決闘!
試合当日。
会場中央。
巨大な円形闘技場は、朝から満員だった。
観客席にはサクスの貴族や軍人だけでなく、ヒノクニの使節団、シュバルツライヒの随員、各国から訪れた視察団の姿も見える。
闘技場中央には二機の鉄騎が向かい合うだけの広さを持つ石畳が広がっていた。
外周には安全確保のための分厚い防壁。
さらにその外側には予備の整備班と救護班が待機している。
場内に鐘の音が響く。
ゴォン――。
続いて、司会役の軍将校が中央へ進み出た。
拡声器を通した声が、闘技場全体へ響き渡る。
「これより、サクス王国・シュバルツライヒ帝国親善試合、第一試合を開始する!」
大歓声が上がった。
「まずはシュバルツライヒ代表!」
格納庫側の巨大な門がゆっくりと開く。
黒い鉄騎が一歩、また一歩と姿を現した。
飾り気のない黒い装甲。
見慣れない大型兵装が装備されている。
会場がどよめく。
「代表機、入場!」
鉄騎が停止すると、紹介が始まる。
「シュバルツライヒ帝国代表!」
「鉄騎乗り――ミア!」
黒い機体の頭部装甲に朝日が反射する。
「幼少より鉄騎操縦の才を示し、数々の決闘を制覇!」
「その実力のみをもって現在の地位を勝ち取った実力者!」
「シュバルツライヒ国内決闘、無敗!」
「帝国最強の鉄騎乗りとして、本試合へ臨む!」
シュバルツライヒ席から歓声が上がる。
「ミア様ー!」
「勝てー!」
「帝国最強!」
ミアはコクピットの中で小さく笑う。
「応援されると頑張っちゃうなぁ」
一方。
サクス側の門もゆっくりと開いた。
現れたのはデューク。
他の鉄騎とは明らかに異なる輪郭。
長い頭部アンテナ。
独特の威圧感。
その姿を見た瞬間、場内が静まり返る。
デュークは一定の速度で中央まで歩き、停止した。
司会が声を張る。
「続いて!」
「サクス王国代表!」
「鉄騎乗り――ハイド!」
観客席から大きな歓声が上がる。
「ハイド!」
「デュークだ!」
「王国代表!」
司会は続ける。
「王立学園所属!」
「これまで公式決闘、無敗!」
「ヒノクニ皇帝クニヒトとの代表決闘にも勝利!」
「その戦績をもって王国代表に選出された!」
「迎え撃つは、王国が誇る無敗の鉄騎乗り!」
奴隷だった過去には、一切触れられない。
紹介されるのは現在の実績だけ。
女王自ら選んだ代表。
無敗の鉄騎乗り。
それが今のハイドだった。
観客席ではマリーが手を振っている。
「ハイドー!」
アルノーは腕を組んだまま小さく笑う。
「いつの間にか、本当に王国代表って呼ばれるようになったな」
クニヒトは貴賓席で腕を組み、静かにデュークを見つめる。
「面白い」
「今度は余ではなく、異国最強との勝負か」
その隣ではイーリスが、デュークから送られてくる各種情報を無言で確認していた。
二機の鉄騎は闘技場中央で向かい合う。
互いの距離、およそ五十メートル。
ミアは通信を開く。
「やっと話せる」
ハイドも通信を返す。
「試合が終わってからって約束だったしな」
「うん!」
ミアは笑った。
「だから」
「今は全力でいく」
ハイドも操縦桿を握り直す。
「俺もそのつもりだ」
審判役の鉄騎が両者の中央へ歩み出る。
左右を確認。
武装確認。
安全装置確認。
そして高く旗を掲げる。
「双方、準備完了!」
「親善試合!」
「開始!」
旗が勢いよく振り下ろされた。
その瞬間。
黒い鉄騎とデュークが、ほぼ同時に地面を蹴った。
開始の合図と同時。
デュークが前へ踏み込む。
だが。
ミア機は真正面から来なかった。
「……!」
黒い鉄騎は斜めへ滑るように移動する。
一定の距離。
近すぎず。
遠すぎず。
決してデュークの間合いへ入らない。
観客席からも、その動きにどよめきが起こる。
「あの距離を維持している……」
「速い」
「いや、速いだけじゃない」
「距離を測ってる」
ミアは照準を合わせた。
「まず一本」
銃のような武器を構える。
円筒状の弾倉。
短い弓身。
そして太い矢。
ドラム式ダートボウ。
バンッ!
乾いた音。
矢が一直線に飛ぶ。
ハイドは反射的に左へ回避。
一本目は外れる。
しかし。
「二本目」
バンッ!
「三本目」
バンッ!
「四本目」
連射だった。
普通の弓とは違う。
照準をずらしながら次々と射撃してくる。
「速い!」
ハイドは舵を切る。
デュークが身体をひねる。
避ける。
だが。
四本目。
ガンッ!!
右肩へ命中。
鈍い衝撃が機体全体へ走る。
警報。
「右肩部損傷」
「右肩装甲喪失」
「右腕駆動系、一部異常」
デュークの右肩装甲が吹き飛び、破片が闘技場へ散らばった。
観客席がざわめく。
「当てた!」
「デュークに!」
「開始早々!」
ハイドは歯を食いしばる。
「こんなに正確なのか……!」
ミアは距離を変えない。
追わない。
離れすぎない。
一定の円を描くように走る。
そしてまた照準を合わせる。
「次」
イーリスは後方補助席から静かに状況を見ていた。
視線は戦場ではない。
数値。
速度。
照準。
回避軌道。
弾速。
すべて解析している。
数秒後。
結論が出た。
「ハイド」
「何?」
「現状維持では勝率が低すぎます」
ハイドは前を見たまま答える。
「分かってる!」
「相手が思ったより速い!」
「訂正」
イーリスは冷静だった。
「問題は速度ではありません」
「射撃統制能力です」
「あなたは相手の照準予測に負けています」
また一発。
ダートが飛ぶ。
ハイドは間一髪で避ける。
地面へ突き刺さった矢が石畳を砕いた。
イーリスは続ける。
「このままでは敗北します」
その口調には焦りがない。
ただ事実だけを告げる。
「ハイド」
「操縦権限の一時移譲を要求します」
ハイドは一瞬だけ固まる。
「……え?」
「デュークの操縦権限です」
「現在の状況では勝率が低下しています」
「私が操縦を担当します」
また矢が飛ぶ。
デュークが横へ跳ぶ。
間一髪。
「急いでください」
「時間がありません」
ハイドは前を見たまま叫ぶ。
「できるのか!?」
「可能です」
「デュークは現在あなたを正規操縦者として認識しています」
「あなたの承認があれば、一時的な補助操縦権限を取得できます」
また一発。
今度は左脚のすぐ横へ突き刺さる。
あと数十センチずれていれば命中していた。
「承認してください」
「私は補助席から同期できます」
ハイドは息を呑む。
目の前ではミア機が再びダートボウを構えている。
その照準は、迷いなくデュークを捉えていた。




