37話:決戦*2
「なんなのだ!?これはなんなのだ!?」
「スライムよ!」
……ということで、グレイ達は先程のように、スライム達に流されるようにして運ばれていた。
ウサミミの導きに従った結果が、これである。点検口から天井裏に入った途端、スライム達がぴょこぴょことやってきて、グレイ達を押し流すように元気に動き出したのである。
「何故、スライムがこんなにも!?」
「それは分からないわ!」
「分からない!?分からないものに身を委ねているのか!?」
「だってそれしかないじゃない!しょうがないでしょ!」
アイオンは大いに戸惑っているが、グレイとスファルとエメディアについては、2度目なので最早何とも思わない。ただ、『流されてるな……』と思うばかりである。
「お、おお……そ、そうか!ふむ、なんと豪胆な姫君か!この勇気は伝説の勇者のそれと言っても過言ではないだろうな!はっはっは……」
……まあ、アイオンは戸惑っている様子であるが。空元気を出そうとして、どうにも、上手くいっていない様子でも、あるが……。
「その、このスライム達の感触が、どうにも……その、もう少し硬くはなれないものなのだろうか……?」
「何言ってんだ。スライムだぞ?スライムってのはな、柔らかいモンだろうがよ。メカニジアの騎士ってのはそんなことすら知らねえのか?」
「いや、知っているとも。うむ……ただ、どうにも、この感触には慣れそうにないな……」
アイオンは至って気まずげに、そして落ち着かなげに、スライム達に運ばれていく。
グレイは、少々の憐みを以てして、アイオンが自分を落ち着かせるために発しているのであろう独り言を聞いていた。
「……ん?待て。こんなところに道があったか?」
そうしてスライム達に流されるように運ばれていくと、ふと、アイオンが今更気づいたように声を発した。
「無かったと思うわよ?この道、多分、スライム達が掘り進んだものだわ」
一方のこちら側はやはり、落ち着いたものである。グレイも、今、自分達が進んでいる通路の壁面に滑らかな凹凸があるのを見て、『ああ、スライムが作った道か』と思っていたところだ。
「スライムが……?え?」
「多分ね。あ、私達が部屋から脱出したのも、コレよ」
「いつの間に、こんな道を用意していたのだ……?」
「さあ……。私達としても、スライムに助けられただけだから……スライム達がどういう風に地下で過ごしているのかは、私にも分からないわよ」
どうやら、スライムがあちこちに通路を掘り進んでしまっていることについては、アイオンも知らなかったらしい。もしかすると本当に、女王もこれを知らないのかもしれない。少なくとも、女王らにとって、このスライム達の暴挙は『想定外』のことではあるのだろうと思われる。
「そ、そうか……。スライムが、この城に巣食っていたとは……」
「おかげで助かりそうなんだから、文句は言わないでね?」
「あ、ああ。言わない。言えないとも。だが……その、スライム……」
アイオンとしても、この事態は『想定外』だったのだろう。ぶつぶつと、『確かに、魔導の回路の無い壁の内側を掘り進まれても感知できないか……』だの、『しかし、それにしても、どうしてこのように大量に、スライムが……?』だの、何やら呟いている。
「さーて……見ろよ。そろそろ、出口らしいぜ」
だがアイオンがぼやくのもお終いだ。スファルの言う通り……通路の『先』が見え始めている。
ぽん、と、スライム達は宙に浮いた。……通路を飛び出したスライム達が勢い余ってそうなったのだ、と気づくのに、少しばかり時間がかかった。
そして。
「……外!?」
「おお……なんということだ!通路がここまで続いていたとは!」
……なんと。グレイ達がスライム達と共に飛び出した先は……メカニジア城の、外である。
どうやらスライム達は、メカニジア城内部にはびこる魔導の回路や装置を回避しながら掘りに掘って、城の外にまで繋がる通路を作ってしまったらしい!
スライム達の先頭に居たのは、グレイとスファルで助けてやった、例の大きなスライムである。……よくよく見てみれば、通路の直径とこのスライムの直径が概ね同じくらいに見える。どうやら、この大きなスライムが、他のスライム達を先導するように壁の内部や地下を掘り抜いて通路を作っていたらしい。
そして、その大きなスライムの上に、ぽに、むにょ、とスライム達が着地していき……スファル、エメディア、グレイ、そしてアイオンも、スライムに押し流されるようにしてそこへ着地した。
もいん、と弾む奇妙な感覚と共に、グレイは地面に放り出されて転がる。
「あー……すごいわ。脱出、できちゃった……」
エメディアは地面に放り出されるようなことは無く、きちんとスライム達に受け止められつつ、もよん、と座っていた。その姿勢のまま、エメディアは、自分達が出てきたところ……メカニジア城を見上げて、『わあ……』と、改めて声を漏らす。
「っててて……こいつら、エメディアだけ丁寧に扱いやがる」
スファルも地面を転がった後で起き上がり、スライムを、むっとした顔で睨んでいるが……スライム達は、素知らぬ様子で、もよもよと解散していく。
「あ、あら?あなた達、どこか行っちゃうの……?」
エメディアが首を傾げていると、スライム達は頭から、にゅっ、と耳状の突起を生やし、それを折り曲げて、ぺこん、とお辞儀して、そしてそのまま去っていく。どうやら、解散するらしい。
エメディアはこれを『ありがとう!』と手を振って見送り、エメディアの頭の上では、ウサミミが耳を振って別れを告げていた。去るスライム達も、耳状の突起をぶんぶんと振りながら去っていく。
……今回はスライム達に救われた。奇妙なことではあったが……今、4人ともこうして命があるのは、間違いなく彼らのおかげである。
グレイは、『まあ、あいつらが元気に過ごせるといいな』とぼんやり思いつつ、スライムの行列を見送るのだった。
「ふむ……沈む船からは鼠とスライムが最初に逃げる。そういうことだろうな」
アイオンもまた、去っていくスライム達を興味深そうに見送りつつ、そんなことを言った。
「沈む船?」
「ああ、『沈む船』……或いは、『動く城』と言ってもいいかもしれないが……」
アイオンの言葉は、回りくどく装飾的で難解である。
……と、思ったのだが。
「見たまえ」
「……は?」
思わず、グレイも素っ頓狂な声を上げた。
「この通りだ。私も初めて知ったことだが……メカニジア城は、動くらしい」
何せ……比喩でも何でもなく、城が、動いていたので。
鋼鉄のメカニジア城は、今や、その姿を変えつつあった。
外から見て『城』だと思われていたものが、この城のほんの一部でしかなかったことを、今、目撃している全ての者が知ったことだろう。
メカニジア城の地下に隠されていた部分は、地響きと共に地面からゆっくりと現れ……そして、まるで蜘蛛か何かのように複数の脚部を生じさせていく。
そうして……城が、『立ち上がる』のだ。
「は!?え!?おい、城が……城が、動くってのは一体どういうことだ!?」
スファルが混乱のあまり声を上げる。グレイも、叫び出したいような気分だったが……それは、『叫んでいても仕方がないぞ』という理性によって捻じ伏せた。
ただ、足元の石畳が割れ砕けていくのに巻き込まれないようにしながら、グレイはメカニジア城を見上げて……そして、『目が合った』。
立ち上がった城に遮られて、日が陰る。ぞわり、と、グレイの背筋を悪寒が走る。
太陽を背にしたメカニジア城は、ゆっくりと、グレイ達を睥睨し……そして。
「逃げろ!」
グレイが叫ぶや否や、メカニジア城の『脚』が、振り下ろされた。
城下町の人々の悲鳴が上がる。だがその一瞬後には、家屋も石畳も、そして人までもが、一緒くたに吹き飛ばされていた。
その、あまりに現実味の無い光景を見て、グレイはぞっとする。
……城下町を破壊し、あまつさえ、自国民を殺すことすらも厭わないとは。
女王エテルニータは、一体何を考えているのだろうか。まさか、何もかも滅んでしまえと思っているわけではないだろうに。
「お、おい!走れ!」
スファルが叫んだのを聞いて、グレイもまた、動き出す。
この巨大な城相手に、大楯の1つや2つでなんとかなるわけがない。ここはとにかく、逃げなければ。
「いいえ、倒すわ」
だが、エメディアは1人、杖を構えていた。
「お、おい!何考えてんだ!?」
「エメディア姫!今はあれと真っ向からやり合うべき時ではないのではないか!?」
「だってこんなの……野放しにしておけないじゃない」
スファルやアイオンが止めるのも聞かず、エメディアは杖を構え続けている。
「私達が逃げ切れたとして、その他は?あれがローザテイルに入らなければそれでいいだなんて、思えないし……放っておけば、世界中全部、更地にされかねない」
……スファルとアイオンは顔を見合わせる。
エメディアの言うことも、尤もなのだ。ただし、それがあまりにも無謀だ、というだけで。
……だが。
「あー……30秒でいいか?」
無謀さにかけては、グレイの右に出る者は居ないだろう。
元より惜しくはない命だ。エメディアがここに残るというのならば、グレイもまた、そうしたっていい。そうして……エメディアがあのデカブツを倒すのを見られたら、さぞかし愉快だろう、と、そう思って笑うだけだ。
エメディアは、グレイが無謀にも大楯を構えるのを見て……笑った。
「……20秒でいいわ!」




