ブレーン開発研究所財団
第七章 ブレーン開発研究所財団 緒方 顕
翌日、俺は佐伯へ連絡を入れた。
脳みそ交換のこと、それから身に起きたすべてのことを、そして、研究所へ行く決心をしたことを話した。
「分かりました、今から迎えに行きます」
まもなく「都築さんのお店の前まで来ました」とラインが来た。店の前の通りへでると佐伯は誰かに連絡をしていた。電話を切って「今迎えの車を呼びましたから」と言った。
水曜日の午後三時、秋晴れの高い空、白い雲が眩しかった。
「都築さん、眩しいでしょう、これをかけてください」と彼は俺にサングラスを渡してくれた。迎えの車が来た。
「無人の車なんです」と佐伯が言う。
ドアが開き佐伯に勧められ先に乗り込む、隣に佐伯が座ると音もなくドアが閉まり車は動き出した。俺は車内が暗いのでサングラスを外そうとした。
「すみません、都築さん、そのサングラスは到着するまで、そのままかけていてくださいますか」
急に睡魔が襲ってきた、思考も途切れがちになり隣で話す佐伯の声がだんだん遠ざかって行った。
「都築さん、到着しましたよ」
佐伯の声で俺は目を覚ました。
俺の側の窓が下がり、一人の男性が声をかけてきた。
「ブレーン開発研究所財団の緒方と申します。都築さんがいらっしゃるのを、ずっとお待ちしておりました」と言って緒方はドアを開けてくれた。
車から降りて改めて挨拶を交わす。緒方から握手を求めてきた。降りた場所は、窓らしきものは見当たらない、壁も床もそして緒方のスーツもすべて白一色だった。ポンと部屋に音が響いた、同時に見たことのない文字なのか数字のようなランプが点いた。
「さぁ着きましたよ」緒方はこういって左手を開き始めたドアの方へ示した。
部屋ごと移動していたのか、動いていることさえ気が付かなかった。
「ここのフロアは都築さん専用のフロアです。控室や仮眠室シャワールームなど必要なものはすべてございます。また足りないものは遠慮なさらずに私にお伝えください」と緒方は言った。少し間を置いてから
「今から動画をお見せ致します、どうぞ、その椅子へおかけになって」そういうと緒方はドアノブのないドアを開けて、
「私は隣の部屋におります、何かあったらお呼びください」と姿を消した。
椅子に腰かけるとひじ掛けからコーヒーの入ったカップがせり上がってきた。ほーと関心していると部屋の照明が暗くなり、前面の壁が大きなモニター画面に変わった。フェイドインして始まった。
生まれた時、小学校の運動会でのビリっけつの様子、文化祭の初舞台、中川徹の死、甘山公会堂での本選の例のパフォーマンス、親父が命に変えて守った俺のギター、マミーレコードで最初の担当の筒井プロデューサーと握手を交わしているところ、津川プロデューサーへ辞表を叩きつけたところ、郵便局のバイト、下水管の工事の交通整理、そして、ライブハウスのオーナー祥太郎さんとの出会い、ライブハウスで歌っている姿、佐伯との出会い、デルタ型UFOとの遭遇、脳みそ交換、と今までのありとあらゆる出来事が目の前で再現されている。
「本当に最初から見ていたんだ、分かった、信用するよ」と誰に言う訳でもなく声に出していた。
部屋の照明が元に戻り、モニター画面も白い壁に戻った時、緒方が音もなく部屋へ入ってきた。
「ご覧のとおり、我々は都築さんを、ずっと見守ってきました。いろいろな方法で試してもみました」
「我々がお伝えしたいことは、その能力で分け隔てのない世界を構築して欲しいという事です」「そして残念なことに、地球人の中で私利私欲の人々へコンタクトをして同調している異星人達も存在しています」
「同じ地球外生命体としてとても恥ずべきことだと感じています」緒方はさらにこう続けた。「都築さんあなたの能力は平等な技術や製造を生み出すことを可能にします。そしてそれは、競争がなくなることを意味します」
「競争社会では勝つために、どんどん無秩序なことをやり出します」「また、負け組というレッテルを貼られた側は、やる気を失います。どうせダメなんだと、そうなるとますます負のスパイラルから抜け出せなくなります」
「では競争がなくなると、どうなるのか。簡単に言うと働き方が変わります。残業もなくなります、職種によっては毎日、出社することもありません。ミーティングもリモートでできます。殆どの仕事は家にいながらテレワークで可能です」「これは皮肉にも、未だに終息をみせないチェスナットウィルスへの対策で、出社をせずともリモートミーティングなどで対応できることで実証されました」
それからと緒方は続ける
「競争をする構図は悲しいことに、義務教育の一斉授業の中で生まれてしまいます。
一緒に同じことをさせる、そのやり方を今我々が、この国の地球人が変えなければなりません。我々と共に行動しませんか?」俺は返す言葉を探したが見つけられない。
「今、都築さんは、俺一人だけがやっても意味がないと思ったかもしれません」
「しかし、やらないまま、ただ希望や愚痴をこぼしたところで明日は変わりません。行動しない限り何も変化は起きません、明日すぐに変化が起こるわけでもありません。ですが、今行動することで、十年先、五十年先、百年先と、人類が生きて行く限り受け継がれていきます」
「都築さんのように覚醒し行動を起こす人たちは、まだまだ地球人約七十七憶人の数パーセントの程しかいませんが、一人ではないことは間違いありません」
すこし間を置いて俺は、
「分かりました、やってみます。でも具体的にはどんなことをすれば良いのでしょうか」と緒方の目を見て言った。
「おぉ・・・ありがとうございます」
俺は椅子から立ち上がり緒方と握手を交わした。
第八章 ブレーン開発研究所財団 緊急呼び出し
緊急呼出しされたのは研究所のシステムがハッキングにあったからだった。
いつもの部屋で待機していると緒方がやってきた。あの冷静な緒方が少し慌てた口調で
「都築さんの方で何か変わったことが起きていませんか?」と聞いてくる。
「特に変化はないです」と応える
「承知しました、念のためブレーンダウンロード検査をしてみましょう」そう言って緒方はいつもの部屋へ姿を消した。
ブレーンダウンロードする時には、ヘッドフォンのような装置を耳に当てる。だが耳にあたる部分はスピーカーではなくハニカム模様の浮き出た厚さが5ミリほどの円形のアルミ合金だ。その装置は必要な情報を直接脳内に送りそして、それを元に俺が脳内の柱に触って出来上がった設計図を読み込むこともする。
今回は検査なのでそれ用の単純な情報を送ってくるはずだ、緒方の声がスピーカーから聞こえた、
「では、始めます。用意はいいですか」
「いつでもいいです、お願いします」と俺は答える。制御室からのデータの送信中の時は壁の3つのグリーンランプが点燈する。ほどなく3つのグリーンランプが光った。意識を脳内へ集中させる・・・
どうしたことか、何もデータが見えてこない、「緒方さん、そちらから送っていますよね?」と聞いた。
「はい、届きませんか?」俺は両手で大きなバツを作った。
「では五ギガバイトに変換してもう一度」「どうですか?」
「何も見えてきません」と答えながらも少し不安になる。
「別の検査用データを送ります。初めて送るデータにしてみます。ひょっとしていつものデータだと学習していて、ダウンロード済として処理をしている可能性もありますので」
「了解しました。それでお願いします」
壁のグリーンランプが順番に3個点燈した。
しかし、やはり何も感じない。
「一度、休憩しましょう」そう告げると、俺のいる部屋へ入ってきた。
今までこんなことは一度もなかった。どうしたのだ、能力が枯れてしまったのか?次第に焦る気持ちが激しくなってきた。呼吸も早くなり脂汗も噴き出してきた。
「都築さん、ヘッドセットを外して、ここへおかけ下さい」緒方はいつもの冷静な声で俺に言った。震える手で装置を外し、震える脚を何とかこらえながら椅子に腰かけた。
緒方はうつむいて焦る俺の肩にそっと手を置き、「都築さん、実は、ほかのヒューマンデバイス達でも同様の事例が発生しているようなのです。だから先ずは落ち着いて下さい」
分厚いガラスの向うでは別のスタッフがタブレットを持ち寄り突き合わせて、険しい顔で会話を交わしている。そうなのか、俺だけじゃないのか?顔を上げた俺の視線がそう言っているのか、緒方は察したように、
「はい、都築さんだけではありません、おそらく今回のハッキングと関連があると我々は見ています」
こう言って緒方はオーダーしたカフェオレを俺の前へ置いてくれた。
一息ついた。どうやら呼吸も落ち着いてきた汗も引いたようだ。もう膝も腕も震えは治まった。
「もう一度、ゆっくりやってみましょう」
分厚いガラスの向こうの緒方の声がスピーカー越しに響いた。再び目を閉じて、深い呼吸をして、意識を脳の中心へ集中させたが、やはり結果は同じだった、全くの無反応だった。「都築さん、都築さんの身体の能力は問題ありませんむしろ以前よりも能力が向上しています」
「おそらくこの不具合は、この研究所のシステムをハッキングしてウィルスを潜り込ませたのが原因でしょう。今のところシステム内部までは侵されていないことが、確認されました」「ハッカーはオートモービルのプログラムから侵入したと思われます。現段階で把握しているのはここまでです」
「ですから新システムを作るまでの間、連絡を取る場合は、直接都築さんの脳へコンタクト致します」と続けて言った。
すべて終え廊下へ出た。俺を見送りながら緒方は
「オートモービルも使えませんので、これをおかけください」そう言ってサングラスを差し出した。
佐伯に連れられて、初めてここへ訪れた時と同じだなと俺は思った。サングラスをかけたのを見届けてから緒方は、じゃぁまた改めてと言って軽く握手を交わしたその途端、俺は眠りに落ちた。
目が覚めた時は、いつもの俺の部屋のソファーに横たわっていた。そうか、何があっても研究所の場所は明かさないわけだな。




