表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に送るワルツ  作者: 青木星
34/34

30話愛歌

シャトルラン大嫌いな作者です。



俺たちは昼ご飯を終えて、瀬奈は急用ができたと言って

突風の如く食堂から出ていった。


残された俺と柚の間に微量のきまずさが

お互いの口にチャックをさせていた。


俺は気まずい空気が嫌いなので

すぐさま喋りかけようとそれを開ける。


「せっかく二人になったんだし

 一緒にアキラのところに行こ?」


先ほどまであれほど積極的だったのが

どこかいつもの柚らしくない。


いつものといっても

まだ柚と会った回数も少ないが

昨日の一件で妙に俺と柚の間の距離が

一年間一緒にいたような友達くらいに

短くなっていた。


「卯月に涙は流したくないかな」


透き通るようにスゥッと伸びる手の先で

俺のお腹に何かをなぞるように触る。


どこかくすぐったくてどこかひんやりとしている。


「もう流してたじゃん」


「バレた?」


昨日と今日で柚の周りにまとわりついていた

どす黒い霧は消えていたが

まだ完全に消えたわけではない。


根本に眠る真紅の鎖のようなものが

心臓にまだなおまとわりついているような気がした。


「大丈夫。俺がいるから。」


「んーん、」


柚は俺の制服のボタンとボタンの間に手を入れた。

彼女の少し冷たい体温と若干の震えが伝わる。


俺の身体は銭湯に入っていたかのように

暖かく、彼女の手先を温めていく。


彼女の震えがおさまっていく。


全力疾走をした後に呼吸が落ち着いていくように。


それに反比例し俺は大きく左右に振れていた

メトロノームの揺れ幅が短くなるように

ドクンドクンが早くなっていった。


俺の振動を直接肌に触り感じたのか

悪戯に柚はくすぐるようにあちらこちらに手先で

腹の皮膚を優しく刺激する。


それにしても最初はそっけない感じの人かと

思っていたが話してみると印象とだいぶかけ離れて

いたなと感じる。


少しでも俺は彼女の傷口を塞いであげられたのだろう。


それでも傷口の中に土などが入っていれば

それはなおさら大変になりうる。


だからこそ、だ。


秋良はいつも通り仮眠室にいるだろう。


しかし、秋良はまだ進之介とご飯を

学食にいた。


というより、オルガ、カルミアもあわせての

4人で食べていた。


俺はこれがチャンスだと思い、

柚を置いてとりあいず秋良たちの元へ行く。


柚にお腹を撫でられていた時はどこか

気持ちよさのような不思議な感覚を覚えていた。


もう少しこのままでいたいと感じつつも

抱いてはいけない感情を正義感情で押し殺す。


「ちょっとここで待ってて。」


「どこにいくの?」


「秋良を連れてくるよ。」


「…、わかった。」


おさまった震えが再び起動します。

そんな彼女を早く呪縛から解放させてあげたかった。


柚を安心させるために頭を撫でようとした。

だが、その時瀬奈の笑顔が脳裏に浮かぶ。

結果として俺は柚に何もせずにただ笑顔で

頷いて秋良達のいる方へ向かった。


そんな春馬の背中を柚は不満げに見ていた。


俺は秋良達のいる机まで行っている途中、

何やら盛り上がっているのだろうと

先ほどもだが傍目から見て感じた。


そんな中、秋良を引っこ抜くのに

俺はわずかな抵抗と不安を抱いたが

やむなしと思い、

少し重くなった足を一歩一歩着実に

前に向かって踏む。


「秋良、ちょっといい?」


「おぉ、春か。いいぞ」


二人には普通に歓迎され、

一人には気まずそうだが歓迎され、

一人には明らかに敵意を剥き出しにされ歓迎されていない。


ウィー、と軽く敵視をスルーする。


俺は秋良を引っこ抜き、柚のもとへ向かう。


道中にどうした?と秋良にきかれたが

秋良は何かを察したのか押し黙る。


数十秒たち、柚のところに着く。


秋良を見た時に柚は明らかに挙動不審に

なっていた。


がんばれと心の中で俺は叫ぶ。


叫ぶ。


叫ぶ。


君の勇気の一歩を言葉に出せなくて苦しむ

喘ぎ声のように叫ぶ。


「あ、あの。」


柚は秋良の目を見て喋る。


「ん?」


秋良はどこか嬉しそうにいう。


「幼い時、

 本当に迷惑をかけてごめんなさい。

 春馬に一番迷惑をかけたし

 これからも反省するして生きていきます。

 だから、‥。だから

 これからはよろしくお願いします。」


文がおかしくなっているが

伝わったて欲しかったところは無事伝わっただろう。


俺は安堵し、秋良を見る。


秋良はどこか仏のような顔をして

ん。と返事をした。


秋良は、ん。と

そっけないように言って進之介達のところに

戻っていった。


もうちょっということがあるんじゃないかと

俺は秋良に少し思ったが

どこか秋良らしいと鼻から笑ってしまった。


秋良がいなくなり、柚は俺に飛びつく。


花弁に包まれるように俺は胸の元へ飛びついた

柚を優しく包み込んだ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ