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それでも、最強の盾であれ  作者: もちもち物質
第三章:不死の魂
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22話:差し伸べられる手*6

「グレイに負担をかけてるわよね」

 エメディアはそう言って、ふう、とため息を吐いた。

 グレイとスファルが、例の機械と会話しに行って、四半刻。エメディアは、アイオンとルイナ、そしてジョードと共に、落ち着かない気持ちで食堂の卓を囲んでいる。

「まあ、グレイは人と接するのがそう得意な性質ではないようだからな。スファルも言っていたが……」

 アイオンの話を聞いて、エメディアは益々、暗い気持ちになってきた。

 ……最近、グレイには負担ばかりかけている。


 盾役としてのグレイのことを、頼りにしている。だがそれと同時に、真面目で純朴で、いじらしくすらある人柄そのものにも、エメディアは好感を覚えている。それこそ、兄王子であるアンドレアとグレイの取り合いをするくらいには。

 ……そんな人柄のグレイであるから、彼が恩恵のことでずっと生き方を制限されてきたことを苦しく思うし、そんな彼が恩恵のせいで不得意としていることを強いているのを申し訳なく思う。

 ましてや、人ではなく、人を模した機械とのやり取りだ。

 ……グレイとしては、思うところが存分にあるだろう。何せ、機械には恩恵が影響しないのだから。

「そうだな、グレイには何より、人に嫌われるようなことをする、ということ自体に強い忌避感があるように見える」

「人に、嫌われるようなこと……」

「嘘を吐くだとか、人を騙すだとか、裏切るだとか……そういうことではないか?騎士道精神に通ずるものがあるが、彼の場合は信念というよりは、本能に近いように見えるな」

 アイオンがそう言うのを聞いて、エメディアはグレイの行動のあれこれを思い出す。

 グレイは基本的に、やられたらやられっぱなしである。町で理不尽に石を投げられたとしても、それを払って、黙って立っている。

 どうしようもなく絡まれた時には相手を伸しているが。そうなるまでは、泥を投げられても石を投げられても、少し困った顔をして立っているだけだ。

 ……そんなグレイに、機械とはいえ、感情らしいものをみせてくる、人間らしいものを騙して情報を手に入れるようなことをさせている。


「少し、意外でした。グレイ・シンダーは、初めて戦った時、あまり……その、こういう面が不器用なようには、見えなかったので」

 一方で、ルイナは少し不思議そうな顔をしている。

 ルイナがグレイと模擬戦をしてみたことは、記憶に新しい。あの時、ルイナの曲芸めいた弓の技を見て、エメディアは大層驚いたが……あの時のグレイの盾役としての立ち回りも、凄まじいものであった。エメディアはすっかり、グレイの盾役に慣れてきてしまってはいるが……。

「確かに、そうよね。グレイ、盾役をやる時は相手に結構……口の悪いこと、言うものねえ」

 だが、思い起こしてみれば、そうなのだ。敵に『嫌われよう』とする盾役グレイの言動は、ルイナの言う通り、それなりに器用にやってのけているように見えるのだが……。

「敵だと割り切れるならば問題無いのではないかな?逆に言えば、味方だと思ってしまった相手に対しては不義理を働けないのかもしれない。まあ、盾役としては非常に誠実だと言えるだろうな」

 アイオンがそう言うのを聞いて、ルイナは腑に落ちたような顔をした。

「……確かに、私への警戒がいきなり緩んだ時がありましたね」

「ああ……ルイナは最初、『敵』だと思われてたのよね」

「実際、その通りでした。むしろ、今、警戒されていない理由が分からない程です」

 ルイナとしては、一時期敵であり、そして味方になった、という経緯があるだけに、実感が強いのだろう。エメディアも、グレイのルイナへの態度を思い出してみて納得する。確かにグレイは、敵だと思った相手には警戒を欠かさないが、一度、そうではないと思った相手には……甘い。恐らく。かなり。


「ジョード老の見立てはどうかな?グレイ・シンダーという男は、どのような人物に見える?」

 エメディアがグレイのあれこれに思いを馳せていると、ふと、アイオンがジョードへ話を振った。

 今まで黙ってエメディア達3人の話を聞いていたジョードは、ふう、と1つため息を吐くと、顔を顰める。

「……趣味の良い話じゃねえな」

「そうよね……ごめんなさい」

 ジョードの言葉を聞いて、エメディアは『その通りだわ!』と思う。グレイのいないところでグレイについてああだこうだと言い合うのは、趣味の良いことではない。本当に。

「いや、だがまあ、気持ちは分かる。……アイツに、アイツをこんなにも案じてくれる仲間ができるとは、思っていなかったがな……それができたっていうんなら、喜ばしいことだ。アイツもそう思ってんだろうよ」

 だがエメディアが落ち込んだのを見てか、ジョードはそんなことを言って1つ咳ばらいをして、それから、眉根を寄せた。

「……あんな恩恵がある割に、随分と真っ直ぐ育ったもんだと思ったがな」

 眉根を寄せた老ドワーフの表情は、岩の彫刻のようにも見える。そんな表情のまま、ジョードは、ちら、と、グレイとスファルが今、機械と話しているのであろう部屋のある方へ視線を向けた。

「警戒は強いが、それだけだ。自分の身は守るが、それだけ。……世界一の嫌われ者になってやろう、って気概はねえ」

「世界一の、嫌われ者……」

「どうせ嫌われるんだから、いくらでも嫌われるようなことをしてやろう、っていう風には、ならなかったらしい。つまらん奴だよ」

 ふん、と鼻を鳴らして、ジョードは腕組みした。ジョードからのグレイ評はここまで、ということらしい。


 ……エメディアは、ジョードの言葉を考えていた。

 グレイは、世界一の嫌われ者にだって、なれた。だが、そうならなかった。

 ……そう、なりたくないのだろう。グレイは。

 グレイはきっと、嫌われたくない。




 そうこうしている内に、アイオンが何やら話し始め、その妙に装飾が多いながらもそれなりに楽しい話を楽しみ、そうしながらグレイとスファルを待っていたところ……かたん、と物音がして、全員がそちらを見た。

 ……向こうの部屋でドアが開く音がして、足音が2人分近付いてきて……そして。

「あー、一応、成功したみたいだぜ」

 スファルが難しい顔でそう言いつつ、後ろに付いてきていたグレイの肩を叩く。

「おお、成功したか!流石だ、グレイ!今は君の功績を大いに讃えようではないか!」

 アイオンがそんなグレイを迎え入れると、グレイはスファル同様、難しい顔で卓に着いて……そして。

「……報告、になるんだが」

 グレイは、難しい顔のまま、言った。

「どうやら、世界の危機らしい」


 +


「え?」

「世界の危機、らしい」

 ……グレイは、自分で言っておきながら、『俺は一体何を言っているんだ』という気分になってきた。

 だが仕方がない。例の機械が、そう言っていたのだから。

『世界の危機だ』と。

 ……『災厄の封印が解け、世界に溢れる』と、言っていたのだから。




「……ということで、話をまとめると、どうも、例の機械は『メカニジアは災厄の封印が解ける前に災厄を討つことを目的にしていた』と主張していることになる。ついでに、あの機械自身も、『世界を守るために協力してくれ』と言っている。そんなところだ」

「えええ……す、すごい話になってきちゃったわね……」

 グレイは一通り報告を終えて、そして、皆が絶句しているのを見て、『俺もそういう気分だ』と頷いた。……仲間が自分と同じ気分でいてくれることは、非常に嬉しいことだ。状況は嬉しくないが。

「え、ええと、ひとまずお父様とお兄様に報告……報告した方がいいわよね?」

「ええ、その方がよいかと。その『災厄』があの機械およびメカニジアの狂言であったとしても、何かあってからでは遅いでしょうし……ディアナバレイも含め、各国で対応にあたる必要があるかもしれませんから」

 ルイナとエメディアは頷き合って、『じゃあまずはローザテイル内で対応を協議して、それをディアナバレイに伝えるってことにしましょう』『そうしましょう』などと簡単に取り決めて……。

「して、その封印とは、どこに?」

 ……そこで、アイオンがそう、尋ねてきた。なので、グレイとスファルは、それぞれに渋い顔にならざるを得ない。

 というのも……。

「……例の機械が、それは喋らないんだ」

「は?」

 ……例の機械は、肝心なところはまだ、隠しておくつもりであるらしいので。




「あーあーあー、めんどくせえよなあ!……ったく、あの機械、こう言いやがったんだよ。ほら」

 スファルは何とも嫌そうな顔でそう言うと、卓の上に紙きれを放った。紙切れは卓の上をするんと滑っていき、アイオンがそれを受け止め……紙の上の文字を、エメディアとルイナも覗き込む。

 そこには、あの機械が書いた文字が並んでいた。

『アッシュのことは信じてるわ。でも、あなたが誰かに利用されていないかは、分からないことだし……それを信じ切ることはできない。だから、それを確かめさせて。災厄の封印を解こうとしているのではなくて、災厄を討とうとしているのだと、確かめたいの』

 エメディアの書く文字によく似たそれは、そう続いて……そして。

『だから、私に体を頂戴』

 そう、締め括られている。


「……体、か。ふむ……これは……」

「……あのエメディアの人形って、今、どこにあんだっけか」

「ディアナバレイの城ですね。きちんと保管されていれば、ですが」

「流石にそれは大丈夫だと思いたいけれど……え?まさか、あの人形に、あの機械の中身を、移す、ってこと……?」

 皆が頭を抱え始めたのを見て、グレイはつい先ほど、機械相手に自分も絶句していたあの時間を思い出す。

 ……ついでに、機械が『アッシュは、やっぱり私のこと、まだ信じ切れないわよね』とどこか寂し気に書いて見せてきた時の胸の痛みも思い出しかけて、その記憶にはそっと、蓋をした。

「……あの機械は、ついでにこう主張してもいた。これだ」

 その代わりに、グレイが紙きれを卓上にそっと出す。


『地下神殿への扉の開け方は、私が知ってるわ。そしてあなた達は、私以外に扉を開けられる人を知らない。そういうことでしょう?』


「あああ……これは、困ったわね……」

「うーむ……何という……何という、交渉上手なレディだ……」

 ……そしてまた、全員で頭を抱え始めることになる。

 いよいよグレイ達は、酷い決断を迫られているようだ。

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― 新着の感想 ―
みんなグレイのことを甘いって言ってるけど、他のメンバーも相当甘いよね!
なんで最初からあのボディに入って無いん? 入るは入るけどついでにスナッチャーして増える計画?
なんかこう、機械のボディから出られないように封印できたら良いんだけど、現状では他人のボディ奪うヤベー存在なのがね
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