46話:永遠の国へ*6
……翌日。
「じゃあ、早速『地下神殿』に向かいましょう」
グレイ達はようやく、『地下神殿』に向けて旅立つ。
「地下神殿は、メカニジア城の地下奥深くにあるわ」
出発に先立って、ローズからようやく、情報が開示される。そして開示された情報に、グレイ達は『ああ、やっぱりな』という感想を抱くのだ。
……『地下神殿』などというものがあり、それに女王エテルニータが深くかかわっていた様子であるのならば、やはり、『地下神殿』こそがメカニジアの前身なのではないか、と、グレイは考えていたのだ。
エメディア曰く、『もしかすると、地下神殿を守るためにメカニジア城を建設したのかもね』とのことであった。グレイも、その説には納得できる。
……が、『メカニジア城地下』と言われてしまうと、グレイ達にはどうも、1つ、思い出されるものがある。
そう。グレイ達がスライムに連れられて運ばれていった先の……メカニジア城の地下空間だ。
「ええと……メカニジア城の地下空間から更に下、ってことよね?」
「ええ。そういうことになるわ」
まさか、アレが『地下神殿』であった、ということは流石にないようである。が、もしかすると、あの空間も『地下神殿』に関係しているのかもしれない。
「……もしかして、皆はメカニジア城の地下に行ったことがあるのかしら」
「行った……というか、連れて行かれた、というか……」
「運ばれた、っつうか、流された、っつうか……」
「私は自らの意思で赴いたぞ!」
……ローズは、『一体どういう状況で行ったのかしら……』と首を傾げていたが、まあ、想像できまい。まさか、スライムが大量に現れて、そのスライム達に流され運ばれるようにして地下空間へ突入した結果、メカニジア側が所有しているとてつもない兵器までもを見つけてしまった、などとは……。
「ええと、結局ルイナ以外はその空間を知ってるのよね?」
「そういうことになりますね」
そうして、ローズは『よく分からないけれど、メカニジア城の地下に行けたみたいね……?』と納得しつつ、ルイナへの説明も兼ねて、改めて説明してくれることになった。
「メカニジア城の地下空間には、メカニジア兵なんかの開発部があるわ。それから、それらの保管もしてると思う。……それで、多くのメカニジア兵が守る先に、更なる地下へ進む道があるの」
「そんなモンあったかぁ……?」
スファルは懐疑的なようであるし、実際、グレイもあの空間を思い出してみても尚、『更に地下へ続く道は無かった気がする』という気持ちである。
「奥の方に隠し通路があるはずよ。床板がずれる仕組みになってる」
とはいえ、ローズがそう言うので、何かあることは確かなのだろう。……が、ここまでローズが詳しいとなると、グレイも少々、不思議に思うようになる。
「ローズ。その知識は、実際に見て得たものか?」
「……分からないわ」
尋ねてみると、案の定、ローズの表情が曇った。
「見た、ような気もするし、見ていなくて、ただ、『知識だけ』がある状態なのかも。……自分でも、よく分からないの」
……ローズ自身、自分の記憶が本当に自分のものなのか、分からない状況にある。そもそも、『自分』というものすら、自分のものなのか分からないと言える。そんな状態であるので、ローズの言葉を安易に信じるわけにもいかないが……。
「メカニジア城跡地については、お兄様がある程度、調査していたはずよ。改めてもう一度、お兄様にも聞いてみましょう。そうしたらローズの知識の裏取りができると思うの」
それでも、なんとかローズの言葉を参考にしてでも、『地下神殿』とやらは探索しておく必要があるだろう。
様々な思惑がエメディアを取り巻いている今、知らない内に知らないところで何かが起きるよりは、そこへ飛び込んでいってしまう方が余程、気が楽だ。
「……後のことは、実際に行ってみてから確認してもらった方がいいと思うわ。私も、全部の知識があるわけじゃないみたいだから」
「そうね……。まずはお兄様に今のメカニジア城跡地の様子を聞いて、それから必要な道具とか人員とかを考えましょうか」
そうして、ローズからの説明が終わり、ひとまずの方針が固まった。今日のところはまた、王城で泊まることになりそうである。ということは、グレイはまた、エメディア離宮で絨毯を整えたり、庭の雑草を丁寧に手入れしたり、茶と名乗るポーションを飲まされたりするのであろう……。
……そうして、王城へ向かったグレイ達は、早速、解散した。
エメディアとローズ、そしてアイオンがアンドレア王子に諸々の話を聞きに行き、一方でスファルとルイナは必要なものの買い出しのため城下町へ向かった。
そしてグレイは、エメディア離宮で留守番しつつ、絨毯のブラシ掛けを丁寧に行ったり、食事を食べさせられたり、階段の手摺を磨いたり、おやつを食べさせられたり、お茶を与えられたり、また食べさせられたり、離宮の庭の隅で池の水草をつつく作業を手伝ったり、またもや食べさせられたりした。
……満腹を超えて腹がはち切れそうになったグレイであったが、まあ、食べられる時に食べておくに限る。文句は無い。ましてや、エメディアが信頼する者達にやられたことである。全く、文句は無い。
そうこうしている内に、エメディア達が戻ってきて、そしてスファル達も戻ってきた。
そして。
「やっぱり行ってみるしかないんだもの。しょうがないわね」
……翌日。
一行は、馬車に揺られてメカニジアへと向かうのであった。
やはり、アンドレア王子からも『地下神殿』のものらしい情報は手に入らなかったので!
「おいテメエ。これで何も無かったらどうするんだよ、おい」
「そんなこと言われたって困るわ。私だって、地下神殿が無かったら困るんだもの!」
スファルはローズに詰め寄っているが、ローズも『本当に無かったらどうしましょう……』としょんぼりしているのだ。ローズがグレイ達を騙そうとしている、という訳ではないように思えるが……。
「……まあ、行ってみれば分かることですから」
ルイナはそう言ってとりなすが……同時に、鋭い目をローズに向けてもいる。
「もし何も無かったら、その時に機械の処分を考えれば済む話です」
「えええ!?私、処分されるの!?」
「ええ、場合によっては」
……ルイナも、スファルほどではないが、ローズへの警戒心が抜けないようである。だが、ローズが竦みあがっているのを見て、少々、やりづらそうな顔をした。……ローズがエメディア人形に入ってしまったものだから、気まずいのだろう。
「ええと、何かはあると思うわ。ほら、元々は、お兄様が一度調査した後だとしてもメカニジア城跡地は調べてみましょう、って話だったし、丁度いいじゃない!ね!そういうことにしましょう!」
エメディアはそう言って、ローズを守るように話を断ち切った。
……とはいえ、本当に何かがあるのかどうかについては、エメディア自身も懐疑的なのだろう。『何かあればいいんだけれど……』と呟きつつ、ローズと一緒にため息を吐く。そんなエメディアの頭の上では、ウサミミが、へにょ、と耳を垂れさせてなんとも元気のない様子なのであった。
馬車は進み、そしてメカニジアへ向かい……メカニジアへ向かうということは当然、コルザの町も、通る。
通るが、スファルがコルザへ行きたがらなかったため……野営となった。
スファルは、自分のせいで野営になっている、ということを自覚しているためか、非常によく働いた。いつもの如く岩壁を掘り抜いて部屋を作り、石を集めて竈を作り、火を熾し、水を汲み、料理を作ろうとして皆に止められ……。
見張りも『俺が半分はやってやる』と意気込んでいたのだが、流石にそこで、アイオンが『スファル。君の思いは我々の思いでもある。君が君の血族に対して気まずいのと同じように、我々もまた、気まずいのだ!だから気にしなくていい!』と、気遣いに溢れるような、そうでもないようなことを言ってスファルを止めた。
……ということで、スファルは無事にすやすやと眠り、残りの時間の見張りはルイナとグレイとアイオンとで行うことになった。まあ、いつも通りが一番いい。
グレイとしては、スファルが遠慮してあれこれ頑張ろうとする姿はなんとなく落ち着かないので、彼には……よく寝ていてほしい。そういう気分である。
そうして翌日からは、メカニジア国内に入ることになる。
道中で野営を挟みつつ、メカニジア城までの道を進んでいくと……ふと、ローズが『なつかしい』と、零した。
「……あ、ごめんなさい。変なこと、言ったわ」
「ううん、気にしてないけれど……ええと、懐かしい、の?」
ローズの呟きを聞いたエメディアが首を傾げていると、ローズは、こくん、と頷いた。
「……そうなの。どうしてか、懐かしい気がしてしまうのよ。このあたりの風景……記憶に、無い、と思うのだけれど」
ローズは不安気に、馬車の外の風景を見回す。
……メカニジアの、山がちな風景だ。ローザテイルのそれとは雰囲気が異なる風景は、ローザテイルで長く暮らしているグレイからしても、そして当然、エメディアとしても、『懐かしい』とはならない景色であるが……。
「……やっぱり私、機械なのよね。たまに忘れそうになるから、気を付けなきゃ……」
ローズは何やらそんなことを言って、唇を引き結ぶ。悲し気な表情が、嫌に目に焼き付いた。
「さて、城下に到着したら観光案内でも、と思っていたが……そうだったな。城は跡形もなく吹き飛び、当然、城下もそうなったのだった!」
さて。
そうしてメカニジア城跡地へ到着したグレイ達であったが……その凄惨な光景に、何も言えない。
城が動き、潰え、城下も巻き込まれた。あらゆるものが瓦礫と化し、そこにあった建物も、そこに暮らしていた人々も、最早跡形も無い。
「……祖国に愛着があるかと言われれば、正直なところ、『否』と言うしかなかった」
そんな光景を見ながら、ふと、アイオンがそんなことを零す。
「メカニジアは我が祖国ではあったが、私が栄光と美を追求するための踏み台でしかなかった。私にとってはな。だが……やはり、こうなってしまった様子を見ると、どうも、私はそれなりに、我が祖国を愛していたらしい」
「アイオン……」
エメディアが気遣わし気にアイオンへ声を掛ければ、アイオンはエメディアをちらと振り返り、ふ、と俯いた。
「失ってから気づく、とは、我がことながら実に愚かしい。……嗚呼、だというのに、失われる時は、一瞬で失われる。まあ、古来よりこういうものだ。国の没落など、一瞬のこと。ある1人の英雄が槍を掲げたその瞬間、巨悪は斃れるものだし、ある1人の賢者が杖を掲げたその瞬間、悪の居城は潰えるものだ……」
アイオンは、ふらり、と歩いていく。瓦礫だらけで街並みとは言えないような街並みを歩いていき……そして、かつてアイオンの屋敷であったそこへ、辿り着く。
白亜の石材で造られた瀟洒な屋敷は、今や、無残な瓦礫と化していた。アイオンが手ずから世話していたという庭も、砕けた石材やひしゃげた鉄材に埋もれ、跡形も無い。
……しばらく、そのままアイオンはそこに居た。
グレイ達は掛ける言葉も見つけられないまま、アイオンの背を見守り……。
「……あら?」
だが、そんな中、ふとエメディアが声を上げると、瓦礫に向かって走り出した。
一体何事か、と、グレイ達が揃って追いかければ……エメディアはひょいひょいと身軽に瓦礫を乗り越えて……その一角へと、辿り着いた。
「……ねえ、見て!」
エメディアが目を輝かせて示したのは、瓦礫の隙間……白亜の石材が折り重なるようにして生じたその隙間から、にょっきり、と茎を伸ばして花を咲かせた白薔薇であった。
アイオンは、瓦礫の傍に膝をつき、ふらふらと揺れる白薔薇を見つめていた。
そして、そんなアイオンの隣で、エメディアは嬉しそうに白薔薇を指先で優しくつつく。
ふるん、と揺れた白薔薇は、またふらふらと揺れながら、しかし、空に向かってしっかり花開いている。その姿は、いっそ誇らしげにも見えた。
「……私が白薔薇を好きになったのは、あなたのお庭があったからなの。一輪だけだけれど、また見られてよかったわ」
「そうか。それは……光栄、だな……」
アイオンは珍しくも、口数少なくそう言って……それから、がしゃ、と鎧を鳴らして立ち上がる。
「ああ……これだから私は、花を愛しているのだ。美しく、可憐で、そして何よりも強い。……枯れないことが、強さではないと教えてくれる。再び芽吹き、枝葉を伸ばして咲き誇るその強さこそが、花の美しさだ」
どこか感慨深げにアイオンがそう言えば、その横に珍しくも、スファルがやってきてにやりと笑う。
「ほーう。珍しいな。それには同感だぜ」
「おや。君にもこの美しさが分かるとは。見直したぞ、スファル!」
「へっ、言ってろ」
アイオンが陽気にスファルと肩を組み、スファルは少々げんなりとした顔をしたが……アイオンはその元気と勢いのまま、まるで敵陣へ槍の穂先と旗印を掲げて見せる騎士か何かのように、メカニジア城の跡地を指差した。
「さあ、皆!行こうではないか!メカニジア城の地下に何も残っていないとは言い切れない。案外、しぶとく残っているものがあるかもしれないぞ。……この薔薇のように、な!」




