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君に送るワルツ  作者: 青木星
33/34

29話夏の悪戯

遅れてすみません!


瀬奈がニィッこりと微笑みながら

俺を見つめる。


「柚ちゃん、久しぶりだね〜!」


「一週間ぶりかな?久しぶり」


「春馬と一緒にいるようだけど

 お昼ご飯一緒に食べる?」


「「エ?」」


俺と柚はほぼ同時に瀬奈の発言に驚いてしまう。


あれ?意外と友好的だね


柚は思う。


あれ?余計怒らせたと思うんだが。


俺は思う。


「それは嬉しいな。じゃあお言葉に甘えて!」


「って!」


俺も柚のノリについていく。


その瞬間瀬奈から邪悪な笑みが一瞬だけ

俺に向いた気が…。


瀬奈は既に席についているので、

俺と柚はどちらに座るか悩んだ。


悩んだ末、柚は瀬奈の前の席に座り、

俺は瀬奈の隣に座ることにした。


席に座り、ホッとしていたのも束の間、

右足に強烈な痛みがはしる。


柚には見えないだろうが

完全に瀬奈に足をぐりぐりと強くふまれている。


俺はゾッとして瀬奈を見る。


パチっと手と手を合わせ瀬奈は何かを思い出したように

口角が上がる。


瀬奈は変わらず笑顔で言う。


「優しい春馬くんが私の分今日奢ってくれるみたい!

 だから柚ちゃんも奢ってもらいなよ!」


「それは…!!」


ぐりぐりぐり。


先ほどより強く足を踏まれる。


「う、うん!い、いいよ全然!」


俺は柚に助けてと表情で伝えたが

効果はなかったようだ。


「私、いろいろ買いすぎて4月分のお金

 もうあんまり無いから助かるよ!

 さすが春馬ぁっ」


くそっ。

奢ればいいんだろ奢れば。


「ハハハハハっ」


「私はカツ丼!柚ちゃんは?」


「私はドリアでいいかな。

 後半熟卵トッピングで!」


俺は二人に行ってらっしゃーいと手を振られ

受付のおばちゃんのところに

とぼとぼと歩く。



「瀬奈って初めて会った時と印象が違うね。」


「そうかな?」


「うん。」


「もしかしたら春馬といる時はなんか自分でも

 オープンでいられるんだ。

 だからいつもと印象が違うのかも、フフフ」


「そっかぁ。

 もしかして春馬のこと狙ってる?」


柚はストレートに聞く。


瀬奈は少し驚いた顔をしつつ、

少し照れながら


「うん。とっても狙ってるよ、フフフ」


やっぱ、と柚にとっては予想通りの答えが返ってきた。


柚は角度を変えてみる。


それにしてもまだ4月だし

好きになるのにはまだ早すぎないと思っていたのだ。


「いつから春馬の事が好きになったの?」


ますます瀬奈は顔を赤らめながら、

手をうちわにして顔に風を送る。


「ここだけの秘密だよ?」


柚は、ごぐりっと息を呑みうなづく。


「実はね、春馬とは幼い頃に何回か会っているんだ。

 だから向こうは私を覚えていなかったけど

 私は試験の時彼だって思って距離を縮めようと

 頑張って彼のそばにいたの。」


その事に柚は納得する。


最初は試験が終わった後

淳や悟や亜美が春馬に近づいていたのは分かるが

どうにもおとなしめな子が春馬に積極的なんだろうと

私は思っていた。


「いつ会ったの?」


「私はね、生まれつき治癒士でも治すのに

 何年もかかってしまうといわれた呪いを持ってい

 たの。


 その呪いで私は身体中に紫色のあざがあって

 ね。それで入院していたんだ。病院では

 会う人会う人に煙たがれて嫌われていたの。


 私の唯一の支えが両親だった。

 こんな私でも見捨てずに毎日お見舞いに来てくれた。


 そして8歳の時、私の隣の部屋にある男の子が

 入院する事になったって聞いた私は

 その子に見つからないようにいつも警戒してたり

 したの。

 だって、これ以上汚物を見る目で他の人に

 見られたく無いから。


 あの時は夏だったかな。


 夏のお日様が部屋を明るくして、

 暖かい風でカーテンが揺れた時に彼と目があったん

 だ。


 彼は私を見た時に泣き出したんだ。

 私は訳がわからなかった。


 見るからに身体中包帯まみれで

 明るそうな少年に蔑まれるわけでもなく、

 憐れまれるわけでもなく、

 笑われるわけでもなく、

 

 お母さんと同じように私を見て泣いたんだ。


 夏の風はどこか無責任なんだ。


 一瞬だけカーテンが開くのはわかるけど

 それが30秒くらいひらひらと開いていたんだ。


 私は顔を隠した。

 顔を隠しても無駄だった。

 手もあざだらけだったから。


 泣いていた彼は私の元に来た。

 でも、私は彼を拒む勇気さえ持っていなかった。


 彼がカーテンをくぐり入ってきた。


 「辛いよね。僕よりも何倍も。」


 彼を見ると、目下には子供にはありえないほどの

 クマがあった。

 彼の涙は腕に巻かれていた包帯に吸収

 されていった。


 私は初めて怒りという感情を知った。


 何で私の気持ちがわかったつもりでいるんだと。


 だから私は何も喋らなかった。


 そんな彼は私を見て何かを思い出した

 ようにポッケを探る。


 『これ食べて笑ってね!

  美味しいから!』


 彼はこの季節には相応しく無い

 チョコレートをくれた。


 私はそれでも受け取るだけで喋らなかった。


 『君が笑って喋ってくれるまで

  僕毎日ここにくるからね!』


 少年は動かすと痛いであろう腕を動かして

 大きく手を振って風に流れるように

 部屋からいなくなってしまった。

 

 私は驚く。


 彼に合わせて右手を振っていたのを知って。


 それから私はチリンチリンと音を立てる風鈴を

 眺めながらドロドロのチョコレートを食べた。


 ドロドロな見た目が嫌いだったが

 味はほんのりミルキーで甘かったんだ。


 彼が部屋から出ていく時、

 春馬くん!と治癒士さんが叱っていたのを聞いて

 彼の名前を知れて何故かうれしいきぶんに

 浸っていたんだ。


 それから本当に次の日も彼が来た。

 彼は父親のような人の愚痴を私に

 毎日聞かせてくれたんだ。


 それから何日もたち、私は笑うようになった。


 そんな私を見て、春馬はニシシと

 笑った。


 その時風が彼から私だけに向かって

 来るような気がしたんだ。


 それは暖かくてどこまでも私を照らして

 温もりのある。

 

 入道雲のような安心感。


 それから春馬とお昼に治癒士がくれるバニラアイス

 を二人で食べていたりしたこともあった。

 

 春馬は本当に食べるのが下手で

 毎日口の周りにバニラをつけていた。

 

 そんな彼を見て初めて私は親以外の人に

 しゃべったの。


『春馬くんって子供みたい、フフフ。

 自分で拭けないだろうから、ちょっと動かな

 いでね?』


 それからふきふきして彼は嬉しそうに言う。


『やっとしゃべってくれた!

 綺麗な声だね!』


 私は春馬が笑い、身体がドキドキとする。

 そんな神様がいたずらを運んでくるミルキーで甘い

 この匂いが夏の匂いだって感じたの。


 フフ、ちょっとおかしいよね。


 それから彼は退院していったの。


 その後に治癒士から彼が書いた手紙をもらったの。


 『 僕がついているから安心して!

   悲しい時は僕を思い出して!

   いつだってねーちゃんの味方だよ!

   ねーちゃんの名前は教えてもらえなかった

   けどいつかまた会えるといいな!

   最後にこれを届けます。

   2個しかなかったのを二つとも君に送る事

   にしたよ!

   

   まえだはるま          

                     』


 袋の中には手紙とチョコレートが二つ入っていた。


 やっぱりチョコレートは二つともドロドロしていて

 あの時は思わず笑みを浮かべちゃったよ。

 でもその後、私はそのチョコレートを食べながら

 夏に相応しく無いほどの涙を流したんだ。


 それで呪いも治って女の子らしくなった私は

 この学園の試験を受けたときに彼がいたの。


 …長くなっちゃったけどごめんね柚ちゃん」


「うっ!うっ!そんな事があったなんて!」


「えー!嘘!なんかごめんね泣かせちゃって」


柚は瀬奈の話を聞いて号泣していた。


柚が泣き、瀬奈が心配している。


一体俺がいなくなった間に何があったんだ?


俺は訳の分からない事に困惑しながら

食べ物を机に運ぶ。


「どうしたの柚?」


「あぁ!カツ丼だ!いただきます!」


瀬奈は食べ物がくるやいなら目を宝石のように

輝かせる。


柚も泣き止んだのか、半熟卵をナイフで一刀両断する。


「「「ありがとうございます」」」


瀬奈め、美味しそうに食べてやがる。


俺は、するりとうどんを啜る。


食べていると後ろから俺の肩をぽんぽんと叩かれる。


口に入れたうどんを噛んで飲み込んだ後、

後ろを振り向く。


そこには邪悪な笑みを浮かべた

淳と悟がいた。



 

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