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その日が来るまで  作者: 蔵 昭健
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ツールアスク星人

第三章 ツールアスク星人 


俺は研究所のヒューマンデバイスになる前はライブハウスもやっていて、店の二階が住まいだった。丁度一年前の六月、小雨の降る夜の事だった。

そろそろ、店仕舞いしようと思った夜の九時頃、

「一人ですけどいいですか?」と傘をたたみながら三十代半ば位の男が入って来た。

「いらっしゃい、ええ、構いませんよ」「お、降って来ましたか?」

「こちらへどうぞ」とタオルとコースター、メニューをカウンターへ置く。

「ありがとうございます」と彼はバッグを自分の席の隣へ置いてから座った。

「向うを出る時は晴れてたんですけどね」と濡れた肩先をタオルで拭いた。

「何になさいます?」と聞く

「バーボンソーダを」

「かしこまりました」

俺はBGMをジャズピアノトリオのレコードに変えた。

「お、レコードなんですね、すばらしい」と立てかけたレコードジャケットを手に取った

「お客さん、どちらからですか?」とグラスへ氷を入れながら聞く、男は間をおいて、

「遠くからです」とレコードジャケットの曲名側の方に視線を落としたまま応える。

「そうですか、遠いとなると海外ですね」と俺は言って、コースターへバーボンソーダを置いた。

「どうぞ」

そして、男は俺の聞いた事へは応ず

「ありがとう、戴きます」と言ったがグラスを眺めているだけだった。

店内にピアノトリオ演奏が沈黙を埋めるように静かに流れている、二曲目に変わった時、グラスから目を離し俺の目を見て男は語り始めた。

「都築さん」、え?なぜ、俺の名を知っている?俺の疑問をよそに、構わず話を続ける。

「あなたは生まれてすぐに、仮死状態になりましたね。我々は、地球人がそのようなときに命を助けると同時に脳の中へある情報を刷り込ませます」俺が仮死状態で生まれて来たことまでも知っている。何者なのだ。

問いただそうにも、男は喋り続けている。

「そして必要な時期が来ると、もう一段階進みます。次は脳みそ交換です。言葉は怪しげですが、地球人的な手術とはちょっと違います。我々が作った、脳のパーツすべてを使えるように、脳内の回線をちょっと変更するのです。あ、そんなに驚かないでくださいね」

驚くなっていう方が無理だ。

「まった、ちょっと、まった、まった」

俺は男の話を遮った、やっと喋るのをやめた。

「まず、どうして俺の名前を知っているんだ?」「それから、我々とはなんだ?脳みそ交換ってなんだ」今度は俺が立て続けに聞いた。

「あ、すみません、名乗りもせずに」

佐伯隆と言いますと言って持ってきたバッグからタブレットを取り出し俺に見せた。タブレットの画面には濃い藍色の背景に銀色の文字で【佐伯隆】と浮かびあがっている。その下には見たことのない象形文字のような刻印文字がいくつも並び浮かびながら回転していた。

「都築さん、我々は、先ほども言いましたが、都築さんが生まれた時からずっとあなたを見ています、そしてツールアスク星からあなたに逢うためにこの地球へやってきました」またもや、すごいことを、さらりと言っている。

「愚問だけど、佐伯さんは地球人ではないという事なんだね?見た目は同じようだけど」

「そうです。見た目が同じなのは我々のコピーがあなた方地球人ですから。覚醒したその瞬間から我々と同じ人類になるんです」

地球人がコピーだったとは、さらに驚いた。

「佐伯さん、と言う事は、今までの俺の行動は君達にコントロールされていることになるのか?」と俺。

「いいえ、違います。何も起こらない方には何もしません。静観しているだけです。ですが自発的でも偶発的でもアップデートした方へは、それに沿ったソフトを脳内へ滑り込ませていきます。アップデートのタイミングもグレードもみんなそれぞれ違います」

「ねぇ、佐伯さん、もしも俺が佐伯さんの言う通りいつか覚醒したとしよう、そのあとはどうなるの?能力は何に役立つの?」俺はそう聞いてみた。

「都築さん次第ですが、我々の機関である【ブレーン開発研究所財団】で覚醒し身についた能力を発揮することができます。本当かどうかこれから一緒に行きましょう、その研究所へ」言うが早いがもう立ち上がってこちらを促している。

「佐伯さん、ちょっと待ってくれ、俺は覚醒もしてないし、急に行きましょうと言われてもそれは無理だよ」と応えた。すると

「あ、また、やっちまった、良くボスにも言われるんです、お前はせっかち過ぎると、相手の事を良く考えてから行動しろって」と言って、頭を掻いて座り直した。

「宇宙人でも、せっかちな人がいるんですね」と言ってここで二人は初めて笑った。

 それから佐伯はツールアスク星の事を話してくれた。その星のどこの国でも、競争や差別がなく、愛で満ち溢れているという、戦争など起こりえないし、いじめのようなことなど一切ないと。

「地球と同じような星だけど、そのあたりが全く違いますね」とも言っていた。

店を出る時、「その時が来るまでお待ちしていますと」言って、上を指さし「アレで帰ります」と笑っている。

見上げると、眩しく光る球体が音もなく宙に浮かんでいる。

「ではまた」と言うと、

佐伯の身体はその光へ吸い込まれ、あっという間に飛び去った。目で追いかけたが星の中に混じり、まったく見分けがつかなくなってしまった。

店へ戻り何気なく時計を見て驚いた。

時計の針は佐伯が来た時と同じ時刻を指していたからだ。

「佐伯は、時を止めていたのか?」

これが佐伯隆との最初の出会いだった。


第四章 デルタ型飛行物体


佐伯隆と出会って、二ヶ月ほど過ぎた夏の夜、

「今から、UFO見に来ませんか?」と、ラインが佐伯隆から届いた。あのせっかちさは変わっていない。

「あの日以来だね、見に来ませんかって?すごい誘い方をするな?佐伯さん以外のアレも見られるの(笑)」と俺、

「信じられないかもしれませんが、都築さんへも逢いたいし、どうですか?」

「了解、行きます、見られたらすごいけど」などと何度かやり取りをして集合場所を教えてもらった。

「その場所なら良く知っています、では、後ほど」

俺は店を閉め、ジャケットだけ持ち南へ向けて車を走らせる。

 

 佐伯が指定した場所は市内の南側にあるスキー場だ。その敷地内、高台の一角にバブル時代には、たくさんの宿泊客で満杯になったであろう【香澄グランドホテル】がある。今、ホテルは営業をやめ、ひっそりと記念碑のように建っている。このホテルの駐車場が集合場所だ。俺は十五分ほど車を走らせ到着した。佐伯の姿が見えた。俺は車を降り、

「やぁ、しばらく」と握手を交わす。

「今晩は、都築さん、最近ここは、UFOを見に来る人達のパワースポットらしいんです」と彼の指さす方をみると、確かにテントを張って待機している人、車のリアハッチを開け双眼鏡で覗いている人たちなど十人ほど集まっていた。

「へぇー、すごいね、もう当たり前になって来たのか」と俺は感心する。

佐伯もキャンプ用の折り畳式の椅子を用意してくれていた。駐車場の東側は切り立った二十メートル程の急斜面になっていて覗き込むと雪のないゲレンデが広がっている。

視線を右、南側へ移すと、このスキー場の上級者向けの急斜面を抱える香澄岳が立っている。その姿はまるでピラミッドのようだ。この駐車場からは直線距離でおよそ一キロメートルほどだろうか?

隣に座った佐伯は

「これどうぞ」とコーヒーの入ったカップを俺に手渡しながら、

「あの香澄岳の頂上をよく見ていてくださいね、雲がかかっていますけど」と、付け足した。確かに頂上付近には雲がある、見えづらいかもしれない。

と突然、佐伯が

「ほら、出ましたよ」

彼の指さす方を見る。丸い光が見えた。

佐伯が乗って来た宇宙船と同じ丸い光だ。

湧き上がって東側へ移動している。

その光を見失わないように追いかけていると

「また、でた、おぉー 次々やってきますよ、今夜は、まるで都築さんを待っていたかのようですね」

佐伯は隣で、やや興奮気味に飛行物体を指さしながら俺に言ってくる。

俺は目がなかなか追い付かず、それでも佐伯の指さす方を必死で追う。確かに、山の頂上から、フッと湧いては、東へ移動している

続けざまに湧きあがって東へ移動して行く。わずか十秒足らずで、頂上から東側へ二十機ほどの、連なりが出来ていた。それぞれの速度はバラバラだが、とても高速なのが見て取れた。

「ね。見られたでしょ」と佐伯は俺の方をみて笑顔で言った。そして、小声で、

「でもね、あのUFOは、すべて地球で製造されているのですよ」と、またまた驚くべき事を言っている。

「地球へ我々が不時着した時からもうそれは始まっていたんですよ、不時着された国では、その情報も開示していますから、間違いのないことです」と立て続けに相変わらず、すごいことを言う。

「そうか、地球製のUFOか、正直驚いた。」

そのメイドインアースのUFOたちは東へ移動しながら、現れては突然消え、また現れる事を何度も繰り返し、最後の一機がフッと消え、今夜のUFOショーはお開きとなった。

「また、いつでも気が向いたら見に来てみたらいいですよ、それから最近ではもう未確認と呼ばないらしいですよ、だって今夜のように誰でも目撃して確認しているから」

佐伯はいつもの笑顔でそう言う。

そして、

「僕はもう少しここへ残って、誰もいなくなった頃、いつものアレで帰りますから」と言った。

「ふふふ」と俺は笑って車に乗りこみ駐車場の坂を下りながら、なるほど、もう未確認ではないよな。と、呟いていた。


それから、一ヶ月後の九月、例のホテルの駐車場にいた。今夜は一人だ。

ホットコーヒーと椅子を用意してその時を待った。ほどなくそれは現れた、最初の時と同じように、頂上から三機ほど湧き上がった、前回よりも大きく見えた。そのうちの一機が、西側へつまり俺の方へ方向転換して向かってきた。思わず椅子から立ち上がる。

ものすごい速さだ、約一キロメートル離れている距離を十秒足らずで移動してもう目の前にいる、近くに来て初めて分かったが、ずっと球形か円盤型と思っていたが、正三角形、デルタ型と呼ぶらしいが、そのタイプだった。飛行物体は七階建てホテルの上、高さおよそ二十メートルの距離まで下降してきた。ホテルの上を通過すると同時に九十度変え北側へ進路をとった、そこでますます俺との距離が近くなった。もう手の届くような位置にそれはいる。しかし、こんな時、何もできなくなるものなんだ、もう頭上にいるそのデルタ型の機体をただただ口を空けて見てることしかできない、ジーンズの後ろ側のポケットにはスマホもあるというのに撮影することにも気が回らない。

肉眼で、はっきりと下面の形が見えている。アルミ合金のようにも、またバイクのエンジンヘッドのようにも見える。デルタ型の真ん中は大きな穴が空いていてそこから幾何学模様のレリーフが底一面に広がり三個所の角の頂点へ伸びている。その三個所の頂点では飛行灯のようなものがとてもまぶしい光で青、赤、白色と色を変えながら点滅している。

よく話に出てくるような、その中央の穴から光線が出て駐車場の車を持ち去るとか、その光の中を異星人が降りてくる、何てことも、残念ながら全く起こらなかった。

飛行物体は無音状態で頭上に浮かんでいる。落ち着いて耳を澄まして集中してみても、エンジン音や噴射音、機械音など一切しなかった。どんな方法で飛行しているのだろうか。などと考えているうちに飛行物体は離れてゆく、決して逃げ去るような速さではなく、自転車で普通に漕ぐような速さで、確実に俺からどんどんと北へ向かって遠ざかって行く。機体の姿を肉眼で確認できる限界まで追いかけていたが、とうとう見えなくなってしまった。

帰りの車の中、目の前で起こったことをずっと考えていた。こちらへ向かってきたという事は、向うからこちらは見えていたことになる。デルタの横と底しか見えないから上側には窓らしきものがあるのかもしれないが、見えた範囲では窓のようなものも一切なかった。赤外線センサーのようなもので見ているのか、どこかにカメラが装着されているのか、そして、何のために飛行しているのか、たくさんの疑問が持ち上がってくるが、考えても答えは出るはずもない。答えはあのデルタ型飛行物体だけが知っているのだから。


《続く》

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