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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第三章:不死の魂
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39話:棘*3

「……ダンジョンの、核、よね?」

 エメディアが、恐る恐る、それをつまみ上げた。

 彼女の掌の上をころりと転がるそれは、確かに、ダンジョンの核に見える。

「そのように見えます。それとも、ダンジョンの核とはまた異なるものでしょうか」

「いやはや、不思議なものだな。ダンジョンでもない場所に、このようにダンジョンの核があるとは!実に、不思議だ……。この深い謎は実に神秘的で、興味深い……」

「で、どうすんだそれ。ぶっ壊すなら俺がやってやってもいいぜ?」

「あ、えーと……うーん」

 それぞれに反応を見せる中、エメディアはそっと、ローズの様子を窺った。

「ええと……ローズ。これって、本当に、『鍵』になるもの、なのよね?」

『ええ、そのはずよ』

 エメディアの確認に、ローズもまた、戸惑った様子であった。

『でも……私、使い方は知らないみたいだわ。それがダンジョンの核だっていうことは分かるけれど、でも、それだけ。破壊すべきなのか、取り込むべきなのかもよく分からない』

「そう……」

 頼みの綱はローズであったが、その彼女も残念ながら、詳細を知っているわけではないようである。

 ……ローズの持つ知識は、恐らく断片的なのだろう。『記憶を与えられた』なら、尚更そうなっていてもおかしくない。

「うーん……なら、ひとまずこれは壊さずにそのまま持っていった方が良さそうね。地下神殿とやらを見てみて、それから考えましょう」

 結局のところは、『地下神殿』が目的なのだ。それを見てからこの『鍵』とやらの使い方を考えるのがいいだろう。

 だが。

「それで、ローズ。地下神殿、っていうのは……」

 エメディアが声をかけてみても、ローズは、心ここにあらず、といった様子であった。

「……ローズ?」

 グレイが声を掛けてみても、ローズはしばらく、何も言葉を発さず……全員がローズを見つめる中、はっ、としたようにローズは顔を上げた。

「ローズ。大丈夫か?」

『ええ……ごめんなさい。なんだか、少し体調がおかしいみたい……』

 ……ローズの言葉を聞いて、他5人はそっと顔を見合わせる。……機械の体で、『体調がおかしい』と言われても、と。

「あー……ローズ嬢。つまり、不具合が発生している、と?」

『分からないわ。……ごめんなさい、ただ、ぼーっとしちゃっただけかも』

「ふむ……いずれにせよ、一度、ジョード老に診てもらった方がよいだろうな。『地下神殿』へ直行することも考えたいところではあったが……」

 アイオンはそんなことを言いながら、じっ、とローズを見つめ……そして。

「して、ローズ嬢。『地下神殿』は、どこにある?」

 ずっとローズが喋らないそれを、真っ向から尋ねにかかったのであった。


 そして。

『……地下神殿の場所、なの、だけれど……』

 ローズは、のろのろと、迷うように言葉を発し始めた。

『……教えてあげるわ』

「よかった。それで、地下神殿は」

『ただし、私にエメディア・アンバーローズの体をくれたら、よ』

 ……ローズが持ち掛けてきた取引に、グレイは凍り付いた。




「……おいおいおい、そりゃ、どういうことだ?」

 凍り付いたような空気の中、最初に動いたのはスファルであった。

 スファルは剣呑さを隠そうともせず、ローズへ数歩分近づいて、真っ向からローズを見下ろす。

『当然だけれど、本物じゃなくていいわ。けれど、本物そっくりな体が、ある、のよね……?』

 ローズはスファルに怯えたようになりながらも、そう、気丈にも問い返した。それにスファルは、なんとも苦い顔をしていたが……。

『お願い。自分の体を取り戻したいって思うことは、そんなに悪いこと?』

「悪いとは言わねえが……都合は、悪いんだよな……」

 縋るローズにスファルはまた苦い顔をして、ため息を吐く。

「少なくとも、今すぐに、というのは厳しいのではないでしょうか」

 更に、ルイナもそっと、ローズの前に進み出た。

「あなたの話では、速やかに『地下神殿』の探索を行う必要があるとのことでしたが……あなたの体を手に入れようとするならば、まずはディアナバレイとの交渉が始まります。それから現地へ赴いて、と続けば、少なくとも半月は見る必要があります」

『そう……よね……』

 ルイナの言葉の正しさも、ローズは分かっているのだろう。しょんぼりと項垂れている様子を見ると、どうにも、『なんとかしてやりたい』という気持ちが湧いてくるのだが……。

『時間がかかってもいいの。それでも、どうしても、私の体が必要なのよ』

 ローズはそれでも、そう言って食い下がる。

「それは……」

 エメディアは困った顔で、皆を見回した。グレイもそんなエメディアを見つめ返しつつ……ローズの突然の主張を聞いて、ただ、棘が胸のどこかに刺さっているかのような、そんな思いを抱く。

 ……ローズがもし、人間の体であったなら、今、彼女はどのような表情でいるのだろうか。




 それから少しの間、グレイ達はローズについて、どう扱うべきかを相談することになった。

「危険かと思われますが」

 ……そして開口一番、ルイナがそう、主張した。

「自分自身のことを『エメディア・アンバーローズ』であると思っている、メカニジア製の機械です。それがエメディア様そっくりな人形の体を手に入れたならば、何をしようとするかは火を見るより明らかでは?」

「そうなのよねえ……」

 ルイナの鋭く厳しい言葉に、エメディアは深々と、ため息を吐いた。

「……ローズは、私の立場が欲しい、のかしら」

「彼女自身の意思に係わらず、『そうなる』可能性は残り続けます」

「うむ。偽物を本物として祭り上げることは可能だろうな。その上で、ローズ嬢がうっかり立太子、と繋がらないとも言えない。となれば……機械の治める国の出来上がりだ!まるで、第二のメカニジアではないか!」

 ルイナの意見にはアイオンも同調する。少々大仰な身振りと言葉であったが、アイオンの言うことは間違っていない。

 ……どう足掻いても、『そうなる』可能性はあるのだ。

 ローズが自分自身の体だと思っている、例のあの人形を手に入れた時……ローズは、傍目にはエメディアかローズか分からない状態となる。そしてそれをローズ自身が利用しようとは思わずとも、周囲はいくらでも、利用できてしまう。

「……彼女は、自分自身を取り戻したい、と主張している。その理屈は分からないでもない。しかし、彼女が求めているものは、そこらの人間のものではなく、ローザテイル王国の王女殿下のものだ。『自分の体だ』という主張だけでは、それを与えてやれないな」

「だよなあ……俺も、あいつにエメディアの体を与えるってのには、反対だ」

 更に、スファルもまた、腕組みしつつ眉間に皺を寄せ、そう言った。

「気に食わねえ。本物のエメディアがここに居るってのによ。まるで……エメディアを押し退けようとしてるみたいじゃあねえか。おい」

 スファルの言葉には、苛立ちが滲んでいる。……元々、スファルは機械を信用していない。そういった事情もあるのだろうが……『押し退けられた』者としての思いも、あるのかもしれない。


「……だが、彼女は『体が手に入らないなら地下神殿へ案内しない』と言っている。どうする?」

 そうして反対意見が続いた後に発言するのは少々憚られたが、グレイはそう、言ってみた。

 ……ローズの肩を持つわけでは、ない。ないと、思う。

 やりきれないものもある。ローズの気持ちも、分かる。だが……それでもやはり、ローズにエメディアそっくりな体を与えるのは、やはり、危険であろう、とも、思われる。のだが……。

「そう、なのよねえ……ああ、どうしましょう。まずは、代替案をローズ自身に聞いてみてもいいかしら……」

「……そうだな」

 エメディアとグレイは頷き合いつつ、グレイは『きっとローズは代替案を出さないだろうな』と、ぼんやりと予感していた。

「そうだな……ふむ、まあ、まずは彼女に聞いてみるのがよいだろう。だがそれでも『体と地下神殿の情報は何にも代えられない』とローズ嬢が主張を貫く姿勢であったならば、どうする?」

 そしてグレイと同様に、アイオンもそんなことを予感しているらしいが……これについて、答えを持っているものは誰もいないのだ。

「……いっそ、地下神殿の探索とやらを断念しても、よいのでは?そもそもが、何の危険があるのやら、はっきりとしない程度のものです」

「そうねえ……」

 ルイナの提案に、エメディアははっきりと答えない。……ルイナの提案が妥当なようにも思えるのだろうし、同時に、『何かあってからでは遅い』とも思っているのだろう。或いは、ローザテイル国王が出してきたあの文書のことも思い出しているのかもしれない。あの文書のことはグレイもどうにも、引っかかる。

「地下神殿を探索したい、けれど……でも、ローズがいよいよ私そっくりになっちゃうのは、何かと問題が……うーん」

 エメディアは悩み、唸り、いよいよ眉間の皺が深くなってきた。

 ……そんな折、ふと、エメディアは虚空を見つめて、首を傾げる。

「……ローズはどうして急に、あんなこと言い出したのかしら」




「ふむ……ローズ嬢は元々、あの人形を手に入れることを考えていたのではないか?目当ての体が手に入るまで、情報を出し渋り続ければ目的は達成できる。そういうことでは?」

「そう、かしら……」

「『地下神殿』の場所そのものを最初から言わなかったということは、そういうことだと私は思うがね」

 アイオンの言葉に、エメディアは『まあ、そうよね……』と頷く。

 ……ローズは、地下神殿の位置そのものの情報を、何も口に出していない。つまるところ、最初からこうする目論見だった、と、考えるのは至極妥当なのである。

「それにしたって、もっと先に言っていてもよかったんじゃないかと思うのだけれど……。ほら、今の体になる前に」

「それはそうだな……」

「いずれにせよ、一回彼女と話してみましょう。それで、こちらの考えを伝えた上で、もう一度考えてもらうのがいいと思うの」

 エメディアがローズを待たせている方へぱたぱたと駆けていくのを見送って、グレイも考える。

 ローズは、今の体を手に入れたから、『エメディアそっくりな』体を欲するようになった、のかもしれない。或いは、今、この遺跡で何かがあったのか。

 ……何か、嫌な予感を覚えつつ、グレイはエメディアを追いかけてローズの方へと向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
ああああ、やっぱり不穏な成り行きになってしまった……。
あれ? 機械のエメディア、、、なぜ、「エメディアそっくりの体がある」と知ってるのか。いや、もともと、そこから分離させはしたけれど、なぜに「エメディアそっくりの機械の体がある」のを事実として知っているの…
エメディアになればグレイと結ばれると思った。
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