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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第二章:鎧を纏う心
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13話:太陽の竜*1

 ドラゴンの炎が、襲い来る。

 ここは狭い通路だ。前進すれば場所はあろうが、今、グレイ達が居るここには、逃げる場所も隠れる場所もない。

 そう。グレイ達は、ドラゴンの炎から逃げられないのだ。


 ……だからグレイは真っ先に動いた。ここで動けなければ、盾役ではない。

 グレイは大楯を構え、ドラゴンの炎へと立ち向かう。

 ……グレイの大楯は、炎に対して然程強いわけではない。魔導の代物であるので、多少は魔法を防ぐことができるが、それだけだ。

 だがそれでも、生身の人間がもろに浴びれば火傷どころか炭にでもなりかねないような炎を、盾も無しに浴びるわけにはいかない。浴びせる訳には、尚更。

「グレイ!」

「下がってろ!」

 エメディアの悲鳴が聞こえたが、グレイは構わず、大楯で炎を防ぎ続ける。

 グレイの後ろには、炎の届かない場所ができる。そしてそこで、残り4人が身を寄せ合っているのをちらりと確認して……グレイは、いよいよ熱せられてきた大楯を握り直す。

 ……自分が倒れるわけにはいかない。それでいて、倒れるなら、自分が最初でなければならない。

 それが、盾役の矜持である。


 永遠にも思えるほどの時間、グレイはドラゴンの炎に耐えていた。

 ドラゴンの息が続かなくなったところで、炎はぱたりと止む。……そして、その時、グレイは大楯で防ぎきれなかった炎を浴びた個所を火傷にやられ、熱気を吸い込んだ喉を傷めており……しかし、まだ、生きていた。

 そして。

「よぉし!やられっぱなしじゃいられねえ!こっちも動くぞ!」

 ……仲間達は全員、無事である。

 グレイはそれを確認して、にやり、と笑った。




 +




「何故、ここに……!ここは、月の竜の縄張りであるはず……!」

 さて、そんな中、最も戸惑い、動き出せない者が居た。ルイナである。

「ルイナ、それ、どういうこと?あれ、月の竜じゃないの?」

「ええ……月の竜を脅かし、時に月の竜に脅かされる存在……『太陽の竜』です」

 エメディアに問われたルイナは、困惑と絶望の混ざった表情でただ茫然と、『太陽の竜』を見上げる。

 太陽の竜、と呼ばれたそのドラゴンは、今、スファルが投擲した岩をもろに頭蓋に受けて、ふらついているところである。ドラゴン相手でもアレなのだから、スファルの膂力はやはり凄まじい。

 だが……太陽の竜は、ふらつきながらも反撃に出ている。勢いよく尾を振り回して、スファルやアイオン、そしてグレイを狙っている。幸いにして、尻尾にやられた者は居なかったが……あれでは時間の問題だろう。

「……私達、あのドラゴンに協力を願い出ることになる、のかしら?」

 エメディアは、『到底、協力してくれそうにないけれど……』と思いつつ、杖を構えた。『ドラゴンと協力を』というのが当初の目的ではあったが……この状況で、それを達成できるとは思えないので。

「無慈悲で、残忍。アレは、そんな性質のドラゴンです。協力を願い出ても、無下にされるだけでしょう」

「それは困ったわ」

 やはりそうか、とエメディアはさして落胆するでもなく受け止めると、杖を握って集中し始める。

「……で、アレは仕留めちゃっても、いいやつかしら?」

 ドラゴンなら、既に殺したことがある。エメディアは自身の周りで魔力を渦巻かせつつ、ルイナへ笑いかけて見せた。……すると。

「……ええ」

 ルイナもまた、覚悟を決めた顔で、弓を構えていた。

「太陽の竜を捧げれば、月の竜はお喜びになるでしょうね」




 +




 グレイは、自らの体の痛みに耐えかねて動けずにいた。

 ……スファルとアイオンが戦っているのだから動かないわけにはいかないというのに。それでも……火傷を負った体は、思うように動いてくれない。

 痛み、というものは厄介である。グレイは、『痛かろうが何だろうが、動かなきゃ死ぬんだから傷みなんざ無けりゃいいのに』と苛立つが、苛立ったところでどうにもなってくれない。

「おい、グレイ!お前は引っ込んでろ!」

「うるせえ」

 ということで、グレイはスファルの言葉に悪態を返しながらも、動く。体は酷く痛んだが、それだけだ。自分の体が痛むだけなら、いい。後は無理矢理動けば、それで。

「おい、デカブツ!」

 そうしてグレイは、焼けた喉が痛むのも構わず、大きな声を張り上げた。

「こっちだ……お前が炎で仕留め損なった俺が、ここにいるぞ!」

 大楯を持ち上げてみせれば、ドラゴンは、首をもたげてグレイを見た。……実に気に食わないであろう、グレイを。

「そうだ、それでいい」

 グレイはにやりと笑って、『さて、爪がくるか、尾が来るか』と身構える。もう一度炎を吐かれたら、今度こそ駄目かもしれないが……スファルやアイオンを狙われ続けるよりは、いい。

 ……そうして、ドラゴンはその前脚を振り上げた。先端の鋭い爪が、月明かりを反射してぎらりと輝き……振り下ろされる。

 だがグレイはそれを大楯で真正面から受け止めた。

 がきん、と凄まじい音がしたが、それだけだ。耐衝撃の機能はしっかり作動したし、この程度で駄目になるグレイではない。

 が、ドラゴンからしてみれば、この結果は不服だったのだろう。ぐるる、と喉の奥で鳴きながら、ドラゴンはすかさずもう一撃、今度は横から、爪を振り抜いてきた。

「っ、と」

 今度は、真正面から受けるわけにはいかない。耐衝撃の機能は連続で何度も使えるものではないのだ。

 だが、横から来る、と分かっているものであれば……斧槍を構えて相手の勢いを削ぐことはできる。そして、大楯で、真正面からではなく、受け流して弾くようにしてやれば、この一撃も防げる。

 炎のみならず、爪をも防がれたドラゴンは、いよいよ不機嫌になってきた。

 グレイは、『さて、そろそろ尾が来るか、はたまた、もう一回炎が来るか……』と身構えつつ、しかし、何が来てもこの場を動かない覚悟を固めて、ドラゴンを睨み返し……。


「ったく、カッコつけやがって!」

 そんなグレイの横からやってきたのは、スファルである。彼は、その手に人間の頭ほどの大きさの岩を持って……そしてそれを、投擲した。

 凄まじい速度で飛んでいった岩は、グレイを見ていたドラゴンの横っ面に直撃する。

 ドラゴンは、ぎろり、とスファルを睥睨した。が、その視線にもスファルは臆せず、『もう一発、いっとくか?』と、岩をまた手にして笑うばかりだ。

「さて、私の出番はここでいいかな?」

 そこへやってきたのは、アイオンである。アイオンはアイオンで、いつものモーニングスターを振り回し……その鎖の長さぎりぎりまでを目いっぱい使って、ドラゴンの首の後ろを思い切り叩いた。

 ……相手が人間であったなら、頚椎を粉砕されて死んでいたであろう一撃である。だが、ドラゴンは流石に骨も皮も丈夫であると見え、頭をぐらつかせながらも、その一撃に耐えた。

「ふむ。相手にとって不足なし、といったところか。やれやれ……」

 アイオンは余裕ぶって肩を竦めて見せるが、その直後、アイオンを狙ってドラゴンの尾が振り抜かれる。アイオンはその尾に弾き飛ばされて、岩壁に叩きつけられた。

 ……だが。

「スファル!目だ!目を狙いたまえ!」

 アイオンは、まだ動いた。スファルへ指示を出しつつ……ドラゴンの意識を自分へ向けるためか、モーニングスターでドラゴンの脇腹を打ちにかかる。

 ドラゴンは、自分が吹き飛ばしてやった相手が吹き飛ばされた直後に動き回るのを見て驚いたようであった。その驚きから、ドラゴンの意識はアイオンへと持っていかれ……そうして、完全に死角になってしまった位置から、スファルが、迫る。


「よぉし……貰った!」

 スファルが勝鬨の声を上げる中、右目に鋭い石片を叩きこまれたドラゴンの、地を揺らさんばかりの絶叫も響き渡っていた。




 ドラゴンの視界は、一気に狭まった。それでいて更に、距離感も掴めなくなったらしい。繰り出される爪や尾は、見当違いの場所を薙いでいった。

「さあ、また大楯と力比べでもするか?」

 グレイがドラゴンの視界に入ってやれば、怒りにより一層視野を狭めたドラゴンは、いよいよ、グレイしか見えなくなったのだろう。怒りの咆哮と共に、グレイへと襲い掛かる。

 ……だが、こんな風に隙だらけの攻撃をしていたら、他から攻撃が飛んでくるのだ。

 スタン、といい音がしたと思ったら、ドラゴンの、残った眼には矢が突き刺さっていた。

 ……ルイナが放った矢が、ドラゴンの目を射抜いたのである。

「これで視界は奪いましたね」

 ルイナは少し笑って、次の矢を弓に番えた。

 ……そして、ドラゴンの真正面から放たれた矢は、ドラゴンに避けられることなく、ドラゴンの鼻孔に突き刺さったのであった。




 相手の目が見えていないということは、こちらは躱したり防いだりする必要がほぼ無くなる、ということである。

 無闇矢鱈に繰り出される攻撃はまるで狙いの無いものであったし、それらを避けることはそう難しくなかった。

 そしてその分、グレイ達は攻撃の手を緩めずにいることができる。スファルが殴り、アイオンが殴り……グレイは少しばかり休憩しつつ、『ああ、この分なら大丈夫だな』と、一息吐いていた。

 そして、スファルの拳がドラゴンの頭蓋を揺らし、ドラゴンが倒れた、その時だった。


 ……ドラゴンの目は最早何も映していないはずであるのに、妙に正確な一撃が、エメディアに向けて、繰り出されていた。




「エメディア!」

 だが、グレイが駆けつけるより先に、エメディアは自分自身が用意していた魔法を放っていた。即ち……魔力を大量に流し込んで、ドラゴンを内側から破壊する、という、いつものアレである。

 エメディアの暴力的なまでの魔力はドラゴンを襲い、そして、ドラゴンは眼窩から、鼻孔から、血を噴き出させて吠えた。

 ドラゴンの咆哮がびりびりと空気を震わせる中、エメディアは……ぎょっとして、言った。

「駄目!まだ死んでない!」


 ……直後、ドラゴンの尾がエメディアに向けて振り抜かれたのである。

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― 新着の感想 ―
危うしエメディア姫!彼女を守るのはグレイかウサミミか、はたまた通りすがりの誰かさんか!
ドラゴンの尻尾ビンタマトモにくらって岩壁に叩きつけられてもそのまま動けるのかアイオン…………頑丈なボディなんだなぁ…………衝撃で生身部分がシェイクされないのも技術力の高さを感じる。 ……そのアイオン…
その驚きから、ドラゴンの意識はスファルへと持っていかれ…… もしかしてアイオン?
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