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【完結】このたび、雑草メイドは冷酷殿下の毒見役になりまして  作者: 葉南子@「ツキヨム」コン大賞受賞
第二章 毒見役、成人

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第15話 厨房でのひと時


 それからさらに数日。桜の花びらも散って、庭では緑が色濃く芽吹きだしている。風もようやく春らしくなってきた、そんな頃。

 

 リゼッタは変わらず、毒見役とメイドの業務に明け暮れていた。サマンサがメイドたちに何か言ったのか、あれから直接的な嫌がらせをされることはなくなっていた。

 ヴィルフォードも相変わらず口数が少なく、いまだに感情の流れはよくわからない。けれど、悪い人ではないことははっきりしてきていた。

 

 リゼッタの体調もすこぶる良好だ。きちんと栄養を取るだけで、こんなにも身体の動きが変わるとは思わなかった。頭の回転も、以前より早くなった気がする。

 これも、毒見役になれたおかげだろう。ヴィルフォードには頭が上がらない。それに、食事はいつも絶品だった。いまだに舌が未知の味に驚いているくらいだ。ひと口食べるごとに美味しさを噛み締めて、内心で悶えていたのだった。


 .。゜:*:✼.。


 その日の昼前、リゼッタは厨房で洗い物に追われていた。


「よ、リゼッタ」


 背後から聞き慣れた声がかかる。振り返ると、キースが大きな体を揺らしながら近づいてくるところだった。


「キースさん、おはようございます」

「おはよう。今日も頑張ってるな」

「キースさんも、朝食のスープ美味しかったですよ。身体に染みました」

「まあな」


 にこりと笑った彼の目尻に、わずかにしわが寄った。三十代前半くらいの、大柄な男性。けれど威圧感はまったくなく、どこか安心感のある雰囲気を持ち合わせている。リゼッタにとっては、親しみやすい近所のおじさん的な存在であった。

 

「いやあ、いまだに信じられねえよ。野草食って出汁がらスープで(しの)いでたメイドが、まさか毒見役になるなんて」

「人生何があるかわかりませんよね」

「まったくだ。でもよかった、顔色もだいぶマシになったみたいだしな」

「ここまで頑張れたのも、キースさんのおかげですよ」

「お、嬉しいこと言ってくれるね」


 キースが照れたように鼻の頭をかいた。

 思えば、毒見役になったあの日も真っ先に厨房へ向かったのだった──。


 

「今日から毒見役になりました! だから、出汁がらはもう大丈夫そうです。今まで分けてくださって、本当にありがとうございました!」


 勢いよく頭を下げたリゼッタを、キースは笑い飛ばした。


「毒見役か! 庭園に生えてる草に毒がないか見て回るなんて、リゼッタらしいな」

「違います。殿下の毒見役です」

「……マジ?」

「マジですよ」


 リゼッタの顔をまじまじ見つめるキース。彼女の茶色い瞳はいつも通りまっすぐで、嘘をついている様子はまるでない。


「……本当に、マジか」

「本当に、マジです」


 キースはしばらく黙って、それから口を大きく開けて豪快に笑った。


「大したもんだ。まあ、安心してくれ。俺が毒を入れることなんてないからさ」

「知ってますよ! キースさんが自分の作った料理に、そんなことするわけないじゃないですか」

「わかってるじゃん、可愛いやつめ」

 

 ぽんぽんと頭を撫でられる。やっぱり、近所のおじさんみたいだ──と、そのときも思った。


 一通りの洗い物を終えたリゼッタは、食器の吹き上げにとりかかる。

 

「今日の昼食も楽しみにしてますからね」

「お前、毒見っていうより、ただ飯食いに行ってるだけだろ」

「バレました?」

「バレバレだよ」


 キースが呆れたように笑う。リゼッタもつられて笑った。「頑張れよ」と大きな手がぽんと肩を叩いて、キースは厨房の奥へ戻っていった。

 

 さて、と気持ちを切り替える。

 昼食の毒見まで、あと少し。リゼッタは手元の食器に視線を落としながら、頭の中で手順を逆算した。窓の掃除、花瓶の水替え、残りの洗濯物を干す──よし、間に合う。

 無駄のない動きで、休まず動き続ける。やがて、ほぼ予定通りに業務を終えたリゼッタは、西棟へ向かった。

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