表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第三章:不死の魂
111/115

28話:ジャンク・ヤード*6

 それから太陽が高く上り、傾き始めるまで、グレイ達はひたすらゴミ捨て場を漁っていた。

 大きな廃材は、スファルが投げ飛ばしていく。別に、投げ飛ばす必要は、無い。だが、彼がそうしたいのだろうから、グレイ達はとやかく言わなかった。

 ガシャン、バキン、と凄まじい音が立て続けに上がっていたが、それは何も言わないスファルの声のようにも思えた。

 一方、エメディアはひたすら、魔力の探知を行っていたらしい。……そして、グレイはその補助を行っていた。

 グレイも、魔力はすっかり多くなってしまった。エメディアが感じ取れるものは、大抵、グレイも感じ取れる。尤も、エメディアのように魔力を操ることはできなかったが……それでも、勘はそれなりに働く方だ。

 そうして、グレイとエメディアとで『こっちの方のような気がするのよね』『結構深いな』などと指示を出しつつ、そこをスファルが主として掘っていく、という風に、グレイ達は働き……。


「……あった」

 そうしてようやく、それが見つかった。

 そう。メカニジア兵の残骸である。

 だが。

「上半身だけかよ!」

 スファルの叫びに、グレイ達も寄っていって、スファルの手元を覗き込み、『あー』と皆で落胆の声を上げる。

 ……メカニジア兵の残骸は、比較的綺麗に残っていた。ただし、上半身だけ、である。




「どうすっか……これ、下半身も探すかぁ……?」

「そもそも、下半身の部分って、スファル、あなたが潰しちゃわなかった……?」

「……そうだったかぁ?」

 一応は見つかったが、これでは例の機械が移る先としては不十分だろう。さてどうしたものか、とグレイ達は頭を悩ませる。

「まあ、何だ!下半身だけあるよりはマシだったと思おうではないか!」

「……まあ、言われてみれば確かにそうよね」

 アイオンの何とも言えない言葉に『マシか……?』と思ったグレイであったが、まあ、考えてみれば『確かに、下半身だけよりは上半身だけの方がマシだな……』と結論が出た。

 ……例の機械も、下半身だけ与えられても困るだろう。本当に。

「最悪の場合、足は無くても、我々が運べばいい。我々の義肢に悪さをされないようにだけ、ジョード殿に細工しておいてもらう必要がありそうだが」

「そうね。そうなるかも。或いは、ジョードさんのところにある廃材だけで、なんとか脚らしいものが作れるかもしれないし……うん、それに期待しましょうか」

「ならここらへんの廃材をいくらか貰っていこう。ジョードのところは常に資材不足だ」

 そうして、グレイ達はメカニジア兵の上半身だけの残骸を拾い、更に廃材を漁っては使えそうなものを探し……結局、日暮れまでゴミ捨て場に居ることになったのだった。




 その日の夜、グレイ達はまた、昨日の食堂に来ていた。

「ああ、疲れたわ!今日は本当にいっぱい働いちゃった!」

「お疲れ様でした。しかし、その成果はあったのでは」

「そうね。いい部品も見つかったことだし。アイオンのお墨付きだもの。きっと何とかなるわ!」

 食事を摂りつつ、エメディアはぐったりとしていたが、それでもその表情は明るい。最も機械に詳しい者として、アイオンにあれこれと助言を求め、『部品としてはこういったものが欲しいが、ジョード殿はある程度鋼材があれば自力で加工できそうだったので、こういったものがあれば……』などと言われつつ、グレイ達はそれに合うよう、ゴミ漁りを続け……そうして、ある程度満足のいく成果を上げられた、という訳である。

「では、明日は帰路ということになるか」

「そうね。その予定だけれど……」

 アイオンとエメディアは頷き合い、しかし、エメディアはふと、縦に振っていたその頭をぴたり、と止め……。

「……ねえ、スファル」

 丁度、近くで町の者と笑い合っていたスファルの服の裾をついついと引っ張って、エメディアは少しばかり、心配そうな顔をした。

「コルザへの滞在は、必要無いの?」


「ああ、必要ねえ。今晩の内にもう出ちまってもいい」

 スファルは、随分と冷たい顔でそう言って……言ってしまってから、町の者達がそれに悲しそうな顔をしているのに気づいて、慌てて表情を取り繕った。

「いや、その、俺達には重要な使命?がある!特に、エメディアはお姫様だ。忙しいんだよ、色々とな!お前らと飲み食いしてんのは楽しいが、それだけじゃあ駄目なんだよ」

 スファルがそう言えば、町の者達は『流石はスファルだ!』『そんな大変な仕事を請け負ってるのか!』『お姫様の護衛ってのはすげえなあ!』と、また歓声を上げる。

 ……だが、その中で盛大に酒を呷って見せて、殊更大きな声で笑うスファルを見ていると、どうにも……無理をしているように見える。

 グレイがエメディアへ視線をやると、エメディアもまた、同じようなことを考えている様子であった。要は、心配そうな顔でスファルを見ているのだ。

 続いて、グレイがアイオンへ視線をやると、アイオンは『やれやれ』というかのように肩を竦めて見せる。そして、ルイナへ視線をやると……。

 ……ルイナは、冷静にスファルを見つめながら、何やら考え込んでいる様子であった。




 明日の出発は早い予定である。ということで、町の者達に惜しまれながらも、グレイ達は早めに宿へと引き上げた。

 宿への帰り道、舗装も何もされていない道を歩きながら、眩しいほどの月明かりに影を落として、スファルを先頭にグレイ達は歩く。

「あーあ、これでいよいよ、コルザとはおさらばってワケか」

 スファルは小石を蹴りながらそう零して、そして小さく笑い声を漏らした。

「おさらば、とは」

「もう二度と、帰ってくるつもりはねえ。……元々、ここを出た時に、そのつもりだったんだ」

 尋ねたルイナに、スファルはそう返す。

 ……あの時。グレイとエメディアが、スファルを一緒に連れて行こう、と決めたあの時……スファルはふらり、とコルザを出て、そしてアテもなくどこかへ行くつもりであったらしい。

 当然、帰る気は無かっただろう。二度と。……それを、再びここへ連れてきてしまったのはグレイ達である。

「だってのに……バカみてえだな」

 ……同時に、スファル自身も、コルザへ帰ってくることで、何かしらかの変化を期待していたのかもしれない。

 自分を殺そうとした父と弟が、何か、変わっているのでは、と。


「……二度と、戻ってくるつもりは無いのですね?」

 ふと、ルイナがそんな声を上げた。

 そして。

「ならば、もっと好き放題にしてよかったのでは?」

「……は?」

「それこそ、殺してしまっても、よかったのでは」

「はあああ!?」

 ルイナは、スファルに悲鳴めいた声を上げさせたのだった。




 眩いほどの月光の下、スファルは絶句して、しばらくルイナを見つめていた。そしてルイナはルイナで、夜空めいた瑠璃色の瞳をじっとスファルへ向けている。極めて冷静である。冷静にさっきの言葉を出したらしい。グレイはエメディアとアイオンと顔を見合わせて、それぞれに何とはなしに頷き合った。……ドラゴンというのは、とんでもない生き物である!

「お、おま、お前……ええ、な、あ、そうか、そうだったな、ああ……ドラゴンってのは、そういうモンなんだったか……」

「オーガは違うのですか?」

 スファルはなんとか冷静さを取り戻そうとし、そして、ルイナからまた繰り出された問いに、ぐ、と詰まった。

 そのままスファルは、何やら唸り声を漏らしながら考え……。

「オーガは……オーガは、一族を、大事にする、もんだ」

 そうして、絞り出すように、そう答えた。

「身内で殺し合うなんて、しねえ」

 ……身内に殺されそうになったスファルがそう言うものだから、グレイとエメディアは、只々、いたたまれない。

 あの時、グレイがメカニジア兵の銃に気づかなかったら。あの時、グレイが咄嗟にスファルとメカニジア兵の間に割り込まなかったら。スファルはきっと、あそこで殺されていたのだ。

「しかしあなたは殺されそうになった。そうですね?」

 そしてルイナは容赦が無い。グレイとしては、ルイナがどこに話を持って行こうとしているのやら、少々不安でもあったが……だが同時に、これくらい荒々しく容赦のない言葉で切り込んだ方が、今のスファルにはいいのかもしれない、とも思う。

 膿んだ傷は、そのまま優しく包んでおいても良くならない。時には自らの傷にナイフを突き立てて、膿んだ部分を切り捨てる必要もあるのだろうから。


「スファル・トゥルバ。私はドラゴンで、あなたはオーガです。異なる者同士、助言できることも限られるでしょうが……」

 ルイナはルイナで、自分が随分と切り込んでいる、ということは理解しているらしい。少しばかり、その表情には迷いが見える。

 だが結局のところ、彼女は……優秀な射手なのだ。その鋭さは、言葉にも表れるものらしい。

「私なら、あいつらを殺します。殺して、食らって……自らの誇りを証明します」

「それは……」

「ドラゴンなら……いえ、私なら、そうします。そう、しました。ずっと、そうしたいと思っていたから」

 ぎらり、とルイナの目が月光に輝く。

「あなたは、違いますか?自らを嘲る者に、一矢報いてやりたいとは、思わないのですか?」

 そしてスファルは只々、動揺していた。




「俺は……その……」

 スファルは動揺のあまりか、道の真ん中でしゃがみ込む。しゃがんでしまえば、彼は小柄なルイナより更に小さい。先程、食堂で豪快にやっていたオーガと同じ者だとは思えないほど、小さく見える。

 ……そんなスファルを見かねて、グレイは『俺の出番じゃない気がするが』と思いながらも、そっと、スファルの小さな影を踏む。

「……まあ、殺さないにせよ、ちょっと暴れてきてもいいんじゃないか」

 そうしてルイナよりは幾分穏やかなことを言ってみれば、スファルはそっと顔を上げた。

「その……まあ、何だ。嫌われ者として助言するなら、『嫌われたら嫌い返す方がいい』っていうことに限る。ついでに、『舐められないためには、暴れておくことだ』とも」

 どうだ、とグレイがスファルを見つめていると、スファルは何やら少し考え込み……。

「……違いねえな」

 それからゆっくり、立ち上がった。

 まだ、迷いのある顔ではあったが……スファルは自分の手を見つめ、手を握って、開いて、それからゆっくりと、顔を上げ、月を睨む。

「俺は……誇り高きオーガ、スファル・トゥルバだ。俺の誇りを傷つける奴は、誰であろうとも、許さねえ」

 拳を強く握りしめ、スファルはふと、グレイ達を振り返る。

「……許さなくて、いい、んだよな」

 問うスファルの表情からは、随分と迷いが消えていた。


「……そうだな。ふむ。ならば出発は明日の昼以降にしよう。如何かな?エメディア姫」

「そうね。私は確かに、『私の護衛を侮辱することは許さない』って言ったわ。なら、ちゃんと『許さない』ようにしなきゃ、ね。これは私の名誉の問題でもあるわ」

 アイオンとエメディアは、努めて明るくそう言って、スファルの肩を叩いて宿へ歩き出す。

「……いいのか」

「まあ、帰り道は一日どこかで野営ね。でもいいんじゃないかしら。私、野営、嫌いじゃないわよ!」

「その代わり、また岩を掘って部屋を作る奴を頼むことになりそうだな」

 グレイも『ほら、行こう』とスファルの背を叩いて歩き出せば……スファルも、にやりと笑って足を動かし始めた。

「はっ。幾らでもやってやるさ、そんなこと。……真のオーガは、仲間を大切にするもんだからな!」




 そうして、翌朝。

「……ロカーム・トゥルバ!ダハブ・トゥルバ!」

 コルザの町で一番の屋敷に、朗々とスファルの声が響くことになった。

「両者に……俺自身の誇りをかけて、決闘を申し込む!」

 屋敷の使用人達や、朝っぱらから見物に来たらしい町の者達のざわめきを浴びながら……スファルは、階段から降りてくる老オーガへ、牙を剥くように笑ってみせた。

「さあ、どうだ……俺を殺す、絶好の機会を与えてやるぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
下半身はチャリオットでなんとか
多分スファルは強くなってるからなぁ…2対1でもきっちり勝てそう
下半身だけよりは上半身だけの方がマシ………それは………そうね………メカニジア兵、内部構造は分からんけど二足歩行して腕に道具を持つスタイルだったもんね、それならまだ上半身の方が………腰と脚だけ有っても困…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ