえか?」

「あー……何事もないことを祈りましょう」

 ……もし、本当に『月の竜』がここに居るとして、グレイの『嫌われる恩恵』がある以上、グレイが月の竜と遭遇している、というのは望ましくない。

 できれば、月の竜とやらには、エメディアが最初に目通りたいものである。その上で、当初の計画通り、月の竜の協力を仰ぐ、というのが望ましいのだが……。

「……本当に、何事も無いといいんだけれどね」

 ……そもそも今は、計画どころではない。ただ、グレイの無事を祈り……自分達の無事を祈るばかりだ。




 そのまま少しばかり、進んだところ。

「あ」

 エメディアは、敏感にもそれを感じ取った。

 ……後ろから来る、見知った魔力の気配だ。

 エメディアが声を上げたことで、スファルが立ち止まる。アイオンもそれを見て立ち止まり……数歩分進んでから、エメディア達に気づいたルイナもまた、脚を止めて振り返った。

「……エメディア姫。先を急ぎましょう。グレイさんが」

「いいえ」

 ルイナはエメディアに先を促してきたが……エメディアは、改めて、杖を構えた。

「ごめんなさいね、ルイナ。……ここで迎え撃つわ」

 ……エメディアは既に、魔法の準備を整えている。




 ルイナが何か、動こうとした。だが、遅い。

「さあ、来なさい!」

 エメディアが叫ぶや否や、矢が飛んできた。

 すると、その矢は飛び出していったアイオンの鎧に弾かれ、そして……。

「よぉし!そこだな!」

 ……矢が飛んできたということは、矢があった位置に人が居るということだ。スファルは、矢を飛ばした何者か目掛けて、手近な鉱石を掴んで投げた。

 更に。

「姿が見えるっていうのは、ありがたいことだわ」

 エメディアは既に、杖を構えて……魔力を、準備し終えている。

「……一気に、片付けられるもの!」

 そしてエメディアは、準備していた通り……洞窟の天井に向けて、魔力を放った。




 強い魔力は岩石を割り、砕き、崩す。

 凄まじい音が響いて、洞窟の通路は塞がった。即ち……こちらの退路を消す代わりに、敵の退路をも、消した。

「……次は、『外してあげない』わよ?」

 エメディアはそんなことを嘯きつつ、数名の兵士達……ディアナバレイの者達であろう彼らを、じっと見まわした。

 すると。


「待て……こいつを見ろ!」

 ディアナバレイの兵の1人が、そう、声を上げて……後ろに居たその人を、前へと引き立ててきた。

「グレイ・シンダーの命は、こちらが握っている!さあ、どうする!?」

 ……そう。

 そこにいたのは、手首足首を拘束されていながらも何故か余裕綽々の表情のグレイであった。




「……アイオン」

「なんだね、エメディア姫」

「……あなた達の義手とか義足って、手首や足首を外したり、できる?」

「実に良い着眼点だ、エメディア姫」

 アイオンはエメディアの問いかけにゆっくり頷くと……神妙に、言った。

「……詳細は省くが、まあ……グレイ・シンダーならきっと、『やる』ぞ」




 +


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― 新着の感想 ―
グレイも余裕そうなのが大丈夫そう加減に拍車かけてる()
う〜ん、出会って数週間の信頼感ではない。 あいつならやる!
10日程inできなかった間に大分話が進んでたーっ(毎日更新だから当たり前か) 一見ピンチのようですが、短い時間でもかなりの信頼関係を結べた彼らならきっと大丈夫だと思えますね。 それにしても、前回とい…
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