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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
サクスへの帰還

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脅威分析

朝。

学園にまだ朝靄が残る時間。

ハイドは教室へ入ろうとしたところで、職員に呼び止められた。


「ハイド君」


「はい?」


「王命です」


その一言で、教室の空気が変わる。

マリーもアルノーも思わず振り返った。

職員は一枚の封書を差し出す。


「本日より親善試合の準備に参加してください」


「会場へ向かっていただきます」


ハイドは封を切る。


中には簡潔な命令書が入っていた。


『王命』


『親善試合会場へ移動』


『デュークを同行させること』


『イーリスも同行』


『試合まで会場内で待機』


それだけだった。


「授業は?」


「公欠扱いです」


「分かりました」


職員は一礼して去っていく。

アルノーが肩をすくめた。


「最近のお前、公欠ばっかりだな」


「好きで行ってるわけじゃない」


マリーが少し笑う。


「でも親善試合、楽しみですね!」


イーリスだけは淡々としていた。


「準備を開始します」


数十分後。

デュークは学園格納庫を出発した。

いつもの歩行速度。


イーリスはハイドの後方座席に座っている。


王都を抜け。

さらに郊外へ。

広大な平原へ出る。


そこでハイドは思わず息を呑んだ。


「……でかい」


目の前には巨大な施設が広がっていた。

石造りの観客席。

何万人も収容できそうな円形闘技場。


その外周には鉄騎専用の巨大格納庫。


整備施設。

補給庫。


各国の旗が掲げられている。

ハイドは思わず見回した。


「こんなのあったんだ」


イーリスは前を見るだけだった。


「あります」


「知ってたのか?」


「はい」


「なんで言わなかったんだ?」


「聞かれませんでした」


それだけだった。

ハイドは苦笑する。

イーリスらしい。


デュークは指定された格納区画へ向かう。


周囲には見慣れない鉄騎も並んでいた。

サクス量産型。

陽光。


そして。

見覚えのない黒い鉄騎。

重厚で、静かな威圧感だけがある。


「……あれか」


ハイドは小さく呟いた。


デュークが停止する。

コクピットが開いた。

ハイドとイーリスが降りる。


その時だった。


向こうの黒い鉄騎からもコクピットが開く。

小柄な少女が飛び降りる。

ミアだった。


「おー!」


彼女はハイドを見つけるなり笑顔になる。


「お前がハイド?」


距離を縮めようと歩き始める。

その途中。


一人の男が前へ出た。

アダムだった。

長身。


痩せた体格。

軍服姿。

彼は静かにミアの前へ立つ。


「ミア」


「えー?」


「今は駄目?」


「駄目です」


「どうして?」


アダムはハイドへ一礼だけしてから答えた。


「交流は試合後です」


「今親しくなれば」


「情が移ります」


ミアは首を傾げる。


「情?」


「はい」


「相手を知れば知るほど」


「無意識に手加減する可能性があります」


「あるいは」


「逆です」


「迷いなく攻撃できなくなる」


ミアは少し考える。


「……なるほど」


アダムは続けた。


「我々は親善試合に来ています」


「ですが」


「試合そのものは真剣勝負です」


「互いに全力で戦うことが」


「最も誠実な交流になります」


ミアは少し残念そうに笑った。


「じゃあ終わってから!」


「その時はいっぱい話そう!」


ハイドも軽く笑う。


「ああ。」


アダムは満足そうに頷いた。


「それで結構です。」


イーリスは終始無言だった。

ミアはその姿をちらりと見る。

人間。


そう見える。


しかし報告書には半生体機械と記されていた。

実物を見ても違和感がない。

だが今は何も言わない。


アダムの言葉通り。


交流は試合が終わってから。

互いに距離を保ったまま、それぞれの格納区画へ戻っていく。


広大な会場には、各国の整備兵や技術者が慌ただしく行き交い、親善試合の開始に向けた最後の準備が静かに進められていた。


親善試合会場。

サクス側控室。

ハイド、イーリス、マリー、アルノーの四人は、試合開始までの時間を利用して簡単な打ち合わせをしていた。


机の上には各国の旗と参加名簿だけが置かれている。

肝心の対戦相手の資料は、ほとんど存在しなかった。

ハイドは紙をめくる。


「……これだけ?」


「名前しかない」


アルノーも苦笑する。


「向こうも同じだろうな」


「親善試合だから機密は出さない」


イーリスは静かに資料を閉じた。


「情報不足です」


マリーが尋ねる。


「そんなに分からないものなの?」


「はい」


イーリスは迷いなく答えた。


「シュバルツライヒで運用されていた旧文明製鉄騎は、外観上の差異が非常に少ない傾向があります」


ハイドが首を傾げる。


「見分けがつかないってこと?」


「正確には」


「世代判別が困難です」


イーリスは机に紙を一枚置いた。


そこには横から見た鉄騎の簡単な輪郭が描かれている。


「例えばサクスでは」


「世代が変われば頭部形状や四肢の形状が変化しています」


「そのため外見だけでもある程度性能を推測できます」


「しかし」


紙を裏返す。


「シュバルツライヒ系統は違います」


「世代が異なっても基本設計を維持しているため、外観のみで性能を判断することが困難です」


アルノーが腕を組む。


「つまり」


「古そうに見えて最新かもしれない」


「逆もあり得るということか」


「その通りです」


イーリスは頷いた。


「装甲内部」

「関節」

「出力」

「制御系」


「これらが更新されていても外観はほぼ変化しません」


マリーは少し不安そうな表情になる。


「じゃあ戦うまで分からないんですね」


「はい」


短い返答だった。


ハイドは窓の外に停められている黒い鉄騎を眺める。


黒い装甲。

直線的な輪郭。

特徴らしい特徴がない。


「確かに」


「何も分からない」


イーリスも同じ方向を見る。


「さらに」


「最も警戒すべき可能性があります」


部屋の空気が少しだけ張り詰める。


「デュークと」


「同時期に開発された系列である可能性です」


ハイドがイーリスを見る。


「そんなに違うのか?」


「はい」


「デュークは現行鉄騎より一世代以上先進的な構造を持っています」


「もし相手も同等世代であれば」


ほんの僅かに間を置く。


「苦戦を強いられる可能性があります」


アルノーが真剣な顔になる。


「今までみたいな性能差は期待できないか」


「その可能性があります」


イーリスは続けた。


「未知の兵装」


「未知の制御方式」


「未知の出力」


「現時点では全て未確認です」


ハイドは黙って外を見る。

黒い鉄騎は静かに格納されたまま動かない。


「……だから親善試合なんだな」


「相手を知るための」


イーリスは肯定した。


「はい」


「技術交流とは」


「技術観察でもあります」


「戦闘結果そのものより、相手が何を持っているかを知ることに価値があります」


マリーは窓の外を見つめながら呟く。


「向こうも」


「同じことを考えてるんでしょうね」


「はい」


イーリスは即答した。


「こちらを観察していると考えるべきです」


控室にはしばらく静寂が流れた。

誰もまだ黒い鉄騎の本当の実力を知らない。


そして相手もまた、デュークという未知の鉄騎を前に、同じように警戒を深めているはずだった。

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