23話:ジャンク・ヤード*1
「……ということで、その、あんたの体だが、とりあえずメカニジア跡地に行って、使えそうな部品を探してくる」
『えっ!?』
……そうしてグレイは、例の機械にそう報告して……驚かれていた。
話は少々、遡る。
グレイ達は『どうする?どうする?』と皆で額を突き合わせて相談し……結果、『エメディアの人形にあの機械の中身を入れてしまうと、何かと問題があると思う』という結論に至った。
そもそも、グレイ達の独断であの人形を動かすことはできない。あれを動かすならば、ローザテイルとディアナバレイの合意が無ければならないだろう。まあ、ディアナバレイ側の意思など、エメディアの言葉1つで動きそうだが……ディアナバレイ側はともかく、ローザテイル側の意見は統一すべきである。
となると、時間がかかる。また、ローザテイル国王の立場からしてみれば、『エメディア姫とそっくりな見た目で、エメディア姫本人を名乗る機械』が生まれてしまうことは避けたいであろうと考えられ、また、エメディア自身としても、『嫌な予感しかしないもの』とのことであるので……。
……そうして、『とりあえず自由に動ける体が欲しいということならば、仮拵えでもよいのではないか?メカニジア兵の残骸を拾ってきて使えばよかろう』とアイオンが提案してきたため、皆で『じゃあ、それで……』と賛同することになったのであった。
『ええと、つまり、機械の体を探してくれる、っていうこと、なのかしら?』
「……まあ、そういうことになるか」
グレイは例の機械相手に何とも言えない気分になりつつ、一応、そう答えた。
『ありがとう、アッシュ!その体があれば、私、アッシュともっと自由に話せるようになるのね!?ああ、勿論、あなたの手伝いもするわ。世界を守るために頑張るつもり。けれど今、一番嬉しいのはあなたともっと沢山お喋りできるようになることなの』
が、グレイの考えなど知らず、例の機械がそんなことを書いては喜んでいるのを見て、グレイは只々、胸が痛い。本当に、やりづらい相手である。
「……まあ、そういうことで、しばらく空けることになるから、それを伝えに来たんだ」
『体を探しには、アッシュが行くの?』
「ああ。仲間達と一緒に行ってくる」
ひとまず、この機械は『エメディアにそっくりな体でなければ嫌!』と文句を言う訳ではなかったので、これでひとまず、よしとするしかない。
機械の体として使えそうなものを探してくるのは面倒だが、それでも、本物のエメディアの安全には代えられないことである。
『どうか気を付けてね』
「……ありがとう」
……どうも、機械に気遣われるというのも、やはり居心地が悪い。機械の言葉を嬉しく思ってしまっている自分が見えてしまって、どうにも。
そうしてその日の内に、グレイ達はそろって王城へと戻った。ジョードは『もう来ないでくれと言いてえが、また来るんだな……』と諦めた顔をしていた。エメディアが『またよろしくね、ジョードさん!』とにこにこ言えば、文句も言えないらしかったが。
グレイはまた、ドラゴンの姿のルイナに運ばれることになった。最早、餌扱いも慣れたものである。ドラゴンに柔らかく噛まれながら空を飛ぶ感覚にも、もう慣れた。慣れたことにした。……自分達の下で『あれは何だ!?』と騒がれることについては、まだ、慣れないが。
「おお……凄まじい帰還の仕方をしたものだな、エメディア……。王城内でも噂になっているぞ、ドラゴンが人を咥えてエメディア離宮へ着陸した、と……」
「ええ、そうなのよお父様。本当にね、私もどうかと思ってはいるのよ、これ」
……そうして、ルイナに乗ったエメディアとルイナに咥えられたグレイは、エメディア離宮へ一度降り立って、そしてそこでスファルとアイオンと合流してから、王と王子に面会を申し入れた。
「グレイ……その、貴殿はそれでいいのか?」
「……何も文句はない」
「そ、そうか。気丈なことだ……」
……王もアンドレア王子も、『人間を咥えたドラゴンが飛んできた』ということについて、言いたいことがあるようであったが、何を言ったらよいのかは分からない様子であった。それはそうだろう。こんなこと、他に例があるでもないので!
「それで、ドラゴンは置いておくとしてね、お父様、お兄様。分かったことがあったから報告に来たのだけれど……」
「よし、聞こう。うむ、それがいい。人払いは必要か?」
「そうね。今は私とお父様とお兄様だけで留めておいた方がよさそう」
……が、今はドラゴン騒ぎをさて置いて、こちらの報告が先決である。早速、王が人払いをし、そうしてエメディアから、例の機械の話が報告されることになったのであった。
「そうか、そんなことが……」
一通り、報告が終わった後、国王もアンドレア王子も、顔を見合わせて困り顔になってしまった。
「ええ。そうなの。でも『封印』なんて、聞いたことないでしょう?」
エメディアも『そうなのよ。困るのよ』という顔で、国王とアンドレア王子とに話していたが……。
「……実は、無くもない」
「えっ!?えっ、お、お父様!?そうなの!?」
なんと。国王には何か、心当たりがあるらしい。グレイは当然だが、それより遥かに、エメディアが驚いている!
「いや、記憶の片隅にそれらしいものがあった気がする、くらいの引っかかり方をしているだけでな……うーん、少し待て。恐らく、書庫のアレだと思うのでな……」
……そうして、国王は一度、離席してしまった。本か何かを調べてくるようである。
「……これで本当に、お父様の『心当たり』があったらどうしましょう」
「どうも何も……調査するしか、ないのだろうが……」
エメディアとアンドレア王子は顔を見合わせて、途方に暮れたような顔をしている。グレイは、他人事ながら『王族っていうのは本当に大変だよな』と思った。
「しかし……それで、例の機械に体を与える、と?」
「ええ。メカニジア兵の破損が少ないものを探して持ち帰って、それに手を加えればいけそうだ、っていうことなのよ」
王が調べ物をしている間、エメディアはアンドレア王子と2人で話しておくことにしたらしい。つくづく、この2人の仲が戻って本当によかった、とグレイは心の底から嬉しく思う。
「……多分、例の機械は、私そっくりの人形を欲しがっているのだと思うのだけれど」
「……そうであろうな。しかし、そういう訳にはいかん。お前は王女だ。王女の偽物を生み出すことは許容できない」
「そうよね……。私もそう思うわ。私個人としても嫌だし、国としても、嫌というか、困るわよ。そんなの」
エメディアは少々怒って見せつつ、『困るわ!』とやっている。……そんなエメディアを気遣ったらしいウサミミが、そっとエメディアの手の上にやってきて、収まった。
……エメディアはひとまず、ウサミミを揉むことにしたらしい。ウサミミは大人しく揉まれている。そうしていると、アンドレア王子の手も伸びてきて、そっと、ウサミミの耳の端をふにふにやり始めた。ウサミミは大人しく……それでいてどこか誇らしげに揉まれている!
「まあ、そういうことなら仕方あるまい。お前そっくりな偽物ができるくらいなら、メカニジア跡地を探索することになるのも、まあ、仕方ないだろうな……」
「そうね。まあ、幸い、こちらにはアイオンが居るから。メカニジアのことなら彼がある程度分かるし……」
「そうか。シルヴァスター卿、エメディアを導いてやってくれ」
「勿論。全力を尽くすと誓おう!素早く目的のものを回収して帰還するとも。まあ、楽しみに待っていてくれたまえ!」
アイオンは『失われた伝説の調査!』と心躍らせている様子であり、なんとも上機嫌だ。この中で唯一、ひたすら元気であるので、アイオンを見ているとつられて少しばかり、元気になれるような気がする。
「しかし……例の機械に体を与えるとなると、視界も手に入れてしまうことになるのか。奴は本物のエメディア姫を見て、どんな反応をすることやら……」
……だが、アイオンが発した言葉によって、グレイ達の元気はまた一気に消し飛んだ。
「……向こうが本物であることを主張してきたらどうしましょう」
「奴に、奴が機械であることを理解させなければなりませんね……」
「言って分かるものかしら。ああ……しかもその説明って、多分、グレイにまたお任せすることになる訳でしょう?ごめんね、グレイ……」
「……いや、まあ、やってやれないことは無い、と、思う……」
またしても浮上してきた厄介ごとに頭を痛めつつ、グレイは『偽物のエメディア』に、『あんたは実は偽物で、人間じゃないんだ』ということをどう伝えるべきか、あれこれ考えてみるのだった……。
「あったぞ。この本だ。この本の一節に、『災厄』のことが記してある」
そうして少し待つと、国王がせかせかと戻ってきた。その手には分厚い、古びた本がある。
「……随分古い本ね。お父様、よく、こんな本のこんな一節を覚えてらっしゃったものだわ……」
「昔から本は好きだったからな。ふふふ……」
国王はそんなことを言いつつ本を開き、あるページのある部分を指で示した。
「して、この一節だ。ほら」
本を皆で一斉に覗き込むわけにもいかない。グレイが遠慮して少し離れていると、気を利かせたエメディアが早速、音読してくれた。
「ええと……じゃあ、読むわね。『大地を捻じ曲げ、幾多の魔物が溢れ、そして大地を覆い尽くさんとした時、その源を聖女が封じ、その地を封印の地とした。封印の楔を守る地下神殿が建てられた』……ですって」
エメディアはそう読み上げてから、少し黙って……そして、国王に怪訝な顔を向けた。
「……聞いたこと無いわよ、これ」
「そうであろうな。随分昔の研究で『過去の創作であろう』とされた内容だと聞いている。聖女とやらが何か功績を成したのであれば記録が残っていてもよさそうなものだが、その記録は無い。そして封印の地として言い伝えられているものも無いのでな」
国王もまた、何とも言えない顔でそんなことを言って頷く。
「だが、地下神殿、封印、聖女……となると、これくらいしか無い。いよいよ、例の機械が言っているということも、アンドレアの従者の義肢から出てきたという言葉も、不可解だが……」
「うーん……そうよねえ。でも調査しない訳にはいかないし……」
国王もエメディアも、唸りつつしばらく天井を見つめていたが、何か結論が出る訳でもない。その結論を出すための調査がこれから行われる、というところなのだから。
「……エメディア。ひとまず、これが全て罠だったとしても問題無いように動くんだぞ」
「ええ、分かってるわ、お兄様」
結局のところ、そんなところで話は終わってしまった。
後は……メカニジア跡地からメカニジア兵の残骸でも拾ってきて、それに、例の機械の中身を移して……そして、色々と聞きたいことを聞き続けるしか無いだろう。
それがあの機械の罠だったとしても、罠に掛かれば何か、見えるものがあるはずだ。グレイはそう思いつつ……『罠でなければいいな』とも、思うのだった。
どう考えても、災厄だの封印だの、それら全てが嘘であってくれた方が、都合がいいのに。それでも。
「……成程な。理屈は、分かった」
その後。メカニジア兵の残骸、それもできるだけ状態のよいものを手に入れよう、という話になったところで、旅程を相談していた一行の中、スファルが只々、渋い顔をしていた。
「確かに、時間は掛けられねえ。んで、メカニジア国内に機械の兵士がちゃんと残ってるかどうかは、アテがねえ……」
「その通りだ。何せ、あの爆発だったのだ。何もかもが消し飛んでいてもおかしくはない。そしてそもそも、アンドレア王子の調査によれば、メカニジア城跡地は最早ただの荒れ野だというからな」
アイオンの言葉が添えられたが、やはり、スファルは渋い顔をしている。
……それもそのはずである。
「いや、だからって……コルザに、行くのか……?」
「……君の父上の館に、私が引き連れていったメカニジア兵の残骸が残っている可能性が高いからな」
そう。
スファルの実家へ、向かうことになりそうなので。




