脳みそ交換
第五章 脳みそ交換
脳内の柱へ触れると設計図がわかる。
この能力が俺を研究所へ導いたわけだが、あのデルタ型飛行物体に遭遇したその日の深夜、眠っている頭の中へ直接
「脳みそ交換」と響いた。
「え、なんだって?、脳みそ交換?ちょっと待った」とあたりを見まわした。すると、
「大丈夫すぐ済むから・・・」有無を言わさず、どかどかと異星人七人ほどが、窓ガラスを通り抜けて部屋へ入ってきた。
その姿はいわゆるあのクレイタイプの顔立ちでシルバーのつなぎのような衣服を身に着けて輝いている。これがあのツールアスク星人なのだろうか?
恐怖感はない、視線だけは動かせるが、気が付くと俺の身体は身動きができなくなっていた。金縛り状態だが、意識ははっきりしている。そして頭の中で何やらカチャカチャと金属と金属が触れ合うような、例えるなら、ナイフとフォークが触れ合う音が響きだした。
頭の中を、いじられながら
「そう言えば、脳みそ交換をされると佐伯も言っていたな」と思い出した。
音はずっと響いている。時間にしてどのくらい経っているのだろうか。
「はい、オワリ」と突然今度も頭の中で聞こえた。肩をポンと叩かれ、身体が動かせる状態になった。身体を起こして部屋を見渡したが、その時にはもう異星人達の姿はどこにもなかった。
脳みそ交換したならどこかへ傷跡がついていないか寝室にある鏡を覗きこんだ。映った自分をみて思わず、ゲッと、のけぞった。傷跡どころの話ではない。右側の額から三角の真っ赤な布切れのようなモノが、はみ出しているではないか。
「お、おいおい、冗談じゃないぞ、ちゃんと始末しろよ」と俺は少し切れ気味に言って、そのままその切れ端を両手で頭の中へ素早く押し込んだ。
そこで、本当に目が覚めた。しばらく方針状態だった。起こったことを何度も思い返してみた、あまりにもリアルで夢を見たのだと自分を納得させる答えを見つけられないまま朝をむかえた。
第六章 覚醒
異星人から脳みそ交換をされてから、実に毎日のようにたくさんのモノが、身体の中へ入ってきた。
手始めが、眠りについてすぐ、何の前触れもなく、背中側が突然ポッカリとした空間のようになり、俺は宙に浮かんでいた。そこへ、銀色の西洋の棺の形をした箱が背中へ張り付こうと迫って来た。しかも箱には太い角のようなものが左右の側面から二本ずつ生えている。箱は宇宙船のドッキングのように静かに背後から張り付いて来た。角が刺さる!と思ったが、痛みはなくガチャリと音を響かせた後、背中へ吸い込まれていった。慌てて飛び起きて、鏡に背中を映してみた、傷も銀色の棺の姿もなかった。
その後、箱へはまるで定期便のようにモノが入ってくる。その時は決まって、背中側が突如、何もない空間になる。背中全体があの銀色の棺になり、蓋が開いて待機状態になる、そこへ、光の塊だったり、読み取れないほどの数字の列だったり、見たことのない文字だったりと目的は全く分からないが、とても、たくさんのモノ達が入ってくるようになった。
俺の意思とは関係なく一か月ほど、送り続けられ納まっていった。
このころから、あの水色と銀色との混色したチューブを落下する夢を見るようになった。あの、落下する感覚は嫌いではないのだが、徐々に加速されて行くと、このまま落ちて行ったなら地面に叩きつけられてしまう、という恐怖で、耐えられず目を開けてしまうのだった。
脳みそ交換から、一ヶ月ほど過ぎた十月のことだ。
またもや眠りについてすぐ、あのコスチュームを着たツールアスク星人たちが窓から入って来た。
「バッテリー交換」と言っている。
「え?バッテリー?」それは聞いてないぜ、と思った。
「すぐ終わるから」と彼らは前回と同じ事を言っている。
そうか、今まで脳みそ交換後のお試し期間だったのだ!と俺は納得してしまった。
彼らは、コイツは大丈夫、と判断して【永久電池】へ交換するために再度やってきたのだろう。
パチンと音が頭の中で響いた。交換が終わったようだ。目を開けたが、やはり彼らの姿は消えていた。
そんなことから五日後のある夜の事、いつもと違うアプローチでコンタクトされた。
「オーラだが、入るぞ」といきなり頭の中へ声が響いた
「え?オーラ」
その姿は金色に輝き俺の身体へ入ろうとしている
「いかにも、まぁ、そのまま、じっとしておれ」となぜか、古い言い回しだ。
するとそのオーラというエネルギーは、
俺の尻から、ズンズン、グイグイと入りだした。待ったなしの状態だ。身体全体へものすごく強い圧力が掛かった、だが五秒ほどで完全に俺の身体へ納まってしまった。
「これで、終わりだ 安心せい」
「何のために、俺の中へ?」と聞いてみた。
「今にわかる、お前とはいつも一緒だぞ」と言っている。
「いつも一緒?」と問いかける。
「そうじゃ 安心せい」そう言うと、オーラは俺の身体から存在を消した。
「待った、まだ聞きたいことが」と、問いかけても、もうオーラは何も応えなかった。
目がすっかり覚めた。今までいろいろな、体験をしてきたが、これは肉体的にも精神的にも、かなりの衝撃だった。オーラが、いつも一緒だと言っていた言葉がずっと頭の中で響いていた。
こんな不思議なことばかり起きたことで、身体が変化してきた。
睡眠中でも起きている感覚になっていること、目を覚ますと同時にすぐに頭がフル回転し様々な事を同時に始められること、とこんな感じだったが、また一段階進んだような出来事がおきた。
ずっと気になっていたあのツールアスク星を検索してみた。ツールアスクに関連した著書や専門サイトが数多く存在する事にとても驚いた。その輝くツールアスクの画像を改めて見た時だ。頭の中に何かが光った。思わず目を閉じてしまった。ゆっくりともう一度目を開け、別のツールアスク星を表示させた。また閃光が走った。今度は落ち着いて何が起きているのか頭の中全体を見渡してみた。すると中心に、あの落下する夢に出てくる見覚えのある水色と銀色のチューブではなく、【柱】として建っているのが見えた。その柱はまるで呼吸をするように光を放っている。今度はそれに触れてみることにした。《触れられる》と思ったこと自体不思議だったが、俺は指先を柱の中ほどに当てた。
グォーンと、鈍い響きと同時に何かが見えた。何だろうもう一度触れる、グォーン、見えてきたのは、俺がマミーレコードにいた時のようだ、深く意識を集中させる。
俺がミュージシャンとしてマミーレコードからデビューする直前に親父は車に撥ねられ命を落とした。俺のために買ってくれたギターをその身でかばい、抱えたまま地面へ頭から落ちた。マミーレコードではその親父の思いを歌にしてデビューした。しかし、一年たっても、三年経っても、五年過ぎてもその、《父の思いの詰まった形見のギターを抱えた【悲運のシンガー】都築ひふみ》とレッテルを貼り、いつまでもそれを売りにしていた。周りもそんな目で俺を扱っていた。俺はそれがものすごく嫌で、たまらなくなっていった。そして十年が過ぎた、ついに我慢の限界が来た。
「感動ポルノの押し売りはもう嫌だ!もうやめさせてくれ!」と俺は叫びながら、津川というプロデューサーへ辞表を投げつけていた。俺が二十八の出来事だった。記憶にあるその強烈な出来事が早送りの動画となって再生された。記憶のリプレイなのだろうか?
次に俺は、柱の根元の方を触れてみる。
看護師が生まれたばかりの俺を抱えている。
良く見ると頭部に絡まったへその緒を外しているではないか。こんな風に絡まっていたのか、すると、ここがスタートか?縦軸が時間なんだな。根元が出だしならば
上に行くほど未来なのか?、
恐る恐る最上部を触れてみる。
だが、見えたのは、俺が柱へ触れている様子を後ろから見ている、今現在の画像だった。
そうか、未来は見えないのだな。
ここで頭の中を覗くことをやめた。
これをどうコントロールすればいいのだろう。柱に触れる意識を閉ざしても、その柱は鈍い光を放っているのが見える。
おそらくこれが覚醒ということなのだろう。
俺は研究所へ行く覚悟を決めた。
《続く》




