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炭鉱奴隷の俺が古代兵器「鉄騎」の力で成り上がる  作者: お湯0uy2
サクスへの帰還

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束の間の平穏


最近ハイドは妙に平和だった。


「……静かだな」


昼休み。

食堂。

ハイドはパンを齧りながら呟いた。


以前なら。


廊下を歩けば視線。

食堂へ行けば決闘申請。

校庭へ出れば挑発。


そんな日常だった。

だが。

今は違う。


誰も来ない。

妙に平和。

アルノーが笑う。


「まぁ当然じゃない?」


「何が」


「クニヒト」


即答だった。

マリーも苦笑する。


「完全に流れ変わりましたよね……」


実際そうだった最初。

学園貴族たちはクニヒトを少し舐めていた。


ハイドに負けている。


その事実だけ見て。

だが。


実際に決闘を見て認識が変わった。

強い。


しかも異常な方向で。


関節破壊。

武器切断。

姿勢崩し。


力押しではない。

技術で壊す。

結果。


「……あれに勝ったハイドって何なんだ?」


という空気になった。

ハイド本人は納得していない。


「いや、あれはデュークが――」


アルノーが遮る。


「皆そこまで見てないんだよ」


「う」


実際に観客から見えるのは結果。

ハイド勝利。

それだけ。


しかも。


クニヒト本人が普通にハイドを高く評価している。

それが余計に効いていた。

マリーが言う。


「最近、“ハイドへ挑むくらいならクニヒトの方がまだ勝ち目ある”って言われてますよ」


「それ勝ち目あるのか?」


「ありません」


即答だった。

ハイドが頭を抱える。


「なんでこうなるんだよ……」


すると。

後ろから声。


「うむ!」


クニヒト本人だった。


「実に良い傾向だ!」


「お前のせいだよ!」


クニヒトは機嫌が良い。

最近ずっと良い。


理由は単純。

決闘が大量に来るから。

対してハイドは減った。


完全に役割分担が起きている。


「最近は我ばかり忙しい!」


「知らねぇよ」


「其方ももっと戦え!」


「嫌だよ」


クニヒトは不満そうだった。


「何故だ」


「面倒だからだ」


「勿体ない」


イーリスが静かに補足する。


「現在、学園内ではハイドの評価が危険領域へ入っています」


「危険領域ってなんだよ」


「“勝てない相手”です」


ハイドが嫌そうな顔をする。


「最悪だ……」


アルノーが笑う。


「まぁ実際、クニヒトが強すぎた」


クニヒト本人は頷く。


「うむ」


否定しない。


「だがハイドはその我へ勝った」


だから。

周囲の認識はこうなる。


クニヒト=超強い。


ハイド=それより上。


非常に迷惑だった。

マリーが少し困った顔で言う。


「でも最近、本当に視線変わりましたよね」


以前は侮り。

今は警戒。

あるいは恐怖。


特に決闘経験者ほど露骨だった。

クニヒトの戦いを見た者は理解する。

あれへ勝つという事の異常さを。


ハイドはパンを齧りながらぼやく。


「なんか納得いかねぇ……」


イーリスが即答する。


「事実なので問題ありません」


「いやデュークの補助がだな……」


「デュークもハイドを選択しています」


「それ言われると弱い」


クニヒトが笑う。


「良いではないか」


「他人事だと思って」


「他人事だからな!」


楽しそうだった。

一方。

遠くの席。


ルートヴィヒは静かにその様子を見ていた。

以前なら。

ハイドへ挑もうとする者は多かった。


今は違う。

皆、理解し始めている。


デューク。

ハイド。

そして。


あの異国皇帝。


自分たちが見ていた鉄騎戦とは、何か根本的に違う領域があるのだと。


放課後。

学園格納庫。

陽光の整備が終わるのを待ちながら、クニヒトは格納庫脇のベンチへ腰掛けていた。


珍しく一人だった。


周囲では整備員たちが作業している。


金属音。

工具音。

油の匂い。


そんな中。

クニヒトはふと、サクスへ来て最初の大きな戦いを思い出していた。


ハイドとの決闘。


国を賭けた代表決闘。

今思い返しても面白い戦いだった。


「……ふむ」


誰もいないので独り言になる。


「あの時は危うかったな」


危うかった。

だが。

自分が負けるとは思っていなかった。


少なくとも最初は。

実際、序盤はかなり思い通りに進んでいた。

まず。


デュークの装備。

あの巨大な馬上槍。

クニヒトは今でも同じ感想を持っている。


「邪魔そうであった」


率直だった。

陽光とデュークでは思想が違う。


陽光は軽い。

速い。

動くための機体。


対してデュークは重い。


そしてあの巨大な槍。

あれが付いた瞬間、さらに重い。


実際。


戦闘開始直後。


クニヒトはあの槍をかなり警戒していた。

だが。

すぐに考えを変えた。


当たらない。

少なくとも自分には。

だから途中からは槍ではなく、本体を狙い始めた。


「槍は脅威ではなかった」


むしろ問題は別だった。

盾。

あの巨大な盾。


クニヒトは少し目を細める。

戦いの光景を思い出していた。

刀が盾へ突き刺さる。


深く。

深く。

想定以上に。


そして。


その時に見えた。


刃の入り方。

装甲への食い込み方。

金属の裂け方。


「……あれは」


静かに呟く。


「斬れていたな」


確信だった。

もし。

あの一撃。


盾ではなく。


直接デュークの腕へ入っていたら。

結果は違った。


腕部装甲。

内部フレーム。

駆動機構。


まとめて両断できていた。


少なくとも戦闘継続は不可能だったはずだ。

だから。


クニヒトは負けた今でも思っている。

盾は必要だった。


あの装備選択は正しい。


「王は正しかったか」


女王シャルロット。

決闘前。

デュークへ盾を与えた。


あれが勝敗を分けた。


もし槍だけなら。

もし盾がなかったなら。


自分が勝っていた。


その認識は今でも変わらない。

だが。


だからといって納得していない訳でもない。

決闘とはそういうものだ。


使える物を使う。

備える。

想定する。


それも技術。

それも戦術。


だからクニヒトは不満を持っていない。

むしろ。


「面白かった」


自然に笑う。

実際。


あそこまで楽しめた戦いは久しぶりだった。

ヒノクニではまずない。


皆、自分を知っている。


だから挑まない。

挑んでも勝てないと分かっている。


だが。


ハイドは違った。

強い。


というより。


予測不能だった。

特に終盤。

刀を投げた後。


あの体当たり。


クニヒトは今でも少し笑う。


「普通はやらぬ」


あれは技術ではない。

経験でもない。

極めて単純な発想。


重い方がぶつかれば強い。

ただそれだけ。


しかし。


実際に効いた。

だから面白い。

そして。


最後。


補助パワーシリンダーを失った陽光。

出力不足。

力負け。


肩を掴まれた時点で流れが変わった。


「惜しかったな」


呟く。

あと少し。

本当にあと少しだった。


だが。


だからこそ価値がある。

圧倒的勝利より。

ぎりぎりの敗北の方が学ぶ事は多い。


クニヒトは格納庫天井を見上げた。


「次はどうなるか」


その声には期待があった。

今度は学園。


異国。


知らない技術。

知らない機体。

そして。


ハイド。

デューク。


まだ見ていないものが沢山ある。

だから。


負けても悪くない。

そう思えるのだった。

その頃。


整備班は別の意味で頭を抱えていた。


「殿がまた決闘の事考えてるぞ」


「目がそうですね」


「嫌な予感しかしない」


「来週の整備予定空けときますか」


「空けとけ」


彼らだけは、クニヒトの成長や感慨よりも、次に壊れる部品の方を心配していた。

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