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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第二章:鎧を纏う心
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16話:月に叢雲*2

 そうして、ルイナはディアナバレイの誰かと連絡を取り始めた。

 小さな魔導の道具を操作している様子を見て、『こういう風に扱う道具なんだな』とグレイは少々感心する。中々、便利そうな道具だ。

 ……そのままグレイが見守っていると、ふ、と魔力が動く。恐らく、向こうの誰かと繋がったのだろう。

「ルイナ・サジータより。『蛇は眠らない』」

 そしてルイナは、開口一番にそう発した。

 そのまましばらく沈黙が続き……。

『雲雀は踊る。……通信を許可します。状況は』

 道具の向こうから、テルミナス・サジータの声が聞こえた。




「こちら、グレイ・シンダーと一緒です。彼も今、聞いています」

 そうして会話が始まると、ルイナは最初にそう、申し出た。

『……グレイ・シンダー?』

「大楯持ちです。エメディア姫の護衛の」

 テルミナスは、グレイのことが分からなかったのかもしれない。とはいえ、ルイナが補足すれば、『ああ』と声が聞こえる。思い出してもらえたらしい。

「彼が聞いていることが、通信の許可の条件でした」

『……そうですか』

 それから少しばかり、向こうで囁き合うような音が聞こえてくる。だが、その内容までは聞き取れない。大方、『敵が聞いているところで連絡をさせてよいものか』という審議なのだろうが……。

『分かりました。では、その前提で話しましょう』

「了解」

 結局、グレイに聞かれても障りのない内容だけ、やり取りされることになったようだ。グレイは、『まあ、これはこれでよし、だな』と安堵した。




「では、こちらから報告です。月の谷に、月の竜が居ません。太陽の竜が居ましたが、討伐しました」

『それはこちらも把握しています。太陽の竜へは、引き続きの警戒を。……こちらの観測では、月の竜は戻ります』

「今は、どちらに」

『凍れる茨の森に。しかし冬は終わりました』

 ……ルイナとテルミナスのやり取りは、肝心なところがよく分からない。まあそうだろうな、と思っていたことではあるので、特に落胆はしないが。

「では、このまま待機を?」

『……いえ。あなた達は、銀の洞窟へ。月の竜はきっと、そちらへ戻るでしょう』

「銀の洞窟……?」

『そうです。できますか?』

「……分かりました。そちらへ向かいます」

 そうして、何やらルイナとテルミナスの話は、結論に至ったらしい。グレイはそれらを聞きながら、『これはこういうことか……?』と、2人の会話の暗号部分の憶測を立てていたが……。

『それから、そちらで聞いているという、グレイ・シンダーへ伝言を』

 ……急に自分の名前が出てきて、グレイは思わず目を見開いた。……ルイナも、少々驚いたようにグレイを見て、そして、『どうぞ』と、魔導の道具へ話しかける。

 すると。


『我々は、恩恵を消すことができます』

「……え?」

 テルミナスの声は、全く予想していなかったことを、言ってのけたのである。




 グレイが唖然としていると、尚も、テルミナスの声は続ける。

『あなたが恩恵を煩わしく思うのであれば、是非一度、お話ししましょう』

 何故、グレイの恩恵について知られているのだろうか。そして何故、ディアナバレイは『恩恵を消す技術』などを持っているのか。

 思考はぐるぐると空回りしていたが……その間も、テルミナスの声は、どこか笑みを含んだ調子で続く。

『私達との対話を望むなら、ルイナにそう伝えてください』

 ……グレイは特に何を答えるでもなく、じっと、テルミナスの言葉を聞いていた。

 彼女の言うところは、つまり……『ディアナバレイ側に寝返れ』という意味なのだろう。だが、グレイを寝返らせたところで相手に利があるとは思えない。また、グレイが持つ情報など大したことはないので、吐けるものも何も無い。

 だというのに、テルミナスはグレイを誘っている。……グレイは只々混乱しながら、テルミナスの声を発する魔導の装置を眺めていた。




 それから2往復程度の挨拶を挟んで、ルイナとテルミナスの会話は終了した。ルイナが道具を操作すると、魔力がふつりと途切れ、静まり返る。ルイナは、ふう、と息を吐いて、そして、グレイへ視線を投げかけた。

「……ということでした。私達は、『銀の洞窟』へ向かわなければならないようです」

「それは……どういう場所なんだ」

「ここから北に位置する洞窟です。2日もあれば、到着するかと。そこへ、月の竜が戻るそうですから」

 ルイナの言葉の意味を……そして、テルミナスが言っていたことを、グレイはよくよく考える。

 何故、テルミナスは月の竜がそこへ戻ることを知っているのだろうか。或いは、何故知っているのに、ルイナ含むグレイ達を一度、このダンジョンへ向かわせたのか。

「……それから、さっきのアレは、何だ」

「さっきのアレ、といいますと」

「恩恵を消すとか、どうとか」

 そして何より気になるのは、最後にテルミナスが言ったことである。

『恩恵を消すことに興味があるならば、対話しよう』という誘いであったが……どう考えても、おかしすぎる。何もかもが。

「……私には、分かりかねます」

「だろうな」

 ルイナが本当に知らないのか、知らないふりをしているだけなのかは分からない。グレイは暗雲の中に閉じ込められたような気分になりながら、ため息を吐いた。


「いずれにせよ、『銀の洞窟』へは向かうことになりそうですね」

「そうだな」

 ……何にせよ、グレイ達の明日以降の行動は、決まった。

 このダンジョンを出て、『銀の洞窟』とやらへ向かい、そこで月の竜と会うことになる、ということだろうが……。

 ……どうにも、釈然としない。何か、途方もない勘違いをしているような気がして、グレイは只々、眉間に皺を寄せるのだった。




 そうして、ルイナとグレイは解散した。

 解散、とはいえ、互いに見える位置である。ルイナは先程までと同様にドラゴンの尾を枕に眠り始め、グレイはグレイで、適当な石を寝床にして体を横たえる。

 ……が、自分の寝床へ向かう際、グレイは寝ているスファルの前を通った。

 そして、スファルがその金の瞳を片方だけ開いて見せてきたのを見て、小さく笑う。

 ……盗み聞きしていてくれるとは、良い仲間を持ったものである。




 翌日。

 ルイナは、『月の竜を探すため、銀の洞窟へ向かう』と宣言し、それはあっさりと受け入れられた。

 盗み聞きしていたのであろうスファルはさておき、エメディアとアイオンは事情を知らないはずだが……それでも、このままこのダンジョンの奥底に居る利は無い、ということは確かである。移動したい、と考えるのは至極妥当であった。

「行きは行きで大変だったけれど、帰りも大変ね、これ……」

 ……が、ダンジョンを出るとなると、これはこれで面倒であった。

 本当なら、ダンジョンの核を破壊してしまって、このダンジョンを更地に戻せれば簡単なのである。だが、それをせず、ダンジョンをそのままにしてダンジョンを出るとなると……愚直に、往路を引き返していくことになる。

「魔物も出ることだしな……。全く、よくもまあ、ここまで飽きもせず出てくるものだ!」

 アイオンは嘆きつつもモーニングスターを振り回して、しっかりとスケルトンを頭蓋から爪先まで一気に叩き潰した。

「ま、何も出てこねえ方が飽きがくるってモンだろ?」

 そしてスファルもまた、拳でスケルトンを叩き折りながら笑う。

 ……そうしながら、スファルは上手く、グレイの傍までやってきた。

「グレイ。昨夜のありゃ、何だ」

「分からない」

 グレイも大楯でスケルトンを殴りつけながら、スファルに返す。

「ルイナにも他の連中にも隠し事がある、ってことだろうが……ったく、厄介なモンになりそうじゃねえか」

「同感だ」

 スファルはグレイに背後から近付いていたスケルトンを掴んで持ち上げて、投擲した。アイオンのすぐ横の壁に叩きつけられて粉々になったスケルトンを見て、アイオンは『もう少し投げる位置を考えたまえ!』と声を上げていた。

「今晩、話したい」

「分かった。時間作ってやるよ」

 ……ということで、グレイはひとまず、スファルとの約束を取り付けた。

 パーティの中で自分だけが情報を知っている状態、というのは、よろしくない。今後の動きにもかかわることであるし、何より、グレイの裏切りを勘繰られることは避けたい。かつて一緒にやってきたパーティ内でも、似たようなことはいくらかあったし、それら全てでグレイは酷い目に遭っている。

 ……今回は、その手の『酷い目』は避けられそうだ。グレイは小さく息を吐いて……ふと、気づく。

 自分はどうやら、今のパーティに嫌われることを恐れているらしい、と。




 ダンジョンから脱出すると、既に太陽は傾きかけていた。

「……宿に到着したら夜ね」

「夜のうちに到着できりゃいいが」

「何としても到着しましょう。あなた達、あんまり眠れてないでしょ。今日こそはあなた達をベッドまで連れていくわ!引きずってでも!」

 今から出発すれば、宿にはなんとか辿り着けるだろう。特に、エメディアが他の者達を想って鼓舞してくれるなら、尚更である。

 一行は『エメディアがそう言うんじゃ、急がねえとな』『全くだ。エメディア姫が麗しの野薔薇であるからといって、野に置いておいてよいものではない。野宿は一晩までにしたいところだ……』『そういうものか』などと話しつつ、道を急ぐ。

 幸い、道案内はルイナがやってくれるので、山の間を抜けて宿へ向かう間、道に迷うことは無かった。


 ……ということで。

「じゃあ、あんた達がベッドに入る時間までは外に居る」

「ええ、ありがとう、グレイ。私達も早めに寝るから、グレイも早めに戻ってきてね」

「分かった」

 宿に辿り着いた一行は、また、『女2人とグレイ』『スファルとアイオン』という例の部屋割りで宿を取ることにし、そして、グレイは例の如く、女2人の身支度の時間を確保すべく、自分は部屋から出ておくことにした。

 ……とはいえ、今は、女2人を気遣う以外にも、部屋を出ていたい理由がある。


「よお。アイオンも連れてきたが、いいな?」

「ああ。その方がいいだろう」

 エメディアとルイナが居る部屋のドアを背にして立つグレイの元へ、スファルとアイオンがやってきた。

 ……そう。情報交換の時間だ。



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― 新着の感想 ―
月の竜予報。
姫様、アイオンについで良い生まれのスファルなので頭を回そうと思えば回るのだろう…… いやアイオンも産まれについては言及されてないか…上流階級であったのは間違いないけど
なんでこのメンバーの中でスファルが1番頭良さそうになるんだろう。
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