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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第二章:鎧を纏う心
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8話:竜の巫女*2

「それでは、試合開始!」

 エメディアの合図が空気を裂いて響いた直後、ルイナが動き出した。

 ……弓に矢を番えたまま、走っているのである。

 これは面白いな、と思いながら、グレイは大楯を構えつつ、慎重にルイナを観察する。

 ルイナもまた、グレイを観察していた。観察しながらも動き、そして……遂に、その弓から矢が放たれる。

 真正面から放たれた矢なら、何の苦労もなく防ぐことができる。グレイは大楯であっさりとそれを弾き、そして……。

「……成程な」

 後ろから飛んできた矢を、振り返りざまに大楯で振り払った。


 ルイナが真正面から放った矢。それは、グレイを射抜こうと放たれたものではなかった。ただ、『グレイに大楯を使わせるため』に放たれたものであったのだ。

 ……グレイの大楯は、大きい。グレイがすっぽりと身を隠せるほどには。つまり、大楯を正面に構えた時、グレイは、正面が見えなくなる。

 それこそがルイナの狙いだったのだろう。ルイナはグレイが大楯を構えることを見越して矢を放ち……そうして実際に生まれたグレイの隙をついて、グレイの背後へと回り込んだのだ。

「……流石、姫君の盾を任される方ですね」

「あんたもな」

 グレイは謙遜抜きに、ルイナを『流石だな』と評価する。同時に、『こいつ、人間と戦い慣れてるな』とも、思う。

 ……今のやり方は、どう考えても人間向きだ。ゴブリンやらスライムやらと戦うならば、先程のような気の引き方はできない。つまるところ、ルイナ・サジータは、人間と戦うことに慣れている、という訳なのだろうが……。


 あまりぼんやりともしていられない。考えている間にも、ルイナが放つ矢が飛んでくる。

 陽動の矢であろうとも、防がねばこちらに当たる。あまり、鎧は消耗させたくない。できることなら大楯だけで済ませたいところであることだし……何より、盾だけで戦えるところくらいは、見せておきたい。

 グレイはそう考えると……大楯を構えて、突進した。

「っ!」

 盾役が動く、という事態に、ルイナは少々戸惑った様子であった。だが、動く。何せ、これは1対1の戦いだ。グレイが守るべきものなど何も無いのだ。当然、グレイ自身が動くことになる。

 ルイナは横に跳んでグレイの突進を躱すと、地面を転がりながら矢を放ってきた。

 そんな状況で放たれたにもかかわらず、矢はきちんとグレイ目掛けて飛んできたし、グレイはそれを大楯で弾くしかない。そして、グレイが大楯を使えば、当然のようにルイナはその隙にグレイの死角へと回り込みにかかるのである。成程、これは中々の遊撃手だ。


 そうして数度、ルイナが矢を放ち、グレイが矢を払い……そしてグレイが大楯を構えて突進し、ルイナとの距離を詰めるべく動き、ルイナはグレイとの距離を取るべくまた動き……とやっていると。

 ルイナがまた、矢を放ってきた。分かりやすく、正面からである。

 となると、思惑は間違いなく、グレイの大楯を動かすことであろう。グレイはそれが分かっているので、大楯を動かして正面の矢を防ぎつつ、後方に回り込むであろうルイナへ意識を集中させた。

 そして案の定、ルイナはグレイの死角へとやってきて……。

 ……否。

 大楯を構えたグレイには見えなかったが……今、一発、矢が放たれた。弓の弦が鳴ったのを、グレイは確かに、聞いていたのである。


 弓の弦が鳴ったが、矢がこちらへ届いた形跡はない。ということは、どういうことか。

 ……少し考えたグレイは、グレイの背後に回り込んだルイナが矢を放ってきたのを見て……それを大楯で防ぎつつ、視線は上へ……上空へ、やった。

 すると案の定、そらから、きらり、と光るものが落ちてくる。




「曲射でこの精度か。いい腕だな」

 グレイは、空から降ってきた矢を、空いている右手で掴んだ。その矢を見せてやれば、ルイナは息を呑む。

 ……ルイナはあの時、空に向かって矢を放ったのだ。自分が次に矢を放つ頃に落ちてきて、グレイの真上から急襲することになるであろう矢を。

「時間差でくる矢っていうのは、面白いな。手数が増やせる」

 グレイが掴んだ矢を投げれば、それはルイナの方へ飛んでいって、地面に刺さった。それを見て、ルイナはいよいよ、青ざめる。

「時間差があるってことは、敵がずっと同じ場所に居るとは限らないってことだ。だがあんたは、他の矢で俺の動きをある程度誘導していたな」

「……御慧眼ですね」

「そちらこそ。大した目だ。まるで、未来が見えてるみたいだった」

 グレイの言葉に、ルイナは小さくため息を吐いて……弓と矢をその場へ捨てた。

「私の負けです」

 ルイナがそう言うのを聞いて、グレイは、ちら、とエメディアへ視線をやった。するとエメディアは、にっこり笑って嬉しそうに頷いたのであった。ならば試合終了、ということでいいだろう。

 ……どうやら、グレイはひとまず、エメディアの期待には沿えたようである。




「ほーう……成程な、面白かった。大したモンだな、あんた」

 そうして模擬戦後、早速、スファルがルイナへ寄ってきた。戦うものとして、先程の矢が気になったらしい。

「ディアナバレイの連中は、皆、あんたみたいな弓使いだらけなのか?流石に、そんなことはねえよな?」

「さあ、どうでしょうか」

 ルイナは敗北を喫した、ということからか、表情が少々、苦い。

「あのまま粘れば、一撃くらい、入ったんじゃないか?」

「かもしれません。しかし、彼相手に矢が通る未来が見えませんでした」

 ルイナの返答を聞いたスファルが、『だってよ』とグレイへ肩を竦めて見せる。グレイは『そいつは光栄だな』と返しつつ、少しばかり、これを嬉しく思う。……認められる、ということは、嬉しいことだ。そこに如何なる感情がくっついているかはさておくとして。


「グレイもルイナも、ありがとう。おかげで、作戦も立てやすそう」

 そうして、エメディアが瞳を輝かせながらやってくる。ルイナはこれに少々困惑している様子であったが……そもそも、グレイとルイナは敵ではない。少なくとも、これからしばらくは。

「ねえ、グレイ。ルイナが一緒に居る時、あなたの立ち回りってどう変わるのかしら?」

「そうだな……」

 グレイは、これから『しばらく』のことを考えつつ、ちらり、とルイナを見た。

 ルイナは、表情を読みにくい。何を考えているのか、よく分からない。……そうした訓練を受けているのだろう。つまり、まあ、彼女も軍人だ、ということなのだろうが……。

「……彼女のような遊撃手が居るなら、敵が何かによって俺の立ち回りは大きく変わる」

「そう。例えば?」

「ゴブリン相手なら、ゴブリンは全員、俺が引き付ける。適当に回りから囲んで叩いてもらえばそれで十分だ。だが、ゴーレムやメカニジア兵相手だと、俺だけに引き付けられてはくれないだろうから……俺に敵の注意を擦り付けるような動き方をしてもらうのが一番いい」

 グレイがそう答えれば、ルイナは『成程』と小さく頷いた。

「確かに、あなたであれば、敵を引き付けてきてあなたに押し付けたとしても、問題なく捌いてくださるでしょう」

「頑丈が取り柄なんでね」

 グレイの答えにルイナがどう思ったかは分からないが……ひとまず、納得はしてくれたらしい。即ち、『こいつの提案に乗ってもいいだろう』と。

「分かりました。では、意思の無い敵相手には、そのように立ち回ります」

「そうしてくれ。そして、もし、相手がメカニジア城みたいな……いや、流石にアレはデカ過ぎるが……まあ、大物1体が相手になる時には、俺が注意を引けると思う。その時は、相手の死角に回って好きにやってくれ」

 グレイの話を聞いて、ルイナは頷いた。……グレイが能力を示した意味はあったようである。

「ふむ。ではその場合は私も遊撃に回る、ということになるかな?」

「いや、あんたは適当に大物の意識を引いてくれ。俺1人で捌き切れない奴が来た時は、あんたとスファルの手を借りることになる」

「あー、分かった分かった。ったく、しょうがねえな、その時は、アレだろ?デカいゴーレム相手にやったみてえにすりゃいいんだろ?」

「そういうことだ」

 ルイナのみならず、アイオンとスファルも何やら、賛同してくれた。大変ありがたい。

「じゃあ、私達の方針はそんなところね。後は、実際に何度か戦ってみて、その都度、調整しましょう」

 エメディアがそう締め括れば、全員が頷いた。エメディアに逆らう者など、居るはずがないのだが。

「ということで……早速、次の目的地を決めましょうか」

 エメディアが仕切れば、会議も素早く進む。グレイは、これを心底ありがたく思いつつ、早速、エメディアが広げる地図を一緒に覗き込むのだった。




「えーと、私達の目的は、ドラゴン、よね。ドラゴンにお願いして、ディアナバレイ上空の鉄の棺まで、運んでもらうの。まずは、それでいい?」

 エメディアが、他4人を見回す。……グレイとしては、『ドラゴンに乗るなんてのは不確かじゃないか?』と言いたいのだが、他に方法は何も思いつかない。メカニジア出身のアイオンが何も思いつかないのだから、これは本当に、ドラゴンを頼るしかないのだろう。

「よし。全員反対は無しね。ならドラゴンを探すところから始めましょう。あー……」

 ……そして、『ドラゴンを探す』となると、真っ先に、グレイとエメディアの脳裏をよぎるものがある。

「……居たけど、倒しちゃったわね」

「……そうだな」

 そう。グレイとエメディアは……ローザテイル王都近辺の、2人が出会ったあのダンジョンで、ドラゴンを倒しているのである!

「ドラゴンを!?倒したのか!?」

「ええ。あの時はもう、しょうがなかったのよ。ドラゴンが私を宝物庫に入れるものだから……」

 アイオンが慄いていたが、エメディアがそう言い、エメディアの頭の上でウサミミが頷くように耳を揺らしていれば、『そ、そうか……まあ、見る目のあるドラゴンだった、ということだな……』などと言って、慄きを自分の中で消化することに努め始めた。健気である。

「……あの、ルイナ?その、あなたは竜の巫女、なのよね?ってことは、ドラゴンを倒しちゃった私達に対して、その、不愉快に思ったり、とか……?」

「いえ。私が仕えるドラゴンは、ディアナバレイの月の竜です。それ以外のドラゴンが倒されたとしても、それはそのドラゴンの宿命だった、としか」

 また、こちらについても心配であったルイナだが、ドラゴンを倒したとしても、彼女の不興は買わずに済むようだ。グレイは、内心で少々安堵した。

 ……自分はともかく、エメディアが『ドラゴンを倒した咎』でディアナバレイの民に嫌われるようなことがあってはならない、と思うので。


「それで、月の竜、っていうのは何だ?」

「私が仕えるドラゴンです。代々、ディアナバレイの竜の巫女が仕えてきた竜でもありますが……月の竜は、ここに」

 そして、ルイナは地図上の一点を示した。

 ……それは、ローザテイル国境にほど近い、ディアナバレイの山中であるらしいが……。

「ここに、ダンジョンがあります」

「ダンジョン?」

「ええ。月の竜は、そのダンジョンの守護者です」


 ……どうやら、グレイ達は高難度ダンジョンへ潜る羽目になりそうである。

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― 新着の感想 ―
月の竜、ゲットだぜ!
ディアナバレイの月の竜のみが信仰対象。………月の竜は他のドラゴンとは何か違うんだろか。………その前にこの世界のドラゴン、ダンジョン以外に野生種居るんやろか………前回も今回もダンジョン内のドラゴンだけど…
「見る目のあるドラゴン」いや、そうなんですけど、ダンジョンの奥の宝物庫にしまわれましても。アイオン的には「なんだとぅ」という気持ちを消化するためにそう考えようとしたのでしょうが。あ、そう考えると確かに…
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