26話:ジャンク・ヤード*4
スファルは、スファルを取り巻く人々に勧められて、本日の夕食の場所を決めたらしい。グレイ達はスファルと、スファルを取り巻く多くの人々と共にその食堂へと向かった。
そして、食堂にスファルが到着するや否や、『今日はめでたい日だ!』と、どんどん酒や食事が運ばれてくるのだ。グレイは、この町にエメディアと共に来た日のことを思い出す。あの時も、スファルは随分と取り巻きを連れていたし、町の皆から慕われている様子であったが……今もそれは健在であるらしい。
そうして、スファルがすっかりコルザの町の者達に囲まれてしまったので、グレイ達は4人、少し離れたテーブルで食事を摂ることになった。
とはいえ、『あんた達、スファルの連れなんだろ?ならあんた達も沢山食ってくれ!』と、あらゆる料理が運ばれてきた。また、スファルは町の者達と喋ることが多かったが、その途中で、グレイ達のテーブルまでやってくることもあった。
特に……『なあ、あのお連れさん達を紹介してくれよ!』とせがまれたら、スファルは当然、そうするのだ。
「紹介しよう。こいつはエメディア。ローザテイルのお姫様だ!」
「エメディアよ。スファルは……えーと、私が護衛をお願いしてるの」
最初に紹介されるのは、当然のようにエメディアである。エメディアはにっこり笑って、コルザの町の者達を早々に魅了した。エメディアの笑みを向けられて尚、エメディアを好きにならずにいられる者など、この町には存在しないだろう。
「こっちはルイナ。ディアナバレイの誇り高き戦士だ」
続いて紹介されたのはルイナである。ルイナは『誇り高き戦士』と紹介されたことに少々驚いた様子であったが、ぺこん、と小さく頭を下げて、言葉少なに挨拶を返した。
ルイナはルイナで、『小柄なのに戦士なのか!』『スファルが言うくらいなんだから、きっと強いんだな?』などと、町の者達には好意的に受け止められている。……こういったことは、ルイナにとって馴染みが無いことなのだろう。少々戸惑った様子のルイナを見て、グレイはほんの少し、親近感が湧いた。
「で、こっちのうるせえのがアイオンだ」
「やあ、コルザの町の諸君!私はアイオン・シルヴァスター。メカニジアで騎士を拝命していた者だ。今はスファルやエメディア姫らと共に、世界の平和を守るために活動しているところ、といったところか。どうぞよろしく!」
……次に紹介されたアイオンは、スファルの『うるせえのがアイオン』の紹介を見事に自分で肯定していくかの如き立派な挨拶で場に切り込んでいき、そして案の定、『成程、うるせえ奴らしいぞ』とコルザの町の者達に受け止められていた。
とはいえ、スファルが『まあ、うるせえがそれなりに強い。俺ほどじゃあないがな!』とも紹介したため、『成程、うるさいだけではないのか……』と、多少、見直されていただろうが。
……そして。
「で、こいつがグレイ・シンダーだ」
グレイが紹介され、皆の視線がグレイに集まると……よろしくない。
グレイの恩恵は、確実に皆に影響している。グレイ個人を意識せずに居れば済んだかもしれなかったが、こうしてグレイ個人に視線がいくようになってしまうと、どうにも駄目だ。
食堂の中にはどよめきが走り、そして、どうにも空気が冷えていく。
「……俺は居ない方がいいな」
なのでグレイは、そっ、と席を立つことにした。
食事の途中ではあったが、卓の上に置かれたパンを二切れほど取って、これを持ち帰ればまあ腹は満ちるだろう、と考える。
だが。
「何言ってやがる」
そんなグレイの襟首を、スファルの手が無遠慮にぐいと掴んだ。
「こっちだ。おい、グレイ!お前の席はここだ!」
そして、スファルがどっかりと座った隣に、グレイは引きずり倒されてしまった。
……こうなってしまうといよいよ、グレイは逃げ出せない。そして、食堂の雰囲気はいよいよ、ぴりついてきていたが……。
「いいか、皆!こいつはなんか……こう、いけすかねえ野郎に見えるだろうし、実際、そんなとこもあるが!俺の仲間だ!俺の命を救ったこともある!」
スファルは、そんな空気を吹き飛ばすように朗々と宣言したのである。
グレイが目を瞬いていると、スファルはそんなグレイを見下ろして、ふん、と鼻を鳴らしつつ、食堂の皆に向かって、にやり、と笑って見せる。
「俺はグレイ以上の盾持ちを見たことがねえ。グレイに喧嘩吹っ掛けんなら、俺に通してからにしろ。……下手に喧嘩売ったら、喧嘩売った方が負けるからな!」
そしてスファルがそう言えば、わっ、と場が盛り上がる。
早速、『なら俺が喧嘩売ってもいいか!?』とやってくる男が居たが、スファルはそいつの顔を見て少し考えると、『いや、お前だと危ない。やめとけ』と首を横に振ったのである。
これを見て、いよいよ盛り上がりが増す。更に数名が『こいつと喧嘩させろ』と出てきたので、グレイは『おいおい勘弁してくれ』と思ったが……。
「……よぉし。お前と、お前。2人がかりなら大丈夫だろ。よし、グレイ。こいつら2人まとめて相手しろ」
「は?」
……スファルがにやにやしながらそんなことを言うものだから、場はいよいよ歓声に飲み込まれ……そしてグレイは、深々とため息を吐きつつ、壁際に置いておいた大楯を持ってくることにしたのだった。
何せ、どうもグレイは、スファルの『仲間』であるらしいので。
……それから数分後。
食堂の外の、少し開けた場で。グレイは、コルザの町の鉱山で働いているらしい男2人を相手に、大楯1枚で戦う羽目になった。
わっ、と歓声が上がる中、グレイは黙って、大楯を構える。
……そして、グレイが構えるや否や、2人が同時に襲い掛かってきた。
「甘いな。2人居れば背後を取れるとでも思ったか?」
グレイは笑って、その内の片方へと突進していく。
……実際のところ、同時に2人を相手にするのは難しい。大楯はグレイの全身を覆ってくれるものではない。魔導鎧があるにはあるが、鎧に頼っていては『盾持ち』はやっていけない。
ならば簡単なことだ。2人同時に相手をしなければいい。
常に1人だけを相手にするようにするのだ。同時に左右から襲い掛かってくるのであれば、グレイから片方へ距離を詰めて、2人の攻撃に時間差を生じさせればいい。そして1人を片付けたところで、もう1人を相手取る。
グレイは、2人の内の1人に突進していき、『まさか大楯を持っていながらにしてこんなにも動くとは』とでも思っているのであろう相手に、大楯ごとぶつかっていく。
大楯に潰されるようにして倒れた1人はそのまま放っておき、グレイはすぐさま体勢を立て直してもう1人の攻撃を防ぐ。
……相手は、本物の剣を使ってきている。うっかりしたらグレイが死にかねない訳だが……これくらいの太刀筋なら、見切ることは容易い。
「どうした?そっちは2人、俺は1人だぞ」
グレイは煽り文句を言ってやりつつ、相手の剣を弾いてそのまま、大楯を振り回す。大楯の質量がぶつかりにくるとなれば、大抵の相手は受けるか避けるかで精一杯だ。案の定、今回もそうなった。
グレイは大楯を支柱にするようにして身を翻し、その勢いのままに蹴りを入れてやる。行儀の悪い戦い方だが、これくらいはやらねば生きていけない。
蹴られた相手が剣を取り落としたら、そこへすかさずもう一撃、大楯で殴りつけてやる。そうして相手が倒れたら、落ちた剣を拾い上げるのはグレイだ。
「……さて、あんた1人になったが、どうする?」
グレイは剣を見せつつ大楯を油断なく構え、最初に突進で倒した相手が起き上がってくるのを笑って見守った。
……人数の利を失った以上、グレイに勝てないであろうことは、相手も理解しているだろう。だがそれでも、相手は襲い掛かってくる。何せ、グレイが憎いだろうから。
「期待通りだ。ありがとう」
だが、怒りに支配された行動は読みやすい。真っ直ぐに突っ込んできた相手を笑っていなして、大楯で殴りつけて倒す。
そして倒れた相手に、先程拾った剣を突きつけてやれば、それで試合終了、という訳だ。
どよめきが広場を満たしたところで、グレイはスファルの方を見た。
スファルはというと、満足気ににんまりと笑って頷いていた。
「皆、見たか!これが俺の仲間の実力だ!これなら文句はねえだろう!」
そうしてスファルが堂々とそう言い放てば、広場の見物人達はそれぞれ、スファルの言葉に同調した。
未だ、グレイへの嫌悪感のようなものは拭えない様子ではあったが、『だがあいつは強い』という認識が上書きされれば、少なくとも、グレイに喧嘩を売りに来る者は居なくなる。
スファルが『じゃあ飯に戻るか!』とグレイの肩を叩いて食堂へ戻ったため、グレイもそれに付いて戻る。
「……あんた、意地っ張りだな」
食堂へ戻る途中、グレイがそう言えば、スファルはにやりと笑った。
「ふん。誇り高い、と言え。誇り高きオーガは、自分の仲間を守るもんだ」
「……そりゃどうも」
確かに、随分と荒っぽい『オーガ式』のやり方ではあったが、有効なやり方ではあっただろう。グレイはひとまず、このコルザの町ではそうそう襲われずに済みそうである。
「……そうだ。誇り高きオーガは、自分の仲間を、守る」
また、スファルとしても、何か吹っ切れるきっかけになったのかもしれない。
「よぉし……腑抜けてられねえな」
スファルは笑って、何かを振り切るかの如く、ふん、と息を吐き出した。
「親父とダハブに会うのが楽しみになってきたぜ」
「そうか。ならよかったな」
……明日のことは、心配である。
だが、グレイもほんの少しばかり、その心配の中に『楽しみ』が混ざってきたような、そんな気がした。
そうして、食堂での賑やかな食事は夜半まで続いた。
その後、グレイ達はスファルの馴染みの者がやっているという宿へ向かい、そこでぐっすりと眠って……。
「親父!親父は居るか!」
翌朝。コルザの町で最も大きく立派な屋敷のドアが、バン、と乱暴に開かれ、玄関ホールにスファルの声が響き渡った。
玄関ホールに居た使用人がどよめく中、スファルは堂々とホールの中央まで進み出て……そこで、階段の上から姿を現したオーガへと、緊張気味の顔を向けた。
「……スファル・トゥルバが戻ったぞ!」
……スファルの父もまた、緊張気味の顔で、スファルを見ていた。




