↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第三章:不死の魂
117/122

34話:機械仕掛けの薔薇*4

 ローズはしばらく、黙っていた。グレイも、他の者達も皆、緊張しながらそれを見守る。

『ええ、と……そうね、ちょっと、答えに困っているのだけれど……』

 だが、グレイが予想していたような調子ではなく、ローズはなんとも申し訳なさそうな、頼りなげな様子でそう言うと、『えーと……』と口ごもり……それから、頷いた。

『多分、教えられたんだと思うわ。でも、どう教えられたのかは、覚えてないの。……多分、私の記憶に直接、そういう情報を仕込んだ誰かが居たんだと思うわ』


 ローズの言葉を聞いて、グレイはぽかんとしていた。咄嗟に、理解が追い付かない。

「……ええと、それって、どういうことかしら」

 グレイと同じく、やはり理解が追い付かないらしいエメディアが、恐る恐る問いかければ、ローズは項垂れて、答える。

『いつ知ったかは分からない。誰から教えられたかも分からない。けれど、そういう知識がある。……そういうかんじ、かしら』

「成程……つまり、『そういう記憶が初期設定だった』といったところかな?」

『ええ。きっと、そうだと思う』

 アイオンの補足も、グレイには意味がよく分からない。スファルはもっと分かっていないらしく、『どういうことだ?』と首を傾げている。

「ああ、つまるところ、彼女を『生み出した』瞬間に、『そういう風に造った』ということだ。彼女は生まれた時から、それらの記憶を持っている。そういう風に造られた。そういうことだろう」


 グレイはアイオンの言葉を何度か咀嚼して、ようやく、意味を理解できた気がした。

 つまるところ……ローズの記憶は、生身の人間のものではなく、何者かが手を加えた結果生まれているもの、と考えられる、ということだろう。それ故に、ローズを生み出した何者かによって都合がよいような知識や記憶を持っているのだ。

「……となると、ローズを生み出した人は、ローズに地下神殿の話を知らせたかった、ってことかしら……」

「或いは、伝達させたがっていた、ということかもしれません。……彼女は、エメディア様そっくりの人形に入る可能性が高かったのですから」

「ああ、そうだったわね……」

 ……アイオンの解説で、なんとなく理解が進んだ部分はあるが、それにしても、謎は深まった。

 ローズを生み出したのは何者で、一体何の目的があってローズを生み出したのだろうか。

 女王エテルニータがそれをやっていたのだとしたら、彼女は一体、何を考えていたのだろう。




 ローズに関する謎は深まったものの、ひとまず、『地下遺跡の鍵がある場所』への旅程はなんとか整った。

 野営を2度挟んで、かつそれなりに険しい山道を歩き通すことになるであろう旅程だ。今から気が重いが、仕方がない。『地下遺跡』とやらを調べてみないことには、懸念が消えないので。

 そうして、アイオンとスファル、ルイナとエメディアがそれぞれ、旅の準備やら買い出しやら何やらに出かけてしまうと、1人留守番のグレイは、自然と、ローズと共に取り残されることになる。

 ……グレイは、何と声をかけてよいものやら困っていたが、ローズの方から、話しかけてきた。

『……私って、元々は人間なんだと思ってたの』

 書き文字ではなく、音声でやり取りができるようになったローズは、グレイが覗き込みに行かなかったとしても、グレイに情報を伝えることができる。……グレイが何気ないふりを装って、ローズから視線を逸らしていたとしても関係なく、だ。

『その、エメディア・アンバーローズだ、って。なのに、どうしてかこんな、機械の体に入れられたんだ、って……』

 ローズが話し始めたので、グレイもそれを聞かないわけにはいかない。グレイは気まずい思いを抱えつつも、ローズに向き直り……そこで、グレイの方を見るでもなく、俯いて声を発しているローズを見ることになる。

『だから私は、もし複製であったとしても、偽物じゃない。……そう、思ってたの』

 ローズは弱弱しい声でそう言うと、次の言葉を紡ぐまでに時間を要した。恐らく、彼女の体が機械ではなく、人間のそれであったならば……波打つ心を落ち着かせ、震える声を律するために必要であっただろう時間だ。

『……でも、私って、完全な作り物、なのね……』

 ……グレイも、なんとなく察していたことであったし、『そうであれ』と思っていたことでもあったが……ローズは、エメディアの複製というよりは、エメディアの情報を元にして人工的に生み出された人格、なのだろう。

 少なくとも、記憶に何者かの介入があった以上、人格がエメディアのものそのままだとは言えない。人の人格は、記憶によって大きく影響されるのだから。

 つまり……ローズは、作り物なのだ。

 ……それをローズ自身が認めていることが、なんとも、悲しかった。




『分かってはいたの。人間のエメディア・アンバーローズと、エメディアを名乗る機械と、2人もエメディアが居たら困るわよね、って。……よかったわ。片方、偽物で……』

 それからローズは堰を切ったように話し始めた。まるでアイオンのようだ。だが、アイオンとは違って、言葉1つ1つに装飾が少ない。只々、彼女の心情そのままが、言葉になって出てくるようであった。

『王女が2人居たら、国が混乱するものね。あ、もしかしたら、私を作った誰かは、それが目的だったのかしら。ローザテイルを、狙ってて……』

 努めて明るく話していたローズは、ふと、そこで言葉を途切れさせた。

『……ねえ、グレイ』

 そして、ローズの機械の目が、グレイを見つめる。

『あなたは……どう思う?』


 どう、と聞かれても、グレイには何か、答えられるような言葉が無い。

 ローズを作った何者かがどういう狙いであったのかは分からないままであるし、同時に、ローズ自身が作りものであることについて、何か言えることも無い。

 ……こういう時グレイも、アイオンのようであったなら、もう少しばかりは掛ける言葉があったのだろうか。

 混乱し、怯え、そして喪失感と悲しみを抱いているローズに、何か、してやれることがあったのでは。

『……ごめんなさい。変なことを聞いたわよね』

 グレイが悩む間に、ローズは自分の問いかけを引っ込めた。彼女が人間の体を持っていたのならば、きっと、困ったように笑ってみせたところなのだろう。しかし、メカニジア兵の顔には、表情の変化が無い。

『時々、どうしようもなく不安になるの。足元から世界が崩れていってしまうような感覚。何もかも嘘で、本当は何も存在していないんじゃないか、だなんて考えてしまって……』

「それは……」

 グレイはローズに何か言ってやりたくて、考える。お互いに黙ったまま、しばらく、時間だけが流れて……。


「……それは、俺もなんとなく、思ったことがあるかもしれない」

『えっ?』

 ……そうして口に出してしまってから、グレイは『慣れないことをするもんじゃない。碌な結果にならないぞ』と自分自身に忠告する羽目になった。ローズは間違いなく、困惑している。それはそうだろう。グレイとローズとでは、状況が違いすぎる。あまりにも!

 だが、せめて嘘は吐くまい、と思いながら、なんとか補足することにする。

「あんたとは、逆だが。その……『何もかも嘘で、本当は何も存在していなかったらよかったのに』と思ったことは、ある。俺自身も何か、作り物か何かだったらよかったのに、と……」

『……まあ!』

 グレイの話に、ローズは驚いてみせてくれる。……表情の無い機械であっても、身振りや仕草で、こうして感情が見えることもあるのだな、とグレイは少しばかり、おかしいような気分になってきた。

「その、妙な話になったな。当時、暮らし向きがかなり悪かったもんで……そういうことをよく考えてた」

『そんなに大変だったのね』

「裏通りの孤児にはよくあることだ。それに、今のあんたほど大変じゃないさ」

 ……当時のグレイのことを振り返るならば、ただ、『孤児にはよくあること』であった。ただし、恩恵のおかげで『孤児によくある最悪な状況』が延々と続くような日々ではあったが。

 そんな中で、『実は何もかも嘘なのでは』と思ったことは、何度かあった。普段はそんなことを考える余裕すら無かったが、偶に余裕ができるとそんなことを考えたものだ。

 ローズの状況とも心情とも噛み合わない話であろうが……ひとまず、何かを喋ることには成功した。グレイは、他に何か喋れるものはないだろうか、と思って自分の記憶を探り……。


『……ありがとう。少し元気が出てきたわ』

 ……グレイが次の話を何か出そうとする前に、ローズがふと、そんなことを言い出した。

「元気が出るような話じゃないだろ」

『そう?だって、私が作り物でも、世界が全部嘘だったとしても……グレイがこうやって、私を気遣ってお喋りしてくれるのは本当だ、っていうことじゃない?』グレイは、却って申し訳ないような気持ちになりながら、『そういうもんか』と零した。ローズは、『そういうもんみたい!』と笑い声を上げた。

『ねえ、グレイ。これからもお喋りしてくれると嬉しいわ』

「……俺でよければ、いくらでも」

『いくらでも?本当に?そんなこと言われたら私、一晩中だってお喋りし続けるわよ?』

「構わないさ」

 それでローズの気が休まるなら、と思って頷いてみせれば、ローズは機械の足を動かし、機械の腕を動かして……。

『……ありがとう、グレイ』

 機械の体でグレイを抱きしめて、少しして、離れていった。

『ふふふ、体を貰えたから、こういうこともできるようになったのね』

「あ、ああ、そう、だな……」

 ローズは楽し気であったが、グレイは何やら混乱していた。何せ、誰かに抱きしめられることなど、グレイの人生にはほとんど経験が無いので。

『……ごめんなさい、機械の体だと、硬いわよね』

「いや、まあ、鎧みたいなものだろう」

『鎧……鎧、ね。うん、確かにそうかも……』

 ……そうして、何やら困惑し通しのグレイは、少しずれた話になってきたものの、ローズと会話を続けることになった。

 その後、ローズとは『私が鎧の騎士だったらどうかしら』『アイオンみたいに?』『それはちょっと……』などと雑談し、幾分、ローズの気分も明るくなった様子であった。

 これが、グレイにできる精一杯である。

 ……もっと何かしてやりたいような気持ちでは、あるのだが。




 翌日。

 グレイ達はいよいよ、『地下神殿の鍵がある場所』とやらへ出発することになった。

「行き先はメカニジア国内の山岳部だ。町としては、サルヴァンが最寄りになる。そこから野営2回の計算だが、天候如何によっては3回野営することも考えた方がいい」

 メカニジア国内に最も詳しいアイオンが、今回の計画の立案者である。皆、地図を見ながらアイオンの言葉に頷いた。

「また、サルヴァン到着まではできる限り、メカニジア国内の滞在時間を減らしたい。よって、ローザテイル国内辺境の町、リラを経由してからメカニジア国内に入ることにしよう。リラまでは馬車。そこから先は徒歩だな」

 地図上の『限りなく山に近いメカニジア国内の町サルヴァン』と、『限りなくメカニジアに近いローザテイル国内の町リラ』に点が打たれ、それらを繋ぐ線が引かれていく。

「……コルザの町は経由しねえのか?」

 そんな地図上のあれこれを見ていたスファルが、ふと、心配そうにそう零した。

 ……実際、コルザの町はメカニジアにほど近い。だからこそ、前回、グレイがエメディアと共にメカニジアを目指した時にはコルザを経由することになったのだが……。

「王都ならコルザだろうが、サルヴァンへ向かうならリラの方が若干、近いのでな。まあ、コルザを経由することも可能だが、どうする?」

「いや、いい。別に、経由したいわけじゃねえからな……」

 アイオンがさらりと返せば、スファルはほっとしたように返して、自分の席にちょこんと着席した。……コルザへ戻るのは、まだ、気まずいのだろう。まあ、あれだけのことがあったのだから、当然と言えば当然だが。

 アイオンもそれ以外の仲間達も、当然、スファルのそんな事情は慮っている。よって、今回のこの経由地が決定したのだ。スファルには誰も何も言わないが。


 そうして旅程の確認もできたところで、グレイ達は元気にジョードのところを出発した。

 ジョードは『もう来るなと言いたいが、やっぱりまた来るんだろうな……』と諦めの顔をしており、そしてエメディアとアイオンに、にっこりと頷かれてしまった。グレイもまた、『また世話になる』と伝えてみれば、ジョードは嫌そうな顔をしながらも、『あんまり派手に壊すなよ。直す身にもなれ』と頷き返してくれた。

 ……帰ってくることを認められたような気がして、グレイは緩んでくる口元をどうしようもできなかった。




「ところで、やっぱり町を出るまではこうなのよね」

「……そうだな」

 尚、王都を出るところまでは、グレイはまた、ルイナに咥えて飛んでもらう。

 地上を行きかう人々は、『ああ、またあのドラゴンの餌……』『あいつは一体、何をやらかしたんだろうなあ……』と、不審げにこちらを見上げている。

 ……居た堪れないが、仕方がない。これがやはり、手っ取り早いので……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ドラゴン用ガムみたいな扱いかな? ローズがエメディアと成り代わった場合、国軍とかでその場所に向かうって可能性があるから、単純に人数か戦力が必要な場所なのかも。
ドラゴンの餌というよりはドラゴンのお気に入りのおもちゃなんじゃ…?
いちゃいちゃしてはる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。